洋服が売れない。売れない理由は生産がアイテム単位で組み立てられているからだという話を書いている。最近ではAIを駆使して売れそうな洋服をお勧めするサービスが出てきているそうだ。
そこでどのようなお勧めサービスが考えられるのかということを調べてみた。レコメンデーションサービスなどとも言われる。基本的には過去のユーザーの履歴から、購買情報を予測するというものである。条件が複雑になっても対応できるようにさまざまな数式が考案されている。
この際にユーザーをグルーピングして(簡単なアンケートを取る)おくと予想制度があがると考えられている。グルーピングのことをクラスタリングと呼ぶ。クラスタは自動的に作られる。
ここまで調べると、アパレル各社の限界が分かってくる。アパレル各社はアイテムを作っているだけなので、ユーザーが何を持っているかを把握することはできない。また、各社が何を作ってくるかということも予測は不可能である。
デパートはスタイルの提案とトラフィックの創造という機能を果たしていた。デパートに行けばトレンドが分かるということをみんなが知っていたのだ。ところが情報が氾濫しユニクロのような競合ができたことで、デパートの不動産効果はなくなってしまった。これがいわゆる「アパレル崩壊」につながっていると考えられる。アパレル各社はそれでも市場に品物を供給し続けて最終的に砂山の崩壊が起こった。
ユーザー情報を捕捉ができるのがオンラインショッピングサイトの利点だ。オンラインショッピングサイトはいくつかの手法を通じてユーザーを分類することができる。たとえばきれいなスタイルが好きなのか、ロック調が好きなのかということを調べることができる。同じような嗜好を持っている人たちの行動はあらかじめ分かっているので、それに沿ったスタイルが提案できるのである。
この仮想のオンラインショッピングモールには提案という機能がない。デパートはユーザーの嗜好をネグっていたのだが、仮想のオンラインショッピングは提案をネグっている。
実際には純粋なAIによる提案というのは行われていない。たとえばファストファッションなどでは世界各地にデザイナーを派遣して、いったん人のフィルターを通した上で新しい製品を作っている。現在には実地で調査したほうが便利なのだろう。WEARはこの機能をユーザーに任せている。コーディネートを作るのは人工知能ではなくユーザーだ。人気のあるユーザーのコーディネートが参考にできることになっている。
このように、ニッチによって入手可能な情報は異なっている。これをすべてコーディングすることはできないので、実際には人の手を介したほうが早い。
たとえば個人で服をチョイスする場合、アイテムの相関から機能するルールを抽出することはできない。情報が限られる上に、ひとつのアイテムが複数の機能を持つ(ネルシャツはインナーになり、ボタンをあければアウターとしても機能する)のでコーディングが難しいからだ。実際にグラフを作っても意味不明になってしまい、アプリオリを使ってもルールは抽出できない。
実際には人の目でファッション雑誌を閲覧して関係しそうなデータを集めていったほうが早い。ITが役立つのは結果をストアして情報を整理するときだ。特に男性服の場合にはルールは予め決まっている。色と形である。これをスタイルとしてまとめて複数のワードローブを作ったほうが手っ取り早い。たとえば写真をクリッピングする仕組みがあれば事が足りてしまうのだ。この程度であれば自作も簡単だし、Pinterestを使うこともできる。
純粋なAIでは膨大なデータからルールを抽出するのだが、実際にはルールを先に決めておいて、膨大なアイテムの検索条件にしたほうが早いということになる。
たとえば、左図のようなルールはAIでも抽出できるわけだが、実際には人が作ったほうが早い。このワードローブは暖色系の組み合わせがひとつあり、拡張するために補色のシャツとコーディネートを整えるためのグレーのアウターが入っている。
実際には中身が揃うとコート類の色味は必ずしも暖色系でなくてもよいようだ。
ワードローブは人によってさまざまだがいったん出来上がってしまうと、それをクラスタリングして、そのワードローブに合わせた提案ができるようになるだろう。
一方で、こうしたルールが不明確化するとどうなるだろうか。多分、受け手の中で情報の単純化が起こるのではないだろうか。定番ばかりが受ける理由が分かる気がする。