国連を敵に回して暴走しているイスラエルをアメリカ合衆国は制止できていない。背景にあるのはイスラエルの巧みなメディア戦術だ。ネタニヤフ政権は英語とヘブライ語を使い分けてメディアを乗りこなしている印象がある。
このように書くとイスラエルの民間人を巻き込んだ暴力を肯定しているように取られる危険性はあるが「事実は事実」として観察したい。
現在の戦争において情報がいかに重要な地位を占めているかがわかる。つまるところ大衆を操作した人が勝ってしまうのである。「正義」などどこにもない。
イスラエルがイランを攻撃した。まず事前にネタニヤフ首相がヘブライ語で「イスラエルには自衛の権利がある」と主張していた。首相府はYouTubeチャンネルを持っていて直接大衆に語りかけているが自動翻訳で発言のあらましがわかる。
と同時にネタニヤフ首相は巧みな英語でもイスラエルの自衛の権利について理路整然と語りかけることがある。アメリカ合衆国やヨーロッパ向けの発言だ。中には「マクロン恥を知れ」というような激しい恫喝のメッセージも含まれていて「ブレ」がない。
今回も事前にアメリカ合衆国には通達していた。しかしバイデン政権の要求もよくわかっている。
- アメリカ合衆国は「攻撃には関与していない」と言いたい
- とはいえ石油価格が高騰して経済と大統領選挙に影響を与えることも避けたい
- また核施設攻撃のように中東戦争を想起させるような行動も取ってほしくない
このため事前に通達しつつなおかつアメリカは関与していないという体裁を整えた。さらにすぐさまXでステートメントを発出し「攻撃は限定的である」と伝えた。
さらに報復の連鎖を避けるためにイランに対してメッセージを送っているとアメリカのリベラル系ネットメディアに情報を流している。ただし首相府は公式な発言は出しておらずなおかつアクシオスも「首相府のコメントは確認できなかった」としている。
アメリカ合衆国側もイランに働きかけており歩調を合わせているのだが、ヘブライ語では「ネタニヤフ首相はイランに対して強い姿勢を保っている」との姿勢を崩さずに済む。なおアクシオスによると仲介に立ったのはオランダの外務大臣だったようだ。
What they’re saying: One of the channels for conveying messages to Iran ahead of the Israeli strike was Dutch Foreign Minister Caspar Veldcamp, one source said.
Scoop: Israel sent message to Iran ahead of attack and warned against response
巧みな情報戦の結果、ネタニヤフ首相は有利な形で一連の戦争を進めることができている。だがこれをネタニヤフ首相の勝利とは言いたくないという気持ちになる。なぜならばこの情報戦の根底には根強い差別構造があるからだ。
大規模攻撃を恐れてイランの民間施設には攻撃が加えられていないのだがガザやレバノン南部では子どもたちを含めた民間人の犠牲が多数出ている。これが重要視されないのは最大のスポンサーであるアメリカ人が「アラブ人の犠牲をさほど重要視しないから」だ。アメリカ人やユダヤ系の犠牲は個人名で伝えられるのだがアラブ系は統計として処理される。
彼らの関心事はスポンサーであるユダヤ系の人権と日々の暮らし(ガソリンの価格)などだ。つまり重要な部分さえ迂回すれば、人命そのものには大した関心が寄せられないという事情がある。アメリカのメディアがこれに疑問を持つことはない。反ユダヤ的として世間から避難される可能性が高い。
またアメリカ人はイランを「悪の枢軸」と理解している人が多い。パーレビ王朝派のイラン人もアメリカに多数居住しておりイランが攻撃されてもイラン系アメリカ人はさほど動揺しない。
ネタニヤフ政権の巧みさはアメリカの本音と建前を理解しているという点にある。
Comments
“イスラエルの巧みなメディア戦術 イランへの報復は完了” への2件のフィードバック
イスラエルはアメリカとの長い外交経験をうまく活かしているなぁと感じます。政治だけではなく、経済・科学などの分野での影響力も活かしているのがさらなる強みになっていますね。
イスラエルとは関係ない個人的な感想ですが、「このように書くとイスラエルの民間人を巻き込んだ暴力を肯定しているように取られる危険性はある」とわざわざ書かないといけないのは大変ですね。ちゃんと読めば、イスラエルの巧みさを評価することが、「暴力」を肯定するとは限らないことは分かりそうだと思いますが…。
>わざわざ書かないといけないのは大変ですね
まあ、ケチを付ける人はタイトルだけ読んで深いところまでは到達しないと思うので用心しすぎだとは思うんですがね。念の為。