ファッションデザイナーの世界 – 構想から実現までを読んだ。構想のまとめ方から組み立て方など 、つまりどうやったらデザイナーになれるかが書いてある。市場で何が流行っているかをキャッチするのは重要なのだが、時には、大胆な提案も求められる。コンセプトは「デザイナーが提案する」のだが、ゼロから全てのコンセプトを作り上げるわけではない。
まずデザイナーはインスピレーションのもとになる素材を集める。例えばある民族の衣装(日本の着物だったり、マサイ族の衣装かもしれない)や特定の時代を背景にした映画などがインスピレーションの元になる。ミューズといって「この人にこういう衣装を着せたら似合うだろうなあ」というのもインスピレーションの元になるそうだ。これらを集めて来て、要素に分解する。その要素をまとめてイメージボードを作る。
次にコンセプトとテーマを決める。コンセプトは「繭」(どうやら形状というよりも「包み込む」という抽象概念のようだ)だったり「宇宙」だったりする。構造的な「プリーツ」もコンセプトの例に挙っている。コンセプトと同時により具体的な「テーマ」を決める。本には「特定の神話世界」「時代背景」のようなものが挙っていた。
コンセプトやテーマを決めると、服のアウトラインが決まる。フランス式は曲線的なアウトラインなのだが、アメリカと日本は幾何学的なシェイプ(AとかXとか)を使うのだそうだ。さらにカラーパレット(一連の色の組み合わせ)を決めたら、土台になる作業は完成だ。
さらに、このトーンを象徴するキーイメージを作成し、ブックを形成する。もちろんフォントにも意味はあるし(GaramondとHelveticaは歴史が違う)ロゴなどもトーンを決定することになる。
ここまでがだいたいコンセプトの作り方だ。誰でもファッションデザイナーになれそうだが、ここに落とし穴がある。デザイナーがシェイプを決めるとき、布がどう動くか、色はどう見えるかなどを知っていなければならない。つまり、デザイナーはコンセプトメーカーであるだけではなく、職人でもあるべきなのだ。実際には縫製をまったく経験したことがないデザイナーというのも存在するようだが、布の動きについては熟達しているはずだ。
つまり、コンセプトメーカーとしてのデザイナーは、服という特殊知識と、今の市場が何を求めていて、過去にどんなスタイルがあったかという一般的な知識を併せ持っている必要があるということになる。
広告業界にも似たような考え方があるようだ。J.W.トンプソンの副社長を務めていた人が書いたアイデアのつくり方という短い本は資料を「一般」と「特殊」に分けている。対象クライアント、顧客、製品などについて考察するのは大切だ。これが「特殊資料」になる。しかし、「一般常識」や「考察対象に関係がない」資料も同時に必要だ。デザイナーは専門の知識だけでなく、一般的な常識も必要なのだ。
それを裏付けるように『ファッションデザイナーの世界 – 構想から実現まで』には、わざわざ映画のリストが載っている。テーマのもとになるのだが、映画は直接ファッションに関係がないから一般資料になるのだろう。
フランス人がブック作りにこだわるのは、分業体制が前提になっているからだそうだ。彼らはコンセプトだけを作り、これを世界各地にある縫製部隊に回す。実際に製品を作り上げるのは世界各地にある実行部隊で、デザイナーの最終承認を経て、コレクションが完成する。グローバル化した世界が前提になっている。
つまり、デザイナーは、専門知識、一般常識だけでなく、国際的なプロジェクトマネジメントの知識までが要求されるのである。