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石原慎太郎と保守老人という害

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豊洲移転問題の大体の構図が見えてきた。
石原慎太郎は築地市場問題には興味がなかった。しかしながら、東京ガスは有毒で民間が買い取りそうにない土地を都に押し付けたいという希望を持っており、それに政治家が関与した。
東京ガスはいいわけばかりの土地再生処理を行ったのち都に土地を押し付けた。ところが実際に土地を見たところ、当初の予算ではとても処理ができそうにない。そもそも処理できるなら民間が買い取っていただろう。
そこで石原は技術官僚と現場に「なんとかするように」と言い含めた。これを指示だと受け取った現場側は土を使わない節約方法を提案した。しかし、表向きはすべてきれいな土を使うということになっているため議会には説明しなかった。だが、技術文書や契約書には、盛り土はしないということになっており、責任者はそれを了承した。
議会に説明しなかったのはこれをまともなルートで議題に挙げると承認したのは議会だということになってしまうからだ。現場側としては技術的文書に印鑑は押されている。だから承認は受けたと言える。そして、責任者は細かいことはわからないと言うことができる。
ここでいう「老害」とは何だろか。それは、責任を取るべき役席にありながら「知らなかった」で済まされると思っているところだ。石原に至っては「私は騙された」と言っている。役席の特権は享受しながら、実際の責任は取らなくて良いと本気で信じているわけだ。本来なら知らないことを承認することなど恐ろしくてできないはずなのだが、それを考えたりはしない。石原は「都知事とは言われればハンコは押す存在だ」という趣旨のことを言っている。最初から政治的プレゼンスのために都知事という役職を利用したのであって、その責任を果たすつもりはなかったのだ。
有毒の土地を買い取っていて「なんとかしろ、ただし予算はない」と言っている。つまり、判断の責任を取らず、解決策を提示もせず、単に利益だけを貪ろうとしている。もし「知らなかった、できなかった」というなら、すべての報酬を返還すべきだろう。移転中止で莫大な損害を被る市場側は歴代の都知事を訴えるべきである。
どうやら現場は問題を認識していたようだ。盛り土をしても有害物質が上がってくるかもしれないし、液状化して地盤が使い物にならなくなるかもしれない。そこで土地の一部に空洞を作って調査できるようにしていたようである。
よく保守を名乗る人たちは、日本には長い歴史があるので日本人であることは誇るべきだが、個人としての日本人には価値はないなどということを言っている。しかし、実際には私たちが豊かな文化を持っているのは、単に天皇陛下が毎日先祖に祈りを捧げているからだけではない。例えば、毎日危険を覚悟で漁に出かけ、一生をかけて魚の良し悪しを学ぶ仲卸が朝早くから魚を仕入れているからである。つまり、毎日の積み重ねが、私たちの伝統を支えている。
集団無責任体制が悪いとは一概には言えない。それはある意味「優しさ」である。だが、その「優しさ」の結果、築地の伝統が破壊されかけた。それは近代東京が育んできた魚食文化が根底から破壊される可能性を含んでいた。すでに「新市場の土地は汚染されている」という風評が英語で発信されており、東京への寿司ツーリズムは被害を受けるかもしれない。つまり<保守老人>に熱狂した人たちは、日本の伝統を潰しかけたのだ。
真の保守はどうしたらこのような毎日の暮らしを守って行けるかということを真剣に考えるべき人たちなのではないだろうか。なぜこのようなことが起きたのかを真剣に考えるべきだろう。
翻って石原は、自分の差別意識に根ざして尖閣諸島の件で中国を挑発して事態を悪化させるくらいの<愛国心>しか見せなかった。その一方で、暮らしや民族の伝統を守るということについては、何の見識もなかったのである。
一見無関係に見えるプロジェクト管理能力のなさと<保守的発言>なのだが、実際のところは通底するものがあるのかもしれない。現場に対する理解がないからこそ、無責任で放埓な<保守>発言ができるわけだ。
ここで「私こそ真の愛国者だ」と叫びたくなるのだが、それは控えておいたほうがよいのかもしれない。誰でも自分の地域や国を誇りたいという気持ちは持っているものだ。しかし、それを支えているのはなんということのない日々の繰り返しであって、声高に何かを叫んで、誰かを罵倒しても、それが明日を作ることはない。

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