国民民主党の玉木雄一郎代表がテレビ局で引っ張りだこになっていた。どの局もキーパーソンとなった玉木氏から次の政権構想のヒントになるスクープ発言が取りたい。首班=総理大臣は石破茂氏になることが予想されているのにまるで玉木雄一郎総理大臣が誕生するような騒ぎになってた。
おそらくこれが彼の人気のピークなのだろうと感じるが「モテキ」に突入したことは間違いがない。今後の国会情勢を占う上で重要なのが「そもそも国民は何を望んでいるか」である。様々な資料が出ているので欠落箇所を想像で埋め合わせつつまとめてゆきたい。
BBCは「自民党は支持を失ったが新しいリーダーの登場を求めたわけでもない」と冷静な評価をしている。つまり玉木雄一郎氏がリーダー気取りになると嫌われる可能性が高い。ただ玉木氏は表面上は穏やかな語り口でこのトラップを無難に切り抜けていた。
「リーダーを求めていない」ことを裏付ける世論調査がある。
共同通信によると石破総理の支持率が更に低下した。だが「石破茂首相が辞任すべきだとの回答は28.6%にとどまり、辞任は不要が65.7%に上った。」と書かれている。実に不思議な結果だ。
実は今回選択肢がなかったと考えている人が多い。今、目の前に用意されているメニューにすべて不満があり「それではないなにか」が求められている。つまりBBCが言語化した状況は現状を極めて冷静に切り取っている。
石破内閣の支持率、32%に下落 自公政権の継続望まず、53%(共同通信)
- 政界再編による新たな枠組み」が31.5%と最多
- 「立憲民主党を中心とした多くの野党による政権」は24.6%
- 「自公に日本維新の会などを加えた政権」が19.3%で続き
- 自公の少数与党政権は18.1%で最少
今回は投票率が低かった事がわかっている。
さらに産経新聞が比例票の移動をまとめているのでこれを見てゆこう。
比例票で掴む政党支持の増減
増えた政党
産経新聞は増えた政党と新規政党を分けている。
- 既存
- 国民 259万票→617万票(358万票増)
- れいわ221万票→380万票(159万票増)
- 立民 1149万票→1156万票(7万票増)
- 新規
- 参政 →187万票
- 保守 →114万票
減った政党
自民党が政治とカネの問題で票を減らしている。維新も万博と兵庫県知事問題が原因で票を減らした。だが組織票に頼っていた人たちも票を減らしている。
- 自民 1991万票→1458万票(533万票減)
- 維新 805万票→510万票(295万票減)
- 公明 711万票→596万票(115万票減)
- 共産 416万票→336万票(80万票減)
- 社民 101万票→93万票(8万票減)
政治を諦めた人と新しい政治に期待した人はどれくらいいるのか
次の質問には答えがない。つまり減った政党の支持者が単純に増えた政党に流れたのかという問題だ。
自公で648万人減らしている。さらに「ゆ党」の維新も295万人減らしている。つまり既得権政党で減った分を足し合わせると943万人が減っている。確かに増えた人たちを組み合わせると800万人強になるのでなんとなく辻褄があっているようにも思える。
だが仮に政権交代が望まれているのであれば自民党の減分がそのまま立憲民主党に流れても良さそうだ。東京都知事選でもその様な動きは見られず今回の衆議院選挙でもわずか7万票弱しか獲得できていない。
維新の改革路線に失望した人たちが国民民主党に流れたという仮説はそれなりに「それらしい」気がする。
なんとなく自民党にがっかりしたネット保守の人たちが日本保守党や参政党に流れたのだろうという気はする。高市早苗氏を支援するために「自民党にいれるのはやめましょう」というキャンペーンに引っかかった人たちはそれなりの数いるだろう。だが、彼らが国民民主党に流れたのかと言われると「それはどうだろうか」と言う気がする。さらに彼らがれいわ新選組に流れるとは思えない。と、考えるといわゆる「ネット保守」と呼ばれる人たちの人口はそれほど多くなかったと想像できる。
