突然だがドイツ経済についてまとめる。国民民主党の(実質)自公政権入りを考えるうえでリファレンスが必要だからである。ドイツ経済はシュレーダー首相時代の労働改革により復活したが近年また調子が良くない。背景にあるのが輸出依存の経済である。つまり浮き沈みが激しい経済構造になっている。
ドイツ経済が思わしくない。かろうじて四半期GDPがプラス成長となりテクニカルリセッションは回避した。インフレは落ち着いているが最大労働組合は7%台の賃上げを求めている。
この状況を見て「ドイツは労働組合が強いから経済が安定していたのだろう」と考えた。個人的には昭和リベラル的な傾向が強く「強い分配と安定した雇用が経済を強くする」と信じたい傾向がある。
だが、実はそうではない。願望込みの直感は当てにならないものだと感じた。2017年に書かれたNHKの記事を見つけた。
市場が統合されたEUに加盟したドイツは工賃が安い周辺国に工場が流出した。この条件を改善するためにシュレーダー首相が労働改革を行い賃金を抑制した。
転機となったのは、シュレーダー前首相の下で2003年に打ち出された労働市場改革です。積極的な就労の促進策や労働時間の柔軟な運用などを通じて就労が進みました。また、産業界では労働コストが相対的に低い東ヨーロッパなどとの競争に打ち勝つため、労使協調のもと、雇用を維持するかわりに労働者の賃金の上昇を抑制する取り組みが広がり、企業の競争力が高まりました。
かつては“欧州の病人”、今や“一人勝ち” その国は?
解雇規制も緩和したがこのときに日本に見られるような正規と非正規の格差をなくし誰でもそれなりの賃金を得られるようにしたようだ。所得税も法人税も税金も引き下げている。
改革では、企業が柔軟な採用を可能にするため解雇規制が緩和されました。失業者に対しては職業紹介所への速やかな届け出が義務づけられ、労働者の社会保険料負担が免除される低賃金労働(「ミニ・ジョブ」)や派遣労働者としての就職のあっせんが広がりました。長期失業者には失業給付の期間が短縮されるなど、就労を促す改革が進められました。一方、所得税率の引き下げによる消費刺激策が取られ、法人税率も引き下げられました。
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今回は詳しく触れないが地方政府レベルでも法人の引き止めを行っている。各州が競って様々な企業支援を行っているそうである。ナチスドイツの反省から地方分権を進めたことも有利に働いた。
ところがこのあと状況が一変してしまう。まず中国で資産バブルが弾け中国経済が落ち込んだ。さらにウクライナの戦争のせいで高いインフレに見舞われている。開戦直後の2022年がインフレのピークだった。速報値レベルで8%近い数字だったが基準年が変わり6.9%で確定したそうだ。高いインフレは今では2.4%に落ち着いているがドイツの労働者はこれに耐えられなかったようだ。400万人の組合員を擁する労働組合は7%の賃上げを求めてストライキを決行している。
まとめると次のようになる。
ドイツは周辺国に逃避した工場を国内に回帰させるべく労働改革を行った。正規労働者の痛みを伴うものだが格差是正を徹底し痛みの緩和も同時に行っている。
こうした取り組みが効果を発揮しドイツには良い交易条件が揃った。ユーロの中心国のため比較的安い通貨の恩恵があり、ロシアからの安いエネルギーが供給される。また周辺地域から安い労働力を調達できるうえにドイツ国内の賃金も抑制された。
ところがこの交易条件が崩れつつある。ロシアからの安いエネルギーが調達できなくなり中国という優良な市場も傾いている。さらにインフレの影響を受けた労働者たちは高い賃金を求めている。
フォルクスワーゲンがドイツ国内からの撤退を計画している。中国とヨーロッパの自動車市場が思わしくなく営業利益が落ち込んだ。またEVへの転換もうまく進まなかったようだ。
フォルクスワーゲンの労働組合もストを計画しているそうだが仮に工場を引き止めたいならば安い賃金での労働を受け入れる必要がありそうだ。しかし国内ではインフレが加速していて労働者は痛みに耐えられないだろう。
重要なのは施策とタイミングだ。ドイツのの労働改革は成功したが、その成功は中国市場が好調だったという時季に恵まれたものだった。日本が先に進むためにはドイツの様な改革を受け入れる必要があるが、暖かい時季を選ばなければ全員凍死してしまう。
日本でも日産の利益率が劇的に下がったことがニュースになった。このときもやはりモデルチェンジに失敗したと言われている。市場競争が激化する中で規模を縮小させることができず「インセンティブによって無理矢理に業績を膨らませた」ことで利益構造がいたんだと分析されることがある。
また中国市場が回復する兆候がない上にアメリカ主導による中国切り離しも始まっている。トランプ政権になれば関税競争が起きると言われておりおそらくこれも輸出製造業には逆風となるだろう。
日本は周辺移民を受け入れていないという違いがあるがドイツと共通する部分も多くリファレンスとしては十分に使えるケーススタディだと言えるだろう。だからこそ、大企業の経営者(例えば経団連など)と大手労働組合(連合など)が結びついた政権の良し悪しについて分析するために使える。
今回できるであろう事実上の自民・公明・国民政権は日本の根本的な問題を解決する構造改革はできないだろう。かといって「今すぐ改革を実行せよ」などと言える環境ではないということである。