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石破茂新総裁が固執するアジア版NATOの代償

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ハドソン研究所が27日に石破茂氏の新構想を発表した。執筆時期は不明だそうだ。この内容を見て「自分が売り込む側だったら石破氏は簡単な相手だろうなあ」と感じた。NATOのような集団安全保障の枠組みはすでに過去のものになりつつあるが「セールスマンたち」にとっては利用価値がある。ただし代金をお支払いするのは石破さんではない。日本の納税者である。

石破氏がどの程度の代償を払う必要があるのかについてはぜひ国会論戦で聞いてみたい気がする。「請求書は後ほど」とならないことを望む。

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石破氏の構想には次の様なものが含まれるそうだ。時事通信共同通信が書いている。

  • アジア版NATOは核の共有や持ち込みの主体となる
  • NATOのような集団安全保障体制であり、オーストラリア・インド・英国・韓国が加盟国になる。
  • 日米安全保障条約や地位協定を改訂し米領グアムに自衛隊を駐留させる

是非については後ほど議論するとして、自分が「先方」だったらどう考えるだろうと想像してみた。不謹慎な笑いが止まらなかった。

石破氏は「日本に国際的な地位をNATO並に格上げしたい」と考えている。相手の願望は明確なのだから「これは使える」と考えるはずだ。そのうえで、石破氏をビジョンを持った世界のリーダーと持ち上げてみせるだろう。

その後で少し眉をひそめて「だがこのプランは少し野心的すぎる」ので「ボスや周辺を説得するのが大変だ」と懸念を表明する。特に議会対策が心配だ。そのためには説得材料が必要だ。

そこで要求リストを持ち出し「このあたりの貢献から始めてみてはどうか」とほのめかす。これを複数人に言わせれば完璧だ。信憑性が多いに増す。更に役割を分けて強硬な反対派をぶつけても良い。トランプ政権であれば「強硬路線のボス」と「石破氏の味方」を分けてもいいし、悪者の役割を議会に背負わせてもいい。

これが外交防衛の違いである。

では実現可能性について考えてみよう。どうやら石破氏の考えるアジア版NATOはアメリカ、イギリス、オセアニアを含む広大な同盟になるようだ。共同核対処が前提になっていることから「運命共同体」と言って良い。つまりイギリスやオーストラリアがどこかから攻撃されたら自動的に参戦することになる。こんなことは現行憲法では実現不可能だがこれを飲まない限り共同核を持つことはできないだろう。

現状維持を望み強い巻き込まれ不安を持つ自民党支持者たちが「防衛義務」について聞かされるとかなり驚くのではないかと思う。韓国が入った枠組みなので朝鮮民主主義人民共和国が大韓民国を攻撃すると自動的に朝鮮戦争に日本が巻き込まれることになるという提案だ。

憲法改正に加えて多額の出費も気がかりである。日本は相応の責任を追うことになりこれまでのように日米同盟にフリーライドできなくなる。日本人がロシア・中国・北朝鮮からの脅威を今そこにある危機と考えてくれればいいのだがそうはなっていない。

「いやそれは今そこにある危機だ」と主張する人はいるだろう。だがイスラエルやウクライナのミサイル攻撃を見る限り日本人が「今そこにある危機」を理解できているとは思えない。日本の場合はEEZ外に落ちた飛翔体に対して政府が「状況を注視する」止まりでも誰も文句は言わない。だがイスラエル周辺でもウクライナでも大勢の人が亡くなっている。

ただし、石破新総裁はそれなりに本気のようだ。自民党の政策の要である政調会長に防衛大臣経験者の小野寺五典氏を充てる方向で検討が進んでいるという。防衛大臣だけでなく予算委員長を経験しており適任と言える人選だが政策の中心課題として日米安保や地位協定の改定を据えていることがわかる。

そのためにはアメリカの要求に従ってある程度の「持ち出し」が必要になる。これが石破氏のポケットマネーから出てくるのならそれでも構わないのかもしれないのだが、実際には国民が負担することになる。

ではこれは実効性のあるまとまりになるだろうか?という疑問が出てくる。確かに日本が対峙しているのは中国、ロシア、北朝鮮と行った主権国家だ。主権国家が枠組みを作って共同対処するのは正しいように見える。

しかしウクライナの事例ではNATOの加盟国でもないウクライナに対してNATOが事実上の防衛義務を負っている。バイデン大統領が「ウクライナ=民主主義陣営価値」という意味付けを与えてしまったためにNATOはウクライナを見放せなくなっている。しかしこれも政権が変われば状況が一変する可能性がある。トランプ氏は「取引」でこの問題を解決しようとしているからだ。

ウクライナと近いのが台湾だ。アメリカは台湾を国と認めていないのでアジア版NATOには入らない。しかし米華同盟が事実上生きておりアメリカ大統領は介入権限を持っている。つまり域外国で戦争が起きると(台湾海峡有事)日本は対応を迫られることになるかもしれない。

議会の権限が強いアメリカでは大統領は独裁できない。バイデン大統領のクワッドも「首脳同士の約束」によって成り立つかなり不安定な枠組みに過ぎない。とても新しいNATOなど作れそうにない。

イスラエルの場合はもっと悲惨だ。イスラエルとアメリカ合衆国は同盟関係にある。しかしイスラエルのシリアへの攻撃はこの同盟協力の枠外に行われている。高専相手は国ですらない「ヒズボラ」という手段でイランとの結び付きがあるとされている。イスラエルはヒズボラのナスララ氏を殺害し(ヒズボラ側がそれを認めたようだ)イランはハメネイ師を退避させている。同盟の外でおきた争いにアメリカが巻き込まれようとしている。

アメリカは自分たちは関係がないとしているがイランは「アメリカ製のミサイルが使われているからアメリカも当事者だ」と主張する。NATO加盟国のトルコはこの問題でイスラム側を支援する。BBCは「アメリカはただ傍観しているだけ」と批判するが傍観者のままでは済まされないかもしれない。

日本にとっては極めて野心的な目標であるNATO型の集団自衛体制はすでに過去のものになりつつあり実際の紛争の解決に役に立っていない。アジアだけで見ればそれでも「正しい枠組み」のかもしれないが、アメリカとイギリスを含んだ時点で現在の世界情勢の影響を受ける。

石破総裁が仮に「NATOは時代遅れかもしれない」と指摘されたときになんと答えるかまたそのためにはどの程度の負担を覚悟し国民を説得しようとしているのか。国会論戦でぜひ聞いてみたいものだ。

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