20代・30代の有権者が政治に関心を持ち選挙に参加したことで国民民主党が躍進した。そんな中、自民党で税制の枠組みを決める「税調」のメンバーが会合を開いた。
宮沢税調会長は「今回の税制議論は「税の理論」だけでは決められない」と記者たちに語った。これはつまり今までの税制議論は「取る側=税の理論」だけで決めることができていたと理解することができる。TBSはインナーたちが「税制改正議論を事実上牛耳ってきた」と表現する。
今後、民意の支持を受けた玉木雄一郎氏がどの程度「インナー」たちと戦うのか、実は「プロレス」だったのかが問われることになりそうだ。仮に「党勢拡大のプロレス」であり早期に折れてしまえば玉木氏は急速に支持を失うだろう。玉木氏にとっても敗けられない戦いなのだ。
TBSが自民党税調の会合の様子を取材している。宮沢税調会長の発言を聞いていて「ああこれは炎上するだろうな」と思った。
まずTBSは税調が税制改正議論を牛耳ってきたと言っている。
次に「税の論理だけではない」という宮沢氏の発言を拾っている。つまりこれまでは税の論理=取る側の論理だけで税制議論を「牛耳ってきた」ことになる。
しかし宮沢税調会長は、今年の議論について「税の論理だけではない世界がある」と話します。
議論の焦点「103万円の壁」どう折り合うか 自民「インナー」が会合(TBS)
さらにTBSは「抵抗勢力」をほのめかしている。
政権幹部
議論の焦点「103万円の壁」どう折り合うか 自民「インナー」が会合(TBS)
「国民民主党とは連立するわけではないので、全部聞かなければいけないわけではない」
自民党関係者
議論の焦点「103万円の壁」どう折り合うか 自民「インナー」が会合(TBS)
「財務省も今回はでき得る最大限の抵抗をするだろう」
ロイターでも次のような発言が確認できる。つまり宮沢さんは「玉木さんは成果があったと見せられればそれでいいんでしょ」と言っている。所詮プロレスだというわけだ。
国民民主党が求めている、超えると所得税が発生する103万円の「年収の壁」見直しについて、玉木雄一郎代表は178万円への引き上げ幅については「こだわってはいないと理解している」とし、「今後予断を持たずに交渉する」と述べた。
玉木氏、年収の壁の上げ幅こだわらずと理解=宮沢自民税調会長(ロイター)
この話を理解するためには重層的な議論の構造を理解する必要がある。もともとはインフレ調整の話をしていた。当初の説明ではブラケットクリープが課題だったのだ。ところがこれは現在議論の本質ではなくなっている。
- 政治が庶民のことを思いやっていくら税金をマケてくれるか
- パート従業員が社会保険の負担なく働けるようになるか
が議論の「本質」だ。
これまで「インナー」として世間を双眼鏡で覗きつつ「世の中には崇高な「税の理論」がわからない人たちがたくさんいますなあ」とうそぶいていた人たちにはSNSなどの議論は見えていないだろう。
もう1つ重要なのは「プロレス」の中身である。
玉木氏を含めた議員たちの間では
- 庶民の味方である点を強調して参議院選挙で勝つ
ことが議論の「本質」である。
今は聴衆が集まってきている状態なのでリングに上ったレスラーは最後まで戦っている姿を見せなければならない。少なくとも参議院選挙まではプロレスを維持する必要がある。これも庶民感情とは別の「税の理論ではない」世界だ。
玉木雄一郎氏は「余剰財源を使えば問題は解決する」と言っている。これはもともとインフレ対策であったと考えれば自然に理解できる。つまりインフレが進んでいるのに必要な調整を行わなかったために余剰が生じているのだからそれを解放しても問題にはならない。むしろ重税感が緩和され経済には良い効果が生まれるだろう。それが結果的に内部留保や貯蓄に回るかどうかはそれこそ政策次第だ。
プロレスであったとしても理論的には玉木氏の主張にはそれなりの根拠があるということがわかる。
ただしやはり興行という性格上「悪役」は必要だ。そのためには世論の空気感が見えていない「インナー」の皆さんは悪役にうってつけと言うことになるだろう。テレビ報道も悪役がいたほうが盛り上がる。視聴率を稼ぐための敗けられない戦いがそこにある。
最後に「なぜインナーが税制改正を牛耳ってきたか」について考えたい。もともと戦後の議会政治には吉田学校(吉田茂氏の大蔵省人脈)とその他の議員という対立構造があった。大蔵省人脈で国の経営方針を決めて地方出身と利益団体の代表が分配するという基本構図だ。
仮に通常の政策(分配)と同じように平場で税制を議論してしまうと「徴税より減税」に傾くのは当たり前である。おそらくTBSのいう「牛耳ってきた」は少し言い過ぎだろう。限られた人たちで議論をしないとまとまるものもまとまらなくなってしまう。
おそらく「インナーのヒール論」が広まれば広まるほど自民党の中から「税制も平場で議論させろ」という人が出てくるだろう。
立憲民主党ではすでに混乱が広がっている。彼らは国家経営的な政策を自分たちで作ることができずその意欲もなかった。
玉木雄一郎氏のスタンドプレー(左派が退潮し「民主党系」で右派が有利になる)に嫉妬している議員がいて「富裕層優遇になるから103万円の壁問題ではなく社会保障議論を先行させよ」と主張する。おそらく塩村さんはこの議論の二重性とSNSに広がる「普通の人たちの空気感」が理解できていない。
衆議院議員選挙での自民党の敗北の余波は広がっている。政倫審に出席したいとする自民党参議院議員が増えているそうだ。裏金で比例に重複立候補が許されなかった人たちが多数討ち死にしたことで「自分たちも同じ憂き目に合うのではないか」と考える人達が政倫審での釈明を希望しているのだ。
おそらく「庶民の味方」と見られたい自民党の参議院議員の中からも玉木氏に賛同する人も出てくるのではないかと思う。維新では猪瀬直樹さんの投稿が確認できたが他にもこういう方はいらっしゃるのではないか。
世論を全く読めていない「悪役」のインナーとなんとかして参議院にしがみつきたい議員たちが加わり議論はさらに錯綜するのではないかと感じる。戦いは始まったばかりだ。