石破政権が発足し共同通信と読売新聞からアンケート結果が公表された。支持と不支持が再逆転し約半数が新しい政権を支持している。
今回は「なぜ総理・総裁が変わると支持率が上がるのか」を考える。仮説として「壊れかけの家電買い替え理論」を提示する。読む前に家の中の壊れかけたなにかを見つけたうえで読んでいただきたい。テレビでも車でも構わない。中には壊れかけた人間関係(夫婦の間でも上司との関係=つまり離婚や転職)を想起する人もいるかも知れない。
新政権が発足し支持率は回復した。共同通信では50.7%が支持しているが読売新聞では51%になっている。これは菅政権発足時よりかなり低く岸田政権発足時よりやや低いという微妙な状態だ。
共同通信によると比例先として自民党を選択する人は38%程度。一時は立憲民主党が逆転しているなどといわれていたが16%程度になっている。読売新聞では立憲民主党を選ぶ人がやや低い12%程度になっている。
共同通信は6月30日にも比例投票先を聞いている。記事は産経新聞のものだが内容は共同通信のもの。
共同通信社が29、30両日に実施した東京都知事選の電話調査で、次期衆院選の比例代表投票先を聞いたところ、18%が立憲民主党と回答し、自民党の16%を上回り、トップとなった。普段の支持政党は自民が25%で、12%の立民をリードしたが、比例投票先では立民が逆転した。
[中略]
「決めていない、分からない」は25%だった。
衆院選比例代表の投票先、立民がトップ 自民の苦境を反映 共同通信電話調査
当時は「普段自民党を支持している人たちが立憲民主党に流れた」などといわれた。東京都知事選挙で「蓮舫氏が勝てるのではないか」と期待されたのはそのためだ。だが、今回の調査結果と合わせると立憲民主党の支持はそれほど伸びていない事がわかる。ポイントは「決めていない・わからない」層の増加だろう。
ではなぜこの「決めていない、わからない」が自民党支持に戻ったのか。共同通信の記事では「政治とカネの問題が石破総理の元で解決する」と考える人はそれほど多くないことがわかる。読売新聞でさえ人事を評価しない人が43%もいると書いている。
さらに石破首相を支持する理由は「他に適当な人がいない」からである。自民党は今回の総裁選挙で「党内に様々なアイディアを持ったリーダーが多数いる」ことを示したばかりだ。それでも石破総理を支持する理由を聞くと「他に誰もいない」ことになってしまう。日本中で集団健忘症が流行しているという話は聞かないが有権者は総裁選があったことを忘れている。
そもそも比例投票先38%が高いのか低いのかという問題が出てくる。三崎充希(はる)氏がまとめている。自民党の比例投票先の平均と書かれているので「自民党支持者の事例投票先」とも読める。だが、その割には数字が高くないので「比例投票先として自民党を選択した人たち」のことなのではないかと思う。実は選挙のたびごとに回復する傾向にあるようだ。
選挙がないときには「もう自民党は応援できない」と思って迷っている人たちが離反するが、選挙が近づくと「とはいえ他に選択肢がないし……」と考えて自民党に戻ってきていることになる。
選挙がない時は「もう自民党はないなあ」と考えるが、いざ選挙になると「自民党から政権が変わったときのこと」を考え「変えない理由を探す」ということだ。
このメンタリティはどこかで見たことがあるぞと感じた。
テレビが壊れかけている。見ている時は不満になる。そう言えば音も悪いし映像が出るまで時間がかかるなあと不満を感じ「そろそろ買い替えどきではないか」と考えるわけだ。
だが実際に「テレビを買う」となると「コストはどれくらいになるのだろう」「そもそもどうやって次のテレビを選べばいいのか」などとアレコレ迷い始める。するともういいやと考えて今後は「テレビを買い替えない理由」を探し始めることになるだろう。
マーケティングではこうした切り替えコストのことを「スイッチングコスト」という。「古いテレビを下取りします」というのはこのスイッチングコスト(廃棄の手間)を低減する狙いがある。投票先選びを見ると日本人は極めてこのスイッチングコストを面倒に感じているということになるだろう。
しかし現在の政治報道では日本人がどこに「スイッチングコスト負担」を感じているのかがわからない。
- そもそも政党を探すために立ち上がるのが面倒だと思っている。
- 自分の考えが周囲にどれくらい受け入れてもらえるかわからない。
- 立憲民主党などの野党に変わったときの面倒を懸念している。
- 現在の医療・福祉政策が継続することを望んでいるが、立憲民主党などがそれに答えてくれるかはわからない。
- 高齢化が進み何かを変えようと考える意欲そのものが減退している。
個人的には、高齢化はかなり重要なファクターではないかと思う。若い人はあれこれと新製品に手を出すが高齢になると「やっぱりカップヌードルは普通味かシーフード」ということになる。いつもの味に不満を持ったとしてもいざ店にゆくと何を選んでいいかわからなくなるからだ。結局「いつものアレでいいや」と考えてしまう。
実に様々な可能性が考えられるが、その答えはよくわからない。既存の政治報道は党内の人間関係に注目する「政局報道」か、政権選びは「政策ベースでなければならない」という思い込みが極めて強く阻害要因に注目が集まることはない。
仮にスイッチングコストだけが問題だとするとそれが取り除かれてしまえば変化は早いのかもしれない。
さらに言えばそもそも腰を上げて行動を起こすまでに時間がかかっているだけかもしれない。転職や離婚を例に上げると、おそらく行動を起こすまでがもっともハードルが高い。一度動き出してしまえば次第に加速がつきなんとかなってしまうものだ。
三崎氏のグラフに戻ると、人々は確かに「選挙前か総理・総裁の交代で変えない理由さがしに転じている」可能性がある。だが、その「上方跳ね返り力」が弱まっているようにもみえる。この意味するところはよくわからない。
立憲民主党の戦略は「自民党から離反した人」を取り込む戦略だが、おそらくこれは失敗するだろう。そもそも「変えるのが面倒だ」という人たちの懸念に応えていない。