先日ABCニュースの紹介でお伝えしたようにメラニア夫人が「女性の権利擁護」陣営に加わった。ABCによるとブルース・スプリングスティーン氏やリズ・チェイニー氏などもハリス陣営に加わっておりトランプ氏の立場は苦しいものになっているはずである。包囲網の理由は「女性の権利擁護」と「憲法秩序の維持」である。
だが、それでも大統領選挙でトランプ氏とハリス氏は接戦と伝えられている。内外情勢調査会の全国懇談会でも「行方は読めない」ということになっているそうだ。
一体何がどうなっているのか。
メラニア・トランプ氏は「自分は中絶権は女性の権利の一部であると思う」と表明した。夫のドナルド・トランプ氏は保守派最高裁判事の任命を通じて中絶する権利を女性から奪っているが、メラニア氏はその件については触れなかった。テイラー・スウィフト氏も「女性の権利のために」としていハリス氏支持を明確にしている。これが「女性の権利擁護」陣営である。
選挙前30日というタイミングで特別検察官から新しい証拠が出てきた。トランプ氏は選挙に勝てなかったことを知っていて「そんなことはどうでもいい」と発言していた。そしいて公務エリアではないホワイトハウスのダイニングルームでTwitter(当時)投稿を行った。保守派の最高裁判事たちは「公務での大統領免責」を保護しているが、これは「私的な政治活動であろう」というのが特別検察官の見立てになっている。トランプ氏は民主主義の基本である選挙結果受け入れを拒んだ。
共和党の有力者チェイニー元副大統領と娘で元共和党議会有力者のリズ・チェイニー氏はハリス氏を支援している。「トランプ氏は憲法秩序と民主主義を破壊しようとしており保守派としては容認できない」というのがその主張である。歌手のブルース・スプリングスティーン氏も同様にハリス氏を支援している。
トランプ氏は「民主主義の秩序を破壊する」と考える人達と「女性の権利を侵害している」と考える人達から攻撃を受けている。選挙まで残り30日というタイミングでトランプ包囲網が狭まっている印象を(すくなくともABCやCNNを見る限りは)受ける。
しかし実際の世論調査で「ハリス氏が勝ちそうだ」という結果は出ていない。大統領選挙直前では極めて珍しいそうだ。なぜこんなことになっているのか。
メラニア夫人の主張についてトランプ氏は「誰でも好きなことを言う権利はある」と言っている。自分を支持してくれる人はすべてが美しいのであり誰が何を言っても構わないという態度である。トランプ氏の説明によれば「自分は各州がそれぞれ自己判断すればいいと言っているだけ」であって、女性の権利を制限しろとは命令していないと言っている。だから結果的に騒動が起きても自分は知らないというわけだ。
またメディアの信頼度が低下している。地上波・ケーブルテレビ優勢だったアメリカの言論事情はSNSの登場に揺れている。メディアの報道内容はSNSで監視されており信頼度も低下している。ネットが放送の主役としての地位を奪ってしまったのだ。
つまりアメリカの内部で「自分たちが勝手に好きなように解釈すること」を民主主義だと理解するようになっている。このためABCやCNNなどで「ハリス氏に支援が集まっている」などと言われても誰も信じないのだ。
特別検察官が大統領選挙前に「新証拠」を提示してしまうと司法を武器化したと言われかねない。そもそもメディアすら嘘だと思っている人が増えているのだから既存の秩序はアメリカではそれほど信頼されていない。
アメリカ政治を統計的に分析する上智大の前嶋和弘教授は日本政府の調査会で「予測の難しさ」を次のように表現している。メディアが意見集約機能を果たさなくなったことでSNSの混沌とした状況がそのまま投票まで持ち越されているのだろう。
前嶋氏は、既に期日前投票が始まっているため、「これから(それぞれの陣営が)何をやっても(結果が)変わらない部分もある」と指摘。その上で、勝敗を決するとされる激戦州での支持率差は「ほぼ誤差の範囲」で、わずかな変動で結果が変わり得ると語った。
「物価」が結果左右 米大統領選の行方予想―内外情勢調査会
また元財務官の渡辺博史国際通貨研究所理事長は経済こそがアメリカ国民の優先課題だろうと言っている。だがその経済とは「大統領選挙直前の瞬間風速」だ。
つまりここで何らかのインフレにつながる懸念がでると(実際にインフレが起きる必要はない)トランプ氏に有利になる。
前の投稿で「ネタニヤフ氏の行動がアメリカ経済に影響を与え間接的な選挙介入になると書いたのはこのためである。本来ならメディアがそれなりに解釈を加え報道するのだろうが、おそらくSNSでは急速な情報拡散が実際に大統領選挙に影響を与えることになるだろう。
渡辺氏は、両候補とも掲げる減税が「インフレをオフセット(相殺)するだけの効果があると(有権者に)評価されるか」が投票動向に影響すると説明。鈍化傾向とされるインフレが再び進めば「民主党政権に対する不満が出て、少なくとも民主党に投票しなくなる」結果、トランプ氏に有利に作用する可能性があると予想した。
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