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笠松将をバカヤローという泉谷しげるはなぜバカヤローなのか

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笠松将という俳優が「知らないマンガを読んで13巻から出てきたキャラクターたちがこんなんやってるけど、みたいな感覚」と発言し叩かれているそうだ。泉谷しげる氏は「バカヤローだ」と総括したそうだが、泉谷しげる氏のほうがバカヤローだ。

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日本語では政治のことを「まつりごと」という。農業国の日本では天候が季節通りに展開される状態が理想とされる。だが、実際には天候不順や疫病などが起きる。また地震や津波などの自然災害もある。これが起こらないように自然を「お祭り」するというのが本来の政治である。現在NHKで放送されている「光る君へ」は君主の后へのあり方が原因で自然災害が起き天皇が悩み貴族が動揺するとするという記述や安倍晴明の祈祷などが描かれていた。

一方で、中国語の「政」という概念も輸入されていた。こちらは、民衆を正しく行動させるというような意味合いだそうだ。つまり為政者の統治行為のことを言っている。統治行為に「民衆が関わる」と言う概念がないのだから日本の政治には「国民自治」という概念はない。

国民の政治参加という概念は戦後にGHQが持ち込んだ。旧勢力の再拡大を抑えたうえで労働者や農民が赤化するのを防ぎたかった。このために用いられたのがナトコ映画だった。泉谷しげる氏はエンターティンメント業界の人間としてこれを知っているべきだった。

例えば「腰の曲がる話」は次のように展開する。

農村ではまともな医療が受けられない。そこで住民がお金を出し合って協同組合を作り診療所を誘致することにした。男たちは反対だったが女性が中心となって組合を作り地域の衛生状態は改善される。「自分たちの代の女は腰が曲がるまで働いたが民主主義が導入されればそんな苦労は過去の話になるだろう」と総括されている。実際にあった話で彼女たちが作った病院は現在は佐久総合病院になっているという。

ナトコ映画は基本的にGHQのプロパガンダだった。

アメリカ流の住民自治を取り入れると生活が楽になりますよというメッセージだったのだ。泉谷しげるさんは1948年5月11日生まれだそうだが、彼らの世代はこうしたプロパガンダを浴びて育っている。これは池田勇人総理の時代まで受け継がれた。政府の言う事を信じれば「所得が2倍になる」というメッセージが受け入れられ、最終的にはオリンピックや大阪万博のような晴れやかなイベントへと昇華してゆく。

笠松将さんは現在31歳だそうだ。いわゆる失われた30年しか生きていない。政権が(これは自民党だけではない)国民生活を豊かにできなくなった世代しか知らない。だから、彼らにとって政治とは単に「意味のわからない漫画」なのだ。

では笠松さんの要望通りに「キャラがはっきりする状態」になれば国民は政治に興味を持つだろうか。おそらくその答えは「興味を持つ」だろう。ではそれは本当にいいことなのか。

アメリカはレーガン政権時代に公平原則(フェアネスドクトリン)が廃止された。廃止の背景には様々あるようだが「自分たちの主張を反映したメディアがほしい」という要望が強かったようだ。保守派の人たちはフェアネスドクトリンが廃止されると自分たちの主張を強く反映したラジオ・トークショーを開始する。また大統領選挙では「青と赤の州」という対決が強調されるようになった。

アメリカの政治を統計的に理解する上智大学総合グローバル学部前嶋和弘教授は極端なメディアの誕生がアメリカの政治を分断したと言っている。結果的にメディアの信頼度は低下し極端な(ときには嘘を伴った)言動が幅を利かすようになった。

ここから

  • 笠松さんのような人に興味を持ってもらうためには「13巻からキャラ設定がはっきりした登場人物を登場させればいい」が、
  • おそらく「キャラ設定はメディアによって異なり、したがって政治的な分断か混乱が加速する」だろう

ということがわかる。

すでに自民党支持者には「少年ジャンプ的」な読者が増えており「正義の高市」と「悪の石破」という図式も作られている。悪が途中で心を入れ替えても悪の勝利で終わる漫画はない。

もともと政治参加意識が希薄な日本でキャラクター主義の政治が横行すればどうなるかがよくわかる。有権者は責任を取らず自分のお気に入りのキャラが相手をぶちのめすストーリーを好む可能性が高い。

その意味では笠松さんの「よくわからない漫画を途中から読み始める感覚」は「バカヤロー」で済ませるような軽い話題ではなかった。背景には「政治が我々の暮らしの役に立っているという実感が持てない人が増えている」ということがわかる発言だからである。

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