石破総理大臣が国民民主党の玉木雄一郎代表に接近している。ついに一部のテレビ局で「第三のシナリオ」として玉木氏を首班にした内閣まで想定されるほどになった。つまり玉木総理大臣の可能性が僅かながら出てきた。
では、これが良いことなのか悪いことなのかということが分析したくなる。だが、その前に岸田総理と石破総理の「新しい資本主義」に大きな違いがあるということを分析しなければならない。石破総理・玉木総理大臣はその路線の上に成り立っている。
石破総理が玉木雄一郎代表に接近している。田中派事務職員経験がある石破総理はおそらく組織志向が極めて強い昭和型の政党運営モデルを想定している。だから経団連に加えて連合の一部を加えた組織に依存する政権を作りたいのだろう。
個人的には「価格と賃金は市場が決めるべき」と思う。これはイデオロギーというより「自由主義経済とはそういうものだろう」という常識(おもいこみと言ってもよい)に由来する。ところが現状を見る限り日本は極めて横並び傾向が強い国で「みんなで一緒にやりましょう」でなければ賃金は上げられないのかもしれない。もともと社会主義的な傾向が強い「修正資本主義国」ということだ。
岸田総理も石破総理も「新しい資本主義」を掲げている。政府が労使双方に賃上げを働きかける社会主義型の介入資本主義である。本来の考え方から見れば邪道だがこうやるしか道はないのかもしれない。戦後すぐの時代にも政府が積極的に労使協調路線を推進していた。このときは赤化対策だった。
その意味では自民党が国民民主党を政権に引っ張るのは「理にかなった」考え方と言える。
岸田総理と石破総理の違いはいくつかある。岸田総理は明らかに「優しい資本主義=社会主義的な資本主義」を掲げていたが途中で「金融立国だ」などと迷走し始めた。安倍路線の継承を訴える岸田・石破政権だが実は自由主義路線が揺り戻されてできた政権だった。
途中でブレた岸田総理と違って石破総理はまだ修正資本主義を強く志向している。その一例が最低賃金改革だ。最低賃金を引き上げることで非正規労働者の生活水準を上げようとしている。最低賃金1500円に向けて協議が始まったが経団連が反発している。岸田総理は財界の抵抗に対抗できなかったが「選挙に負けた」という民意がありそれなりに最賃議論が進むかも知れない。
では日本経済はいい方向に進んでいるのか。
労働組合の組織率が下がっているため国民民主党(連合の一部を代表しているに過ぎない)が参加しても波及効果はない。交渉相手がいない中でどれだけ最低賃金を上げることができるかが極めて重要になるが無理に毎年7%も最低賃金を引き上げると却って地方経済は痛むだろう。
次に自民・国民ベースの政権ができると既存の産業構造が固定化される。ドイツの経済状況を見ると過度な製造業輸出型の産業はバランスが悪い。
さらにこれもドイツの事例から「現在の状況を改善するためには正規・非正規」の格差をなくし労働市場を整理すべきだということがわかる。だが連合は「大企業の労働組合」なのだから格差是正には消極的だろう。これも日本の産業転換にネガティブに作用するだろう。
最後にドイツを参照すると今はタイミングが良くないとわかる。大胆な改革は温かい春にやるべきであり冬に行えばみんな凍死してしまう。
日本は正規と非正規に格差がある労働市場が固定化されている。正規労働者の労働組合である「連合」は、実は自治労・日教組・産業労働組合に分かれている。大まかに言えば国民民主党は連合の一部である産業労働組合を代表しているにすぎない。
このままでは党勢が拡大できないと考えた国民民主党はネットを使い現役世代に訴えた。ここで玉木氏は(おそらく無自覚に)非正規労働者を支持者の中に内包した。
「非正規」というと賃金が押されられた人々を想像する人が多いだろうがおそらくサービス産業で働く高度技能を持った人たちも多く含まれているはずである。正規労働者は「中流」でありその「上」と「下」が一緒くたに非正規と呼ばれているということだ。一方の石破茂総理も地方にいる非正規労働者の期待を受けている。こちらは飲食や観光などで働く最低賃金に張り付いている人達である。
IT金融などで働く成果型の人たちも、飲食・観光などで働く人達も一緒くたに「非正規」扱いになっている。さらに正規と言われる労働者も電力・電機・自働車・金属などの産業労働組合だけでなく自治労や教職員などの公共性の高い人たちがいて、それぞれ国民民主党と立憲民主党に分かれている。
つまりそもそも日本の政党は実に様々な人々の(おそらく相反する)期待を集めた状況になっている。何かを選択すれば必ず別の誰かの不満がたまるという構造である。まずここを整理しなければならない。労働市場が整理されなければ政党が整理されることもなくしたがって不安定な状態がいつまでも続くであろう。
更にここまで分析が終わったら今度は「経済が暖かくなるのを待って」から労働市場改革と産業構造の整理が必要になる。
極めて面倒くさいと感じられるかも知れないが場当たり的な政界再編を試行錯誤するよりも効率的ではある。問題は政治家と有権者がいつこれに気がつくかだろう。
国民民主党はまずブラケットクリープ対策を行う考えのようだ。試算によると7.6兆円の節税効果があるということになっているという。目の前の節税は痛みの緩和に過ぎずその後にきちんと必要な改革が行える体制を作らなければ単なるバラマキによる浪費に終わってしまうだろう。だがおそらく現在の経済状況を考えるとまず節税を実施することは理にかなっている。
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