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「習近平国家主席は私を尊敬している」というトランプ氏に日本は対応できるか

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トランプ前大統領が「台湾侵攻があっても軍隊は派遣しない」と宣言し話題になっている。このエントリーでは発言と周辺を確認し日本がこの新しい現実に対応できるかを検討する。

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台湾への軍事援助はしないと予め表明

トランプ前大統領が習近平国家主席が台湾に侵攻することなどないとの見通しを示した。そのうえで、もし軍事侵攻があっても軍隊は派遣せず関税で対処すると表明している。今回はウォール・ストリート・ジャーナルの記事をロイターが引用したものを使う。ちなみにBBCも同じ素材で記事を書いているが外交・安全保障についてはこれ以上の内容はなかったようだ。

まず、トランプ氏の基本的な認識は「バイデン大統領のようなだらしない大統領だから面倒なことになっているというものだ。トランプ氏が大統領になれば問題はたちどころに消滅するので対策は必要がない。自分は習近平国家主席に尊敬されているので中国が台湾に侵攻することなどないだろうと言っている。ウクライナに対しても共通の認識を持っている。プーチン大統領はバイデン大統領をナメているからウクライナに侵攻しただけのことだ。

次にアメリカは偉大な国なので国内市場から中国を締め出せば中国は慌てて方針を転換するだろうと見ていることがわかる。だから「関税」が懲罰になる。

最後にトランプ氏は「狂人理論(マッドマンセオリー)」を信奉しており「自分はクレイジーで何をしでかすかわからない」から相手は警戒するだろうと言っている。ニクソン大統領の「外交・安全保障政策」とされている。

ちなみにロイターの原文では次のような表現になっている。f—は伏せ字。

“I had a very strong relationship with him,” Trump said. “I wouldn’t have to (use military force), because he respects me and he knows I’m f— crazy,” he said in the interview.

Trump says he would impose tariffs on China if China went into Taiwan

トランプ氏にとって「愛」とはなにか

トランプ氏を理解するためには「自分に賛成してくれるものは良いもの」で「自分に反対するものは悪いものだ」という世界観を理解する必要がある。自分の評価だけが全てでありその結果として相手がなにか害になることをやったとしても「それはその人の問題」と切り分けている。

例えばトランプ氏の支持者が議会に乱入したのは「愛ゆえの行い」である。中には乱暴を働いた人もいるが(ちなみに死者が5人出ているという報道がある)それは自分の美しい世界とは関係がない。だからトランプ氏には責任がない。

ボブ・ウッドワード氏の著作によると大統領退任後もプーチン大統領とはコミュニケーションを取っているという。今回の発言でもトランプ氏は「プーチン大統領とトランプ氏の関係は極めて良好」との認識を示している。トランプ氏は「もし裏切ればモスクワを攻撃すると警告した」というがこれはアメリカに害が及ばなければプーチン大統領の行動に干渉しませんよと言っているのと同じことである。

一方で「自分とは関係がない」ウクライナには極めて態度が冷淡だ。ウクライナはバイデン氏の関心事でありトランプ氏には関係がない。時事通信(ソースはAFP)によるとトランプ氏は「ウクライナは気の毒」としながらも、戦争に突入したのはゼレンスキー大統領がバイデン大統領の支援を信じてしまったためであり「それはバイデン大統領の扇動に乗ったゼレンスキー大統領が悪い」と主張している。またゼレンスキー大統領はアメリカの納税者にとっては税金泥棒のようなものだとの発言もある。

では台湾についてはどの様な見方をしているだろう。これも時事通信が書いている。トランプ氏は台湾はアメリカの半導体市場を「盗んだ」としている。だから台湾が引き続き防衛でアメリカの援助が得たいのならば台湾はアメリカに対して防衛費用を支払わなければならない。台湾側は台湾の半導体はアメリカの下請けが多いとしてトランプ氏に反論しているがトランプ氏がサプライチェーンという概念をどの程度理解しているかは不明。

トランプ氏はウクライナも台湾も「アメリカ合衆国には関係がない他人事」と見ている。有力な寄付者が多いイスラエルと違いトランプ氏に取っては全く関係がない話だ。であれば「習近平やプーチンが自分を尊敬しアメリカに危害を加えない限り」は何があっても黙認するというのが彼の立場である。

結果的に習近平氏に「関税覚悟なら台湾侵攻は黙認する」とのメッセージに

故にこの発言をそのまま受け取ると「トランプ氏が大統領になった場合、関税を覚悟するならば台湾を攻撃してもアメリカ合衆国は黙認しますよ」と言っていることになる。

唯一の希望はこれが「ニクソン流のマッドマンセオリー」に基づいているというものである。つまり今そう言っているからといってかならずそうなるとは限らない。

次に「そうは言ってもトランプ氏は第一期も同じことを言っていたのだから周りの人がなんとかしてくれるだろう」という希望も持てる。アメリカ合衆国は堅牢な民主主義国家でありある程度の大統領の暴走には歯止めがある。

ただこれに関しては気になる報道がある。共和党の通商・安全保障関係の高官たちがハリス支持に動いている。一期目から大統領を抑えるのにかなり苦労していたようだ。

第二期目の大統領には再選がないためトランプ氏の政権運営はかなり放埒なものになることが予想される。このためトランプ氏をこれ以上抑えることができないと考える共和党関係者がトランプ氏から離反している。しかしながら、トランプ氏とハリス氏は僅差と言われる。接戦州などでは既存の政治に対する不満が溜まっておりトランプ氏の主張に一定の支持があるのだ。

日本の防衛戦略を支えるもの

改めて日本の防衛戦略を支えているものを考えてみたい。

アメリカ合衆国は日本などと価値観を同じくする「同盟国」である。アメリカが日本を防衛しているのはこの価値観を守るためだ。このため日本は価値観を同じくする他の国や地域(同志国ともいう)と連携してアメリカを支えなければならない。

この基本的認識には様々な意見があるだろう。例えば本当にアメリカ合衆国が守りたいのは国際的な地位や世界中に持っている権益だ。また日本の基地利権も実はアメリカの既得権益になっている。また最近ではアメリカ一国で軍事侵攻をすることが難しくなっており様々な形で「協力」の求められている。

だが、トランプ氏の認識からは「共通の価値観を持っている国を守ることがアメリカの中長期的な利益になる」という同盟の基本となる考え方そのものがすっかり抜け落ちている。代わりに支配的になっているのはアメリカ合衆国は単独で利益を守ることができる国であり他国の協力など必要なく世界で様々なトラブルがおきたとしても基本的には自分たちには関係のない話だという価値観だ。

仮にトランプ氏が大統領となり日本の周辺に何もなければ日本には「アメリカの変化をスルーする」という選択肢がある。日本が戦後80年にわたって外交・安全保障の基礎にしてきた認識に変化があったとしても今の政治は対応できないだろうし有権者もこれを見たくないと考えるはずだ。

問題は仮に習近平国家主席がこれを「アメリカの黙認」とみなし具体的な行動を起こしたときだろう。これまで見て見ぬふりをしてきた分だけその反動も大きなものとなり日本の政治状況に少なからず動揺を与えるはずだ。

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