プーチン大統領がトランプ大統領当選に祝意を示し「新しい世界秩序が作られようとしている」とに認識を示した。新しい世界秩序とは武力による現状変更と領域外に対する無関心が共存する世界だが、中国もおそらくは新しい世界秩序を歓迎することになるだろう。台湾への関心は薄まりヨーロッパとの貿易が再び盛んになる可能性がある。
日本はこのままアメリカについて行くか新しい世界秩序を受け入れるかの選択を迫れることになるだろうが、おそらくどちらも選ばずただ流されてゆくことになるだろう。
プーチン大統領がトランプ次期大統領の当選を祝福し「新しい世界秩序が形作られている」との認識を示したとABCニュースが伝えている。プーチン大統領は自分から連絡することはないと言っているが「連絡が来た場合には対話の用意がある」と上機嫌である。
ではプーチン大統領の言う新しい世界秩序とはどのようなものだろうか。共同通信はウォール・ストリート・ジャーナルの報道を引用する形で次のように書いている。
- トランプ大統領はバイデン路線を拒絶・否定
- 前線を固定化(つまりロシア侵攻を肯定し2割の不法占拠を容認)
- ウクライナのNATO入りを今後20年間はブロック
- 見返りとして「十分な兵器」を供給
この提案を見て「良い提案だ」と考える人も多いのではないかと思う。日本では反知性的な立場からトランプ氏の提案を現実路線だと歓迎する人も多い。ただ歴史的に見ればこれはウクライナから核兵器を取り上げた曖昧なミンスク合意に似ている。西側は十分な支援を約束したがこれは口約束であり結果的にロシアのウクライナ侵攻を招くことになった。
ドイツでも連立政権が崩壊し本格的予算の成立が難しくなっている。当面暫定予算で凌ぐことになるためウクライナ支援の増額は難しいだろう。何よりもドイツでも「ウクライナより自国の経済対策」という声が高まっている。ウクライナに対する国際世論の変化は我々が思っているよりも早く転換する可能性がある。
プーチン・トランプの世界新秩序はおそらく「大国が時には武力を使って自分たちの野望を満たすこと」を厭わない世界である。自分の権益の外の問題には関心を寄せないという新しい「ブロック型の帝国主義世界」だ。
ただしこうした新しい世界秩序によって利益を得る国もある。その代表格が中国である。トランプ氏は「関税は私の辞書の中で最も美しい言葉」と言っている。中国はアメリカ市場は失うだろうがヨーロッパ(同じように関税でアメリカ市場から締め出される可能性がある)と結びつく機会が得られる。また、新しい帝国主義のもとでは台湾(トランプ氏は「半導体の仕事をアメリカから奪った国」と認識している)も中国の権益ということになり習近平国家主席にとっては好都合である。
結果的に世界権益を諦めて関税と移民排斥より国民がインフレに苦しむ「パックス・アメリカーナの終わり」が見えてきたことになるが、アメリカの国民は大して気にしないかも知れない。
トランプ氏は不法移民を大量強制送還する準備に入った。予算はいくらかけても構わないと言っており武力を使った執行もほのめかしている。国民の敵意を「経済」から「不法移民」に振り向けたい。経済政策に行き詰まった国ではよく見られる光景である。
1798年制定の戦時法の適用もほのめかしているという。これはフランスとの間に「擬似戦争」があったときに言論の自由を制限した法律なのだそうだ。
トランプ氏は迅速な強制送還実施のため、1798年制定の戦時法「適正外国人法」の適用も示唆している。ただそうなれば妥当性を巡る法廷闘争に発展することがほぼ確実視されている。
トランプ氏、不法移民を大量強制送還する公算大=米調査
アメリカは言論の自由や財産の自由を擁護する国というイメージがあるが、時々「民意」を受けた議会が特定の人々を迫害することがある。第二次世界大戦に際しては日系人も財産を奪われ強制収容所送りになった。当時敵国であった日本とつながる可能性があるとされたのだが、所詮はいわれのない差別だった。
すでにアフリカ系の人たちのもとには「綿花を詰め=奴隷にもどれ」という脅迫が送られているそうだが、こうした言論もガス抜きに利用され「言論の自由」のもとに取り締まられることはないだろう。
このように「内なる敵(enemy within)」に目を向けさせるやり方は今後4年間増えてゆくことだろう。
カリフォルニア州ではニューサム知事が「法廷闘争」に向けて準備を進めている。
日本では石破総理のゴルフの腕前や性格が折り合うかどうかなどが盛んに議論されているが、もはやそんなことはどうでもいい。アメリカ国内の経済の不安を背景にして一夜にして大きく価値観が入れ替わっており今後大きな波になって日本に何度も押し寄せてくることになるだろう。
ただ日本にはこうした英語のニュースはあまり入ってこない。また人々は大局観を持たず眼の前の損得に一喜一憂し、強いものにより強くしがみつく傾向もある。変化に対してまとまった意思決定はできず、ただ流されてゆくことになるのかもしれない。