ざっくり解説 時々深掘り

カマラ・ハリスはなぜ敗けたのか 大統領選における敗因分析(ポストモーテム)が進む

Xで投稿をシェア

事前の想定とは異なりトランプ氏の勝利が早々と確定した。カマラ・ハリス氏は日本時間の6時頃に「負けを認める(concession=容認)」ものと見られているがまだ姿を見せていないようだ。

出口調査の結果が明らかとなり「ハリス氏がなぜ敗北したのか」の分析も進んでいる。日本の出口調査と違って「誰が新しく投票に行ったのか」も調査されている。経済に不満を持つ人達が新しくトランプ氏を支援したりハリス陣営から離反したことがトランプ氏勝利につながったようだ。

結局「経済=自分たちの暮らし」が最優先課題だったのだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






アメリカの経済は今好調なものとされている。これは「インフレ・景気拡大局面」にあると表現される。この景気拡大局面を「極端な景気後退=リセッションによるハードランディング」に陥らせないことがバイデン政権の目標だった。

CNNは「アメリカの経済は好調だが自分のお気に入りの政党が政権運営をしていないと感じるトランプ支持者たちはそれを認めたくないのだろう」と分析している。確かに「この4年間経済は良くなかった」と感じる人がトランプ支持者の中には多い。トランプ氏は盛んに「better off(暮らしは良くなったか?)」と有権者に問いかけていた。

CBSBBCの出口調査分析を総合すると次のようなことがわかる。若者は全体的にハリス氏を支持している。だが前回選挙と比べるとその割合は減っている。同じ様な現象がラテン系(ヒスパニック)と女性にも見られるという。一方で保守層と白人はトランプ氏支持が増えていて、前回は投票に行かなかった人たちも積極的にトランプ氏を支持している。

ロイターによると結果的に「投票所に足を運んだ」有権者では無党派層が民主党支持者を追い抜いた。無党派層と共和党支持者の割合はほぼ同じくらいになっている。イデオロギー(党派性)よりも生活という人が増えている事がわかる。

資産を持ち高収入が得られる仕事をしている人はインフレ・景気拡大の恩恵を受ける。一方低学歴・ヒスパニックや黒人などは比較的社会の底辺を支えておりインフレ=物価高と感じる傾向が強いだろう。大学卒業資格を持っている人は民主党を支援する傾向にあるが持っていない人はトランプ氏を支持する傾向にある。

ただ大学卒業資格を持っていても学費ローンが負担になっている人もいる。若者ほど学費負担は大きい。

CNNのようなリベラル系のメディアは「現在のアメリカ経済は好調である」という認識で分析を行うため「同じインフレ・景気拡大」に苦痛を感じている人たちのことを理解できていない可能性がある。日本のメディアもこうしたリベラル系のメディアから引用しているため「ハリス氏がリードしている」と「マスコミが主張している」と考える人が多かった。

ハリス候補は「女性の権利拡大」を訴えた。確かにこれは多くの有権者を惹きつけたがそれでもハリス氏を支援しなかった人達がいる。経済のほうが女性の権利拡大よりも切実な問題だと考える人達が一定数いたのである。

またハリス氏が責任者を務めていた国境対策に対する不安やイスラエルのパレスチナ攻撃なども離反につながったようだ。ミシガン州では若者の離反が確認されている。本来ならば民主主義擁護を通じてハリス氏を支援してもおかしくなかった人たちである。

ハリス氏はこれを「民主主義を擁護するセレブたちのエンドースメント」でカバーしようとしたが、結果的にこうした小手先のイメージ戦略では生活に対する不満を解消することはできなかった

一方で出口調査からは見えてこないものもある。

ハリス氏が女性であることで黒人男性がハリス氏支援に消極的だったのではないかという意見がある。ガラスの壁の問題だ。

アメリカ合衆国には根強い女性差別があり「女大統領の元で4年間暮らしたくない」という人が多いという見立てである。だがハリス氏はアドリブに弱く政策議論の内容も具体性に欠けるという意見もある。これはジェンダー・ニュートラルで単に政治家(あるいはリーダー)としての資質の問題だ。一方で一部の有権者が内心では女性を認めたくないと考えている可能性も否定できない。出口調査で隠れた差別心を調査することはできない。

もう一つ出口調査から見えてこないのが「遵法意識の低下」と「暴力の容認」である。憲法秩序よりも生活が大切だと考える人達は「確かにトランプ氏の発言には問題があるがそれでも生活を破壊した民主党よりはマシ」と考えているように見受けられる。これを国際社会に当てはめると「確かに同盟と外交による問題解決は重要」だが「それよりも国益のほうが重要だ」と考える人が増えていると解釈することができる。パックス・アメリカーナの前提であった市民の良識が大きく揺らいでいることがわかる。

いずれにせよ今回の選挙は「Margin=余白・僅差」の戦いと言われていた。つまりちょっとした移動が起こることで結果が変わってしまう選挙だった。これまで民主党は多様性推進の政党と言われていた。だがヒスパニックや黒人の離反が見られることから民主党は党勢の立て直しを迫られるであろうと見られている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です