アメリカ合衆国の大統領選挙間まで残り一週間となった。かなり悲惨な状況になっている。ABCニュースの報道を中心に組み立てるので「リベラル」に傾いていることをお断りしておきたい。にも関わらず……というのがポイントだ。
まずトランプキャンペーンではコメディアンが「プエルトリコは大西洋に浮かぶゴミの島」と発言した。トランプ氏は陣営の意見ではないとしているがわざわざそんな人を読んだのはトランプ陣営である。当然プエルトリコの人(アメリカ本土に来ると投票権がある)は怒っている。
だがこれがヒスパニック系の離反につながっていない。バイデン政権のインフレが酷かったこともあり黒人とヒスパニックがトランプ共和党指示に傾いている。つまり「誰かを貶めれば貶めるほど」「誰かが傷つけば傷つくほど」トランプ氏に優位な状況が生まれている。激戦州ではトランプ氏の優位が定着しつつありトランプ大統領再選の見込みが高くなってきた。
ハリス氏も「悪口には悪口を」と考えたのだろう。ミシガン州の女性知事とバーに行き「男性中心の政治状況」を嘆いてみせた。おそらくマイクが付いていることはわかっていたのだろうが「不適切な発言だったから「ピー」という音を被せてくれ」などと言ってみせた。女性の共感を誘おうと考えたのだろう。
しかしながら、その演技はいかにもわざとらしいものでやはり悪口を言い慣れていないという感じは拭えない。FOXが「女性票の取り込みに失敗した」などと書いているがそもそも大した反響が出ていない。
アメリカの大統領選挙は企業献金よりも個人献金が盛んな状況になっている。だがこれが健全な政治状況づくりに役に立っていない。日本では政治団体献金が政治を歪めているという意見があるが、必ずしも政治団体献金からの脱却は解決策にはならないということだ。
既存の政治にうんざりした人たちはトランプ氏の様な強烈な「支援者」を求めている。端的に言えば彼らは誰かを傷つけるくらいの強烈な悪口が聞きたい。仮に民主・共和両党が穏健中流層の囲い込みに成功していればこんなことになっていなかったはずだ。重要なのは穏健な無党派層の育成なのだ。
政治状況が悪化する中でメディアの苦悩も高まる。
ABCがハリス氏に肩入れするのは高学歴のジャーナリストたちがハリス氏を支援しているからなのだろう。ワシントン・ポストもその様な構造を持っている。だが社主のジェフ・ベゾス氏はビジネスへの影響を恐れてハリス支持を明確に打ち出さないようにと編集者たちに指示をした。結果的にジェフ・ベゾス氏は釈明に追い込まれ、ワシントン・ポストは250万人いたサブスクライバーのうち8%にあたる20万人を失ったそうだ。
IT大手はトランプ氏に近づきすぎるとイーロン・マスク氏が所有するXのように広告主から離反されてしまう。だが、それでもトランプ氏との関係構築を迫られている。広告主から離反されたXは盛んに「プレミアムアカウント」への登録を訴えているが効果が出ていないのだろう。優遇期間を延長している。
ワシントン・ポストは広告依存モデルからサブスクリプションモデルへの移行を試みていた。だが、今回ハリス支持を打ち出さなかったことで大打撃を受けることになった。
健全な言論空間は民主主義の基本だ。アメリカ合衆国にはジャーナリストたちが社を越えて連携して健全なジャーナリズムを自発的に守ってきた。例えばワシントン・ポストはウォーターゲート事件を暴いたことで知られている。このときに活躍したボブ・ウッドワード氏はつい最近も「トランプ氏がプーチン大統領と盛んに交流していた」ことを暴き話題になっている。これは記者クラブに依存しメディアと対立することが少ない日本との大きな違いだった。日本の堕落しきった新聞は共産党の機関誌の引用報道しかしない。
ところがアメリカの新聞を支えてきたクラシファイド広告がネットに移ると新聞の経営は悪化した。さらに、組織されていない無党派層の政治へのネットメディアへの流入が重なりアメリカの政治言論の質は極めてわかりやすく悪化している。
そんな中、ついにワシントン州とオレゴン州では街頭に置かれた投票箱が燃やされるという騒ぎまで起きている。当局は厳罰を約束しているが「オンラインの投票も活用するように」と呼びかけているそうだ。だが冷静に考えると「投票に行かない」ことがどちらかの陣営のトクになるとも思えないのだが「選挙は何者かに支配されている」と考える人達がいてネットで盛んに選挙そのものの破壊を訴えているという。アリゾナ州では同じ動機でポストが燃やされているそうだが、容疑者は「とにかく刑務所に行きたかった」などと供述しているようだ。
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