そこで効いてくるのが日テレの世代別調査だ。おそらくこれまで投票にゆかなかったであろう20代・30代の人たちが国民民主党とれいわ新選組を支持していることがわかっている。前回選挙に参加したかを一緒に聞いてくれていればよかったのに……という気はする。クロス集計ができたはずだ。
逆にこれまで安定した政権を求めていた人たちが「もう自民党や公明党は応援できない」と考えて投票に行かなかった可能性も否定できない。これを裏付けるのが社会党、共産党、公明党の退潮だ。既存組織に頼る政党はおそらく高齢化の影響を受けている。おそらく自民党の既存組織もかなり傷んでいるのではないだろうか。
本来ならば政治を諦めた人と新しく期待した人の統計が知りたいところだがメディアの収益構造が悪化しておりこうした調査が行われることはないだろう。
既存の政治組織が崩壊しつつある
自民党を支えてきたのは職能組合(医師・農林水産業・郵便局など)と経済界だった。だがその集票機能には陰りが見える。そこで自民党が頼ったのが創価学会と統一教会などの宗教票だ。創価学会は高齢化が進んでおり統一教会はそもそも反社会性が問題になっている。
もともとの高齢化に加えて「もう政治全体に期待できない」と考えて政治を諦めた人が増えているのではないかという懸念がある。
自民党は「集票装置の再構築」を迫られており労働組合である連合に期待している。だから国民民主党と政権を組みたい。このため岸田総理は玉木代表と直接交渉したが自民党の税調はこれを受け入れなかった。一方、今回浮動票を背景にした維新が勢力を減じたために「やはり確実なのは組織票だ」という思いを新たにしたのではないかと思う。
ところが冷静に見ると「国民民主党の躍進を支えた人たちの選択肢は国民民主かれいわだった」可能性も高い。彼らは今まで選挙には参加していなかったのではないかと思うがこれを裏付ける統計はない。
ここで国民民主党が自民党に接近したときに何が起きるかを予想するのは容易い。
玉木雄一郎氏が自民党に対して軟化し既得権益(連合)代表になってしまうとおそらく今回国民民主党を支持した人たちは離反するだろう。これは維新が大きく票を減らしたことを見れば一目瞭然だ。
浮動票は権力維持のための踏み台というマインドセット
自民党は明らかに「無党派層・浮動票は権力の踏み台であり、重要なのは組織票」と考えている。維新の戦略は「ほぼ水商売」だ。自公政権に接近する国民民主党が「連合を代表するために無党派層・浮動票を頼った」ことが参議院選挙前に分かればおそらく玉木国民民主党の躍進は止まるだろう。
逆にれいわ新選組のように極端な主張を行えばさらに勢力は増すかもしれない。自民党はとにかく国民民主党の言いなりになるしかない。岸田総理が行ったような「裏切り」は即内閣不信任案につながる。
企業団体献金からの脱却はなぜ必要なのか
朝のワイドショーでは玉川徹氏が盛んに「企業団体献金からの脱却」について言及している。リクルート事件以降「政治とカネ」の問題を清算してこなかった経緯があり「企業団体献金が政治を歪める」という気持ちを持っているのだろう。あるいはその様な印象を持つ高齢の視聴者の代表をしているつもりなのかも知れない。
だがおそらくその本質は「これまでのような企業や団体の依存していても高齢化を食い止めることはできませんよ」ということなのではないかと思う。そのためには政治の収益構造を個人中心のものに変えてゆく必要がある。政治が個人に歩み寄る必要があるのだ。
だがおそらく現在進行中の出来事を見る限り「高齢化の埋め合わせのために無党派層を利用する」と言うマインドセットからは脱却できないだろうと思う。政治教育に乏しい日本で「投票意外にどんな政治参加方法があると思いますか」などと聞いても苦笑いされるだけだ。
このまま「無党派層の利用」を続けてゆくとアメリカ型の未来が待っている。不満をつのらせた個人が共和党を乗っ取りそれに対応するために民主党がポピュリズム化するという未来だ。アメリカの大統領選挙状況については別の記事でまとめることにするが、かなり悲惨なことになっている。