自由民主党と国民民主党が政策協議のための枠組みを作った。この経緯をみるとなぜ日本で政策ベースの議論が進まないのかがよくわかる。国民民主党は参議院選挙に向けて自分たちを高く売ろうとしてるが対する自民党も国民民主党の影響を無効化しようとしている。
どっちもどっちなのだ。
時事通信が自民党と国民民主党の政策協議体設立について書いている。こんな一節がある。
政策協議に関し、自民は「政調会長同士の会議体」を設置することを提起したが、国民民主は「案件ごとに対応したい」として応じなかった。自民としては政権安定のため国民民主と連携を強める狙いがあるが、同党は与党寄りとの印象を避けたかったとみられる。
自・国、政策協議で合意 来月9日にも党首会談(時事)
まず自民党のやり方をおさらいしてみよう。
まず政調会長が「御用聞き」をしてそれを持ち帰る。それぞれの利益団体の代表者や声の大きい人が「いやそれは困る」と応じ、表現が弱められ「骨を抜いて食べやすくなった」ものに対してみんなで賛成するという方式になっている。
このため総理大臣が何かをデザインしたとしてもそれは「様々に調理」されてみんなが食べやすい料理になってでてくる。つまり改革志向があったとしても党内協議で潰されてしまうのだ。
例えて言えば「ガツンとガーリックが効いたTボーン・ステーキが食べたい」と要望しても出てくるのは(おそらく何かが混じった)食べやすいハンバーグだけだ。文字通り骨もパンチも抜かれてしまうのだ。
岸田氏が政調会長だった時代には麻生氏などが入り表現が弱められたことがある。さらに二階氏が介入し最後に公明党が怒鳴り込んできたために安倍総理が動揺し党内の議論がすべてひっくり返った。国民は一体何が起きているのかわからずNHKが「急転直下! なぜ10万円に?」で解説していたのが記憶に新しい。
ただこの方法は国民にとっては不毛でも内部にいる人たちに「お仕事をしまた感」を与える。改革を潰すことで既得権を守るという意味合いもあるが、声が大きい面倒な人を演じることで「この人には了解を取っておかなければ」と思わせることができる。機能不全に陥った組織にはよく見られる光景だ。
一方の国民民主党にも思惑はあるだろう。岸田総理と玉木代表の間にあったトリガー条項に関する約束(玉木氏は「書いたものがある」と主張しているようだが)は税調レベル潰されてしまった。岸田総理の狙いは「予算編成にあたって国民民主党と立憲民主党と分断しておく」ことにあり、トリガー条項について党内調整をするつもりなどなかったのだろう。政調会長時代にトラウマがある岸田総理はそもそも党内調整に最後まで消極的だった。
この曖昧な対応はハレーションを引き起こした。玉木氏側は「いや明確な約束がある」と主張し続け自民党内は「疑心暗鬼に陥った」とも報じられていた。結果的には破綻が明確になり玉木氏は協議を離脱した。書面が残っていたとしてもそれが実現しないのが自民党であり玉木代表も単に取り込まれただけと悟ったあともそれを支持者に説明できなかった。
今回の「まず合意」はしないという対応はこのときのトラウマが反映している。
また時事通信の解釈のように「与党に取り込まれたと思われたくない」という事情もあるだろう。裏を返せば「いつでも離脱できるように大枠の合意をしない」ことで参議院選挙に向けて自分たちをできるだけ高く売りたいという思惑もありそうだ。
玉木氏の新しいSNS戦略は「財務省の抵抗」をほのめかすというものだ。
もともと財務官僚なので本当に財務省が嫌がることはやらないとは思うが「現役世代を代表して財務省と戦う」という姿勢を強調している。財務省はマスコミに「レク」をしてネガティブキャンペーンを行っていると主張し「財務省が嫌がるということは国民にとっては良い改革なのだ(だから応援をよろしく)」と言っている。財務省=既得権益という単純な見方で政治を理解している人も多く一定の効果がありそうなメッセージングである。
結局、双方とも「自分たちの立ち位置が有利になるための闘争」をしているだけということになる。
だがマスメディアもこれに加担している。例えば国民民主党の税制改革の肝は「ブラケットクリープ対策」である。インフレにあわせて国が一人勝ちしないような税制を導入しようとしている。
ところが実際には「103万円の壁がなくなればパートの時間を増やせますね」というようなことが延々と語られる。数字が動くことでそれぞれの視聴者に「どんな損得があるのか」を語りたがる。
つまり政治家だけでなくマスコミも「国全体」のことは考えておらず「所詮、視聴者に興味があるのは自分たちの損得だけだろう」と見ているわけである。
国民保険料の上限が上がる。これは会社をやめてフリーになった人たちに過大な負担となるだろう。いわゆる「非正規」と呼ばれる人たちの中には最低賃金近辺で働いている人の他に会社をやめて独立しゆくゆくは起業するかも知れない人たちが含まれているはずだ。現実としてフリーは「下請け仕事」に回ることが多く「下請けフリーを守る法律」が11月1日から施行される。
前回、ドイツの例を紹介した。
周辺国と水準を合わせるためには賃金の抑制が必要になる。だがそれだけでは労働者が傷んでしまうので様々な対策が講じられている。また新しいビジネスが地域に根づくことできるような州のサポートもある本来なら「正規の枠に収まらない労働者に対する総合対策」がでてきて然るべきだが、今の自民党のやり方ではグランドデザインは出せないし出したとしても噛み応えがあるステーキにはならず何かが混じったハンバーグになる。
つまり
- 現状分析・国民に対する説明・制度設計・関係者への聞き取りと議論・痛みに対する対策・モニタリング
という順序を経て政策が実現する。
ところが日本にはそもそもこの「現状分析」がない。だから制度は動かなくなり「その動かない制度に合わせてどう立ち回るのが得なのか損なのか」という議論ばかりが横行するのである。
今回は「政策ベースの議論が進まない理由」を分析した。国民民主党批判にもなっているのだが自民党ではもっとメチャクチャな状況が進展している。
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