先日、ファッション雑誌には足りないものがあり、ネットには新しい可能性があるだろうと書いた。まあ、理屈としてはわかるのだが、実際を調べてみた。
「私をまとめる」という機能はないが、スタイルごとに情報をまとめるくらいはできるようになっている。多分、スマホ世代で「雑誌でしかファッション情報を取らない」という人がいれば、かなりの情報弱者だろう。ファッション雑誌が、読者モデルのスター化を進めたり、中高年を相手にしなければならない事情がよく分かる。ファッション情報の提供という意味ではすでに遅れた存在なのだ。
WEAR : 参考になる人を見つける
ZOZO Townのメールマガジンにショップスタッフのコーディネートが出ている。身長や体重の記述があるので、似ている属性のスタッフさえ探せれば参考になるかもしれない。実際にはWEARのシステムを使っているようだ。
スタイルはタグ付けされており、気に入ったスタイルを探すこともできる。ちなみに大人カジュアルを検索するとこんな感じになる。ショップ現場の情報なので雑誌編集者のバイアスが入っておらず、生の声に近いと言えるかもしれない。一方でデザイナーが新しいスタイルを提案したいと考えても、現場が納得しなければ導入は難しいだろう。ファッションは却って保守化しそうだ。
各コーディネートはアイテムに結びついているので、どのような着方がされているのかを勉強することもできる。性質上、購入前情報の提供が主眼になっているが、購買後の研究にも使える。
プロのモデルとの一番の違いはポーズのバリエーションが少ないことなのだが、洋服とはあまり関係がない。
Lookbook
このWEARの元になっていると思われるものがLookbookだ。こちらは消費主体の発信になっているのだが、長く続けている人はポートフォリオをまとめたい写真家などのようだ。
Lookbookはポートフォリオ形式だ。見せたいのはその人らしさであって洋服ではない。WEARには目に線が入った人がいるのだが(日本人は目が特定されると魂が抜かれると考えているのかもしれない)Lookbookにはそれは見られない。
日本人の参加者もいるのだが、活動はあまり活発ではないようだ。
Lookbook : スタイルを探す
Lookbookはしばらく見ないうちにかなり進化していた。中でも面白そうなのが「Explore」機能だ。どのような仕組みで選ばれているかはわからないが、トレンドになったタグやタイトルが集められている。このため、スタイルやトレンドに合わせて服を選ぶことができる。例えば「Yogaをやりに行くときにはどういう格好がよいのか」ということが探せる
日本のサイトはどうしても「服を売りたい」という視点で作られるのだが、Lookbookは自分を表現するということがテーマだ。だから、服はそのための道具の扱いである。
日本人がどうしてLookbookのようなサイトが作れないのかという仮説はいくつかある。一つ目の仮説は専門性のサイロ化が進みやすいという供給側の事情だ。次の仮説は同調傾向が強く「私らしさ」を打ち出すよりは「みんなと同じものを着て安心したい」という傾向が強いからかもしれない。二番目の仮説を取ると「売れ筋」のような企画に人気が集まり、私らしさを打ち出す企画には人気がないことが予想される。
プロはどう発想をまとめてゆくのか
ファッションデザインは西洋の考え方がデファクトスタンダードになっている。『ファッションデザイナーの世界』を読むと、どのようにコレクションを作るのかがよく分かる。概念の説明ではなく具体的な資料が多いので、グラフィックデザインを扱いた人は一度は目を通しておくべきかもしれない。
デザイナーはコレクションを作る前にテーマを決める。そのテーマを想起する写真素材を集めてボードを作る。そして、その世界観を実現できる素材を探して、最終的にスタイルを決めてゆく。
ファッションデザイナーを扱ったテレビドラマなどで天才デザイナーがいきなり着想を得てサラサラと白い紙にペンを走らせるようなシーンが出てくるが、何の準備もなしに着想できる人などいないのだ。
仮にいたとしてもその人は現在のデザインシーンでは活躍できないだろう。ファッションの世界は分業化が進んでいて、着想したものをインドや中国のスタッフに伝えなければならない。日本人はクリエイティブを演奏家のように考える傾向があるが、実際にはオーケストラの指揮者に近い。
以前にも紹介した通りコレクションボードを作って共有するのはとても簡単になっている。ピンタレストというサービスがあり、ネットにある写真をピン留めして整理してくれるのだ。新しい素材を発見するのも簡単で、機械が自動的にお勧めを教えてくれる。ビジュアルデザインを扱う人で知らない人はいないと思うのだが、トレンドを扱う事務方の人の中には知らない人もいるかもしれない。
このボードは「昭和の懐かしいもの」というタイトルをつけた。面白半分のコレクションだが、こうしたコレクションであっても招来何かの役に立つかもしれない。役に立たないとしても眺めているだけで楽しい。
まとめ
ファッションデザインだけでなく、雑誌は情報整理の最先端ではなくなりつつある。キーになりそうな要素はいくつかある。
- より多くの人が提供できる。(集合知)
- 集合知が定型化されていて、タグ付けができる。
- タグ付けされた(データが情報になった)ものを、個人が整理できる(マイページ)
- データが評価される。(フィードバック)
- 評価に基づいてデータが自動的に収集される。
ネットは相互学習のプロセスなのだということがよく分かる。この相互学習のことをインターラクティブと呼んでいるのだ。