連日お伝えしているABCニュースがハリス陣営のキャンペーン映像をそのまま流していた。地上波も含めてアメリカのテレビ局は日本と違って公平原則の遵守は義務付けられていないがそれでもやりすぎだという気がする。新聞社の中にはハリス氏をエンドースしないという決定に抗議して編集委員が辞任する動きも起きている。
リベラル系メディアはもはや公平原則がどうしたなどと言っている余裕はないのだろう。大統領選挙まで2週間を切っているがCNNの世論調査では47%対47%という結果が出ている。読者に対してトランプ氏の危険さが十分に伝わらず「間違った判断」がくだされると焦っているマスコミ関係者が多いのだ。
テキサス州のある女性が泣いている。もう子どもができないかも知れないからだ。そこにかぶさるようにトランプ氏の「自分は女性の味方だ、孤独にはさせない」という主張がかぶさる。このキャンペーンを見れば誰でもトランプ氏は嘘をついていると感じるだろう。
メッセージは明確だが、これがニュースの一環として流されているという点に問題がある。明らかにニュースの体裁を取ったハリス陣営の広告になっており報道として公平とは言えない。
ではリベラル系メディアは大衆を扇動しようとしているのか。
実はCNNの世論調査の結果が47%対47%になった。バイデン大統領とトランプ前大統領が争っていたときはトランプ氏優位だったがハリス氏の登場で逆転した。ところがこの逆転差が縮まっている。つまり何らかの理由でハリス氏の支持がダウントレンドに入ってしまったのである。このままではトランプ政権の再来が予想される。
リベラル系メディアとしても必死なのだろう。
ハリス氏はビヨンセさんらと一緒に「女性の生殖の権利を守る集会」に参加した。激戦州以外でのキャンペーン参加は異例だが、共和党に投票する女性や投票所に足を運ぶかどうかがわからない女性に対して働きかける狙いがあるものと見られている。また「女性の権利擁護」を訴える上院・下院議員をエンドースする狙いもあるのだろう。
ABCニュースの事実上の選挙広告はこのハリス陣営のキャンペーンと連動している。
一方のトランプ陣営はどの様な選挙キャンペーンを行っているのか。
CNNが「再選なら選挙当局者と政治工作員を投獄、トランプ氏が以前の脅迫繰り返す」と伝えている。アメリカ人はコロナ禍前のトランプ政権時代とコロナ禍後のバイデン時代(ロックダウンのあとインフレに襲われた)を比べておりトランプ氏の経済政策のほうが優れているという間違った判断を下している。加えて既存の政治勢力に対する報復感情が強まっているかも知れない。
「内なる敵」の粛清が支持を集めており民主主義の危機が間近に迫っていると感じられる。
バイデン大統領もトランプ氏を拘束しろ!と息巻いており「敵対勢力を拘束して無効化すべきだ」という主張は民主党側にも見られる。
さすがにリベラル系メディアはこの発言には乗ることができない。バイデン氏の発言は一般には「刑務所に叩き込め」という意味に受け取られているが、CNNでは「政治的に」と付け加えている。つまり政治的迫害ではないととりなしている。リベラル系メディアの苦しい立場がわかる。
President Joe Biden told New Hampshire Democrats on Tuesday that “we gotta lock him up,” referring to former President Donald Trump, before quickly adding, “Politically lock him up.”
Biden says of Trump: ‘We gotta lock him up … politically’(CNN)
そんな中「アルゴリズムの支配者」であるイーロン・マスク氏を巡る報道が出てきた。
ワシントンポストの報道によると学生ビザで起業した経験があり「不法就労なのでは」と指摘されている。またプーチン大統領と定期的に会っていると伝えられておりNASAが調査を要求している。プーチン大統領は習近平国家主席に配慮して「台湾でスターリンクを稼働させないように」求めているそうだ。マスク氏がトランプ支持に回ったことで「トランプ氏を支持するようになった」という人よりも離反したという人が多いとも伝えられる。
CNNは「How Republicans pushed social media companies to stop fighting election misinformation」という長い記事を書き「共和党が誤情報拡散の取り組みを阻害している」と主張している。しかし現実には誤情報を垂れ流すメディアを信頼する人も多い。
マスク氏はXのアルゴリズムを自由に操作できる立場にありトランプ氏に優位な発言を拡散できる力がある。アメリカの地上波のあからさまなハリス支持にも関わらずハリス氏が失速しているのはテレビや新聞に対する影響力が落ちラジオ・ストリーミングメディア・SNSなどの影響力が相対的に上がっているいるからだろう。既存メディアはできれば「SNSは信頼しないでほしい」と思っているはずだ。
一方で「公平原則を守るために社としての支持候補を明言しない」と決定した新聞社もある。政治的思惑があるのかあるいは政治的闘争に巻き込まれたくないのかはよくわからない。ワシントン・ポスト紙はジェフ・ベゾス氏が所有しているという。新聞社では経営者と編集・記者の間に対立がありワシントン・ポストでは離職者も出ているそうだ。
またLA Timesもエンドースメントを出さないという決定をしたあとに編集委員3名が抗議の辞職をしている。非常に興味深いことだがLA Timesはこれを正直に包み隠さず書いている。決定は覆せないが編集権は記者たちが持っており必ずしもオーナーの意向で報道がすべて遮断できるわけでもないということになる。
A decision by the owner of the Los Angeles Times not to endorse in the 2024 presidential race — after the paper’s editorial board proposed backing Kamala Harris — has created a tempest, prompting three members of the board to resign and provoking thousands of readers to cancel their subscriptions.
L.A. Times owner’s decision not to endorse in presidential race sparks resignations, questions