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日本では当たり前の投票結果の手集計ができないアメリカ合衆国

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ジョージア州で「投票結果を手集計してはいけない」という判断がくだされた。アメリカの文脈では「選挙妨害の一環」ということになる。だがこれは日本人には理解できないだろう。日本では当たり前に行われていることだからだ。

この判決を読むとアメリカの選挙事情が理解できると同時に、日本人が持つ「緻密さ」と「恥の文化」のメリット・デメリットがわかる。

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このエントリーでは厳密に言うと2つの問題を扱うがまずは本筋であるアメリカの事情を分析したい。

2020年の選挙ではトランプ氏が選挙結果を受け入れなかった。陣営はまず「選挙結果が盗まれている」と騒ぎ出した。このため票の集計をやり直すべきだということになった。

ジョージア州は知事・共和党州だ。だが厳密にはトランプ派の共和党州ではない。ジョージア州知事は票の数え直しには応じたが「選挙無効」の要求は退けた。トランプ氏は独自候補を擁立しケンプ知事を排除しようとしたがジョージアの共和党はトランプ派の候補を選ばなかった。

他の州から黒人が流れ込み民主党の影響力が強まると同時にそれに反発した人たちが穏健な共和党支持からトランプ支持に乗り換えつつある。ジョージア州の政治状況は非常に複雑だ。

今回もトランプ派が「選挙の無効を訴えるためにダラダラと手作業で票の数え直しを要求するのではないか」という懸念がある。このため「票の集計に集まる人たちを時間内に訓練することはできない」などとして裁判所は要求を退けた。確かに素人が票を数え直せば機械よりも精度が落ち状況が一層混乱しかねない。

このように、アメリカ合衆国ではトランプ陣営が不利な選挙結果を受け入れないのではないかと懸念されている。選挙のプロセスが無効であると主張する可能性もあるが「トランプ氏がSNS経由で実力行使を訴えるのではないか」とも懸念されているようだ。過去のトランプ陣営の作戦に対する防御策も取られているため、却ってSNSによる内乱誘発の危険性が高まる。

共和、民主両党は、11月5日の投票以降、数日間にわたり郵便投票の集計確認などが行われるため、結果の確定が遅れる可能性があると見ている。トランプ氏は、敗北の兆しが表れれば、この投票結果確定までの期間をとらえて不正があったと主張し、選挙管理委員会の信頼を損なおうと図るだろう。支持者に抗議行動を促すかもしれず、既に「不正行為」に関わった選挙管理委員や公務員の逮捕をちらつかせてもいる。また、トランプ氏は証拠のないまま、SNSや記者会見、インタビューを通じて国民に直接訴えかけることもできる。

アングル:米大統領選、トランプ氏の敗北受け入れ拒否で混乱も(REUTERS)

さて、ここまでがアメリカの事情だ。しかしここでふと疑問を感じる。そもそも日本では選挙結果は手集計だが混乱したという話は聞かない。手作業で判別した票がきちんと束ねられているかどうかを確認するために集計マシーンが導入されている程度である。日本はそれできちんと即日開票ができている。

なのになぜアメリカではそれができないのだろう。アメリカ人はマヌケなのか。

これを知ることができる手がかりがある。香川県高松市で0票獲得した候補者が当選するという事件があった。これはおかしいということで捜査が行われた結果、選挙実務に関わる職員が逮捕されている。

高松市では「票が見つからない」という事になった。職員は慌てて「白票があったことにしよう」と思いつく。白票は使われていない投票用紙と見分けがつかないのだからシュレッダーしてしまえばわからないだろうと言うことになった。だが実際には集計マシーンにログが残っていて白票をダブルカウントしたことがバレてしまった。

背景には職員に対する「時間」のプレッシャーがあったそうだ。

議会が「他の自治体と比べてウチは数えるのが遅い」と批判した。これが恥の意識として残っていて「開票作業が遅れたら大変だ」ということになった。

つまり日本の即日開票を支えているのは職員の属人的な頑張りと他のところと比べて遅いのは恥ずかしいという恥の意識だ。

確かに日本でも判別が難しい手書きをやめてマークシートにしたり候補者の名前に◯を付ける方式にするという改善策を導入することは可能だろう。

しかし、こうした方式が実際に検討されることはなく「昔からできているのだから職員が頑張れば良いのではないか」ということになってしまう。むしろ変えることに対するデメリットを一生懸命に探し出し「面倒だからこれまで通りでやろう」ということになってしまう。

アメリカのように合理化が進むと「作業がブラックボックス化する」というリスクが生じる。とはいえこれからは丁寧に検証しましょうと考えてもこれまでそんなことはやっていないのだから状況が混乱するばかりだ。

ロバート・マクバーニー判事は、開票作業にあたるスタッフは何百万枚もの投票用紙を扱うための訓練を十分に受けていないとし、選挙直前での規則変更は「管理上の混乱」を招くと述べた。

【米大統領選2024】 ジョージア州の手集計規則、裁判所が差し止め(BBC)

ただアメリカには「無駄な事務作業の要求がトランプ派に利用されるのではないか」という警戒感もある。これも日本では考えられないことだ。さすがに日本の政党には「選挙で負けたとは認められない」などと主張するところはないだろう。議会で「調和を乱す」と袋叩きに合う可能性が高い。悪者になりがちな日本の同調圧力にもメリット・デメリットがあると感じる。

また、「この選挙シーズンは緊張をはらんでいる」と指摘。2020年大統領選の投票結果の認定をめぐって連邦議会議事堂がトランプ候補の支持者に襲撃された「(2021年)1月6日の記憶は、あの日の有名さや悪名をどう考えるかにかかわらず色あせていない。選挙プロセスに不確実性と無秩序をくわえるようなものは何であれ、国民に害を及ぼす」とした。

【米大統領選2024】 ジョージア州の手集計規則、裁判所が差し止め(BBC)

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