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「公の場では議論しない」 高まる中東石油危機のリスク

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9月の雇用統計は好調だった。アメリカ経済の好調ぶりが示され、大幅利下げの可能性が減ったことでドル円も円安で推移している。現在は148円台で推移している。日本では石破茂新総理が誕生したせいで株価が乱高下していると話題になっているが、これはすべて無視してもいいだろう。実は中東情勢が急速に悪化している。

9月の雇用統計は好調だった。アメリカ合衆国は依然として人手不足が続いている。賃金上昇圧力がインフレにつながりかねないため市場が期待したほどの大幅利下げは行われない公算が高まっている。日本銀行と石破政権は金利引き上げに消極的と伝わっており金利差は縮小せずしたがって円安進行となった。

大統領選挙直前ということもありホワイトハウスは「ハードランディングは避けられた」「インフレは抑制傾向」「労働市場は好調」と宣伝し続けるだろう。これがSNSに乗って誇張され株式市場はやや「GREEDめ」に傾いている。

1929年の大恐慌の前夜人々は当時新しかったラジオで「株価は上がり続ける」というメッセージを受け取っていた。第一次世界大戦からの景気回復局面にあり実際に相場は絶好調だった。

新型コロナと戦争という違いがあるが経済的な背景が似ている。また新興メディアの登場により投資に縁遠かった人たちが投資情報を取りやすくなったという共通点もある。

しかし若干心配な状況もある。

それが中東情勢だ。イスラエルがイランの核施設を攻撃するのではという懸念がある。バイデン政権は核施設攻撃が全面戦争につながるのを回避したい。イスラエルに「核施設を攻撃するな」と圧力をかけているものと見られる。

ところが、イスラエルはこれを「だったら代わりの施設を攻撃するのは許してもらえるのだろう」と解釈するかもしれない。11月になれば大統領が変わる可能性もありそれまでにできるだけ「成果」を出しておきたいのが本音だ。

イランの核施設が攻撃されると全面戦争になる。とはいえイスラエルの支援を止めるめるわけには行かない。すると結果的に「石油施設くらいは攻撃してもいい」と容認したことになってしまう。そこでバイデン氏は「どんな交渉が行われているかは公にできない」と主張した。REUTERSはこれを見出しにしている。ABCニュースも同じトーンだった。

だが大統領選挙に思惑がないイギリスのBBCは違う書き方をしている。事実上「石油施設の攻撃は認めている」ということになる。

バイデン氏はこの日、イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃するのを支持するかと記者団から問われると、「私たちはそれを協議中だ。それは少し……まあともかく」と答えた。

バイデン氏、イスラエルによるイラン石油施設への攻撃を協議中と(BBC)

バイデン大統領はアメリカ合衆国がネタニヤフ首相をコントロールできていないと認めてしまい石油価格が高騰した。

イスラエルがどんな攻撃するのを認めるのかと聞かれると、「まず第一に、私たちはイスラエルに何かを認めるわけではない。イスラエルに助言するのであり、今日は何も起こらない」と答えた。この発言があった直後、原油取引の指標となるブレント原油価格は5%上昇した。イランがイスラエルに大規模ミサイル攻撃を実施した1日以降では10%の上昇となっている。

バイデン氏、イスラエルによるイラン石油施設への攻撃を協議中と(BBC)

ロイターの記事にも「あ、連絡が取れていないんだ」とわかる箇所がある。あるいは「石油価格高騰の主犯」になるのを恐れて距離をおいているのかもしれない。だがこれは「まもなく何かが起きるだろう」と認めているのと同じである。

イスラエルのネタニヤフ首相とここ数日に電話協議していない理由については「今は何も起こっていないからだ」とした。

バイデン氏、イラン石油施設攻撃巡り「公の場で交渉せず」(REUTERS)

今のところ中東戦争機器の経済への影響は限定的だが仮にイスラエルが強硬突破してしまうと石油価格が暴騰する可能性がある。するとバイデン政権と後継のハリス政権は「大統領選挙直前にインフレを招いた」主犯として共和党の攻撃を受け、結果的にトランプ氏への支持が広がってしまう可能性があるのだ。つまりネタニヤフ首相は軍事行動を通じてアメリカの大統領選挙に介入できる「カード」を持っている。

仮に現在の投資環境が投機筋と機関投資家などのプロによって支配されているのであれば「それなりにリスクが織り込まれる」ことになるだろう。市場は冷静に判断するはずだ。ただ、現在の投資環境が本当にそうなっているのかには疑問もある。

その保証はどこにもないということは8月初旬のVIXの急上昇と株価の乱高下を見ればわかる。

日本では石場総理の誕生と株価の乱高下を結びつける報道が散見されるようになった。だがおそらくこれは正しくないだろう。

地政学リスク(アメリカが安全保障環境を定義できない)ことと金融・情報リスク(冷静な機関投資家が状況を定義できない)などまだ構造分析が進んでいない状況がいくつかありこれが世界経済に大きな影響を与えているものと考えられる。

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