テクニカルには特別国会が開催されると現在の内閣が崩壊するためそれまでになんらかの政権構想が与野党間でまとまっている必要がある。だがこれがなかなか難しい。結論だけを書くと参議院選挙を睨んだ不安定な安定が続きそうである。
特に「ゆ党」状態にある国民民主党と日本維新の会は「政権批判をして参議院で躍進したい」という気持ちと「政権に関与して成果を出したい」と言う気持ちでせめぎ合うことになる。
日本はハイコンテクスト文化のため政策よりも文脈のほうが重要視されるがその文脈自体が乱れており一種の混乱状態にあるといえるだろう。前例がないためお約束にしたがってトクなポジションを維持するというようなことができなくなっている。
まず自民党だが小泉進次郎選挙対策委員長が辞任しただけで石破・森山両氏の辞任はなさそうだ。山口県や千葉県連からは石破辞任論も出ているようだが「今騒げば敵に塩を送ることになる」という気持ちが強いのではないか。
萩生田氏は「高市幹事長にすべきだった」として森山幹事長を批判している。ただ安倍派は勢力を大きく減らし衆議院では20名が生き残っただけだった。幹部が生き残るために派閥を切り離した形になっており清和会をベースにした清和会の再興は難しそうだ。参議院清和会の世耕弘成氏に至っては公認候補を斬って議席を新規に獲得している。皮肉なことに派閥解消の動きに抵抗した麻生派が衆議院では第一派閥になった。
公明党は早々と政策協定を更新したが石井代表が落選しており「それどころではない」状況だ。自民党は公明党と協力しなければ議席が得られないが公明党もまた自民党人気がなければ創価学会の高齢化に抗うことができないということが証明されてしまった。参議院選挙を控えた公明党の最優先課題は支持母体創価学会の立て直しなのではないかとさえ思える。
自民党はまずは非公認議員を公認せず国民民主党に呼びかけを行うことにしている。幹事長レベルで接触が始まったと伝わる。水面下で交渉したいのだろう。いかにも自民党らしいやり方である。だがこの水面下での交渉は過去に失敗している。ガソリン減税を訴えた国民民主党の要望に応えたと思われた岸田総理だったが(総理が直々に約束を取り付けた)その後の協議へのアフターフォローはなかった。岸田総理と維新の間のやり取りはもっと悲惨なものでXの間で「言った言わない」議論が繰り広げられたのは記憶に新しい。それでも水面下でのやり取りをやめられないのが今の日本政治である。文脈が複雑すぎて国民にさえ説明できないのだ。
玉木代表は自民党とは連立しないと連合に約束している。このため石破総理も「連立を拡大します」とは言わなかった。
当初マスコミは細川政権型の「野党大連立」を期待したがそれは難しそうである。背景にあるのが投票率の低下だった。
投票率が発表され、政治とカネの問題で無党派を惹きつけることはできず、むしろ下がっていることがわかった。また、小選挙区で立憲民主党は支持を伸ばしていない。つまり「自民党支持者が投票に行かなかったこと」と「懲罰的な投票行動が比例で見られたこと」で自民党が支持を失いしたがって立憲民主党が敵失で勝ったことになる。立憲民主党が支持されたわけではなくなおかつ国民民主党が躍進している。
経験則とは違い
- 投票率の低さが立憲民主党有利に働いた
という不思議な選挙だった。
国民民主党は立憲民主党に協力すると飲み込まれてしまう可能性が高くなる。特に原発反対の党内左派とは一緒になりたくない。さらにこの勢いを保持したまま参議院で躍進するという戦略に一定の有効性が出てきた。このため玉木雄一郎氏の言葉を聞くと実は「立憲民主党には協力しない」と理解できる発言が多い。この複雑な文脈はなかなか読み込みが難しい。当面は水面下で自民党と交渉しつつ文脈上もっとも「オトクな」立ち位置を探るのだろう。
日本共産党は立憲民主党の首版指名に協力しても良いと言っているが、連合は共産党がいなくても選挙に勝てるとわかったと強気な発言をしている。野田佳彦代表は「野党の協力を求める」としている。
だが過去に野党大連立を成し遂げたという甘い成功体験に依存する小沢一郎氏が背景にいる。羽田政権の混乱を引き起こした主犯であり野田・小沢体制のもとで野党が政策協定を結ぶ可能性はほぼ0だろう。野田佳彦氏は立憲民主党、維新、国民民主党との代表会談を呼びかけており共産党は含まれていない。またれいわ新選組は「消費税5%減税」勢力に協力すると言っているが立憲民主党はれいわ新選組には興味がなさそうである。
この複雑な状況を乗り切るためには当座実現すべき政策の優先順位をつけたうえで政策協力を結ぶ必要がある。だが、特定の文脈で最もトクなポジションを狙うというハイコンテクストな日本文化ではローコンテクストな政策による政権の枠組みが作れるとは思えない。さらにハイコンテクストなやり方を採用したとしても小沢一郎氏がいる間は連携は不可能だろう。
田崎史郎氏もハイコンテクストな協議に対応できる菅義偉氏が幹事長になるべきと提唱する。だがこれは日本の企業が崩壊するのに似ている。属人的な経営に依存し透明化・合理化が遅れた企業は複雑な国際競争に太刀打ちできなくなり滅びてしまう。
さらに混乱しているのが維新である。維新は大阪では勢力を維持した。だがこれは見た目に爽やかな吉村府知事の影響が大きいのではないかと思う。国政での顔は馬場代表だが「見た目が昭和」である。
- そんなのはルッキズムではないか
と批判する人がいるだろう。
維新のみならず今回躍進した政党はメディア戦略(何らかの形でネットが絡んでいる)によって成功しているところが多い。無党派層を固めるためには政策よりも「党首の人となり」が重要視される。端的に言えば顔とスタイルがスマートな方が人気を集めやすい。ただこうした政党は属人的な人気に依存しそれ以上は成功できなくなる。ルッキズムで選挙を乗り切ろうとして失敗したのが自民党である。短い総裁選挙だったがそれでも小泉進次郎氏は乗り切れなかった。
馬場おろしの急先鋒は「旧オーナー」の橋下徹氏である。吉村府知事の発言を引用しつつ「馬場代表は古い政治(飲み食い政治)を体現している」と盛んに攻撃を仕掛けていた。