ざっくり解説 時々深掘り

レバノン南部の情勢が緊迫 地上部隊の派遣も

Xで投稿をシェア

レバノン南部の情勢が緊迫している。この記事には2つのねらいがある。1つはそもそもなぜレバノン南部がガザ地区のような状態になっているのかについて純粋に探求することである。もう1つは日本の防衛戦略に関わる問題について考えることだ。主権国家体制崩壊という背景があり日本国憲法が前提にしてきた国連体制が無力化・無効化することになる。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






イスラエルがレバノン南部への攻撃を強めている。ヒズボラ(レバノン国軍ではない)がイスラエルへの攻撃を強めていることに対する対抗措置だ。イスラエルは自国攻撃につながる地域を無力化し緩衝地帯を設置する狙いがあるとされており地上軍の展開も辞さない考えだそうだ。レバノン側に500名以上の死者が出ていて50万人が避難を余儀なくされている。

アメリカ合衆国は自国をこの問題から切り離そうとしてる。なんの通告も受けておらず情報も渡していないと言っている。だがイスラエルの暴走は止まらない。

そもそも主権国家に侵略することなど許されないのではないかと思った。だが事情はそれほど単純ではなかった。イギリスとフランスはオスマン帝国から領土を奪いそれぞれ統治することにした。名目上は民族がオスマン帝国の支配から自由になるためにフランスとイギリスが支援していることになっていたため「委任統治」という形が取られた。委任統治は民族の解放=独立が前提になっている。

フランスはキリスト教主体の地域にイスラム教主体の地域を併合する「大レバノン」を構想する。地域勢力を競わせ自治が拡大しないように試みた。シリアでも各勢力がお互いに競うようになった。大レバノンは独立し現在のレバノンができた。キリスト教マロン派が大統領を出す決まりになっている。

イスラエルがPLOを追い出し紆余曲折を経てレバノン領内に武力を持ったまま到達する。そもそもキリスト教徒がいない地域だった。バランスが崩れキリスト教徒側が反発すると内戦が起き、個々にアメリカ合衆国などが介入する。PLOは激しく反発し200名近くが亡くなる自働車による自爆事件が起きアメリカは撤退した。

内戦が起きるとシーア派を支援するためにイランが介入する。こうしてできたのがヒズボラである。

ここまでは昨日の記事で勉強した。

テレビ朝日が次のような記事を書いているのを見つけた。キリスト教勢力とイスラム諸派がモザイクのように絡み合い大統領が出せない状態が続いているそうだ。大統領が出せないとはどういうことなのだろうか。ロイターに記事があった。ヒズボラが妨害している。

ヒズボラと同盟党の議員らは1ラウンド目の投票後に退出し、議会は2ラウンド目の投票に必要な3分の2の定数を割り込んだ。2ラウンド目では65票を獲得すれば勝利する。

レバノン、12回目の大統領選出に失敗 政治空白が長期化(REUTERS)

ヒズボラとは軍事組織なのではないかと思ったが「ヒズボラと同盟党」という政党があると書いている。厳密にはLoyalty to the Resistance Bloc(抵抗への忠誠ブロック)と言う政党を組織しているそうだ。彼らが不在になると大統領が出せない仕組みになっている。大統領がいないと首相が任命できない。

このためレバノンには大統領がおらずミカティ首相が兼任している。しかし、首相が自分で自分を指名することもできないため、ミカティ氏の現在の肩書は「暫定首相」のようだ。

レバノンのミカティ暫定首相は5日、レバノンとイスラエルの国境沿いの敵対行為を終わらせるための間接協議が、来週始まるイスラム教のラマダン(断食月)中に開始されると明らかにした。

レバノン・イスラエル紛争解決、ラマダン中に協議開始=ミカティ首相(REUTERS)

イスラエルの立場に立つと(ほぼ)無政府状態のレバノンに対して「ヒズボラをなんとかしろ」とは言えない。だから自分たちでなんとかしなければならないことになる。しかし民間人との区別がつかないのでとりあえず攻撃を加えて戦う意思のない人たちを蹴散らしてからヒズボラを掃討しようということになったのだろう。ただこれが自衛の一環なのですか?と問われれば「他国への侵略にほかならない」といえる。

現在の国連体制はこのような軍事攻撃を容認していない。すべての民族(その定義は極めて曖昧だが)は自立権を持っていて他国の政府から攻撃されないことになっている。このコードを破った国は国連の一部の国が強い権限を持つ安全保障理事会が厳しく対処するというのが建前である。

しかし現在の安全保障理事会では機能していない。アメリカ、イギリス、フランスと中国、ロシアが激しく対立しているからだ。

この事象を見るとどうしても「この状態をどうすべきか」を考えたくなる。だがそれよりも「現在の国連が前提としている専守防衛体制は崩壊した」ことを認めない限り先に進めないことがわかる。

レバノンの情勢を見ると「フランスが人工的に作ったレバノンと言う国」が崩壊していることになる。これを認めるとレバノンは小さな初邦に分裂する。それぞれのイスラム諸派がそれぞれ「民族として自立すべき」ということになるからだ。だが彼らは混じり合って住んでおりなおかつ南部の一部政治勢力は「イスラエルへの抵抗」が存在理由になっている。

ただ「レバノンだけをみてそんなことを言うのは極端だ」という人もいるだろう。だが同じ状況はウクライナにもある。ウクライナはポーランド・リトアニアに栄養を受けた地域とロシア帝国の一部だった地域をくっつけて作られた国だ。当初は確定したウクライナ領域を守る戦争だったが、最近ではロシアへの越境も見られる。理屈はイスラエルと一緒で「敵地の攻撃能力を潰す」ということになっている。イスラエルにしてみれば「ウクライナがやっていることをなぜ自分たちはやってはいけないのか」ということになる。

日本で例えると、中国の共産主義体制が崩壊したあとで一部地域が「抗日勢力」の支配下に入り(外国の支援を受けたか過去の遺産を使って)日本への攻撃を仕掛けてきた状態ということになる。この地域のミサイル基地を攻撃することは「防衛の範囲ですか?」と質問してみても、おそらくは

  • 仮定の質問にはお答えできません

となるのが関の山だ。現在の日本国憲法はこんな事態を想定していない。

アメリカのバイデン大統領とフランスのマクロン大統領は「まだ外交による解決は可能」と主張している。これは「まだ現在の国連体制は機能しうる」という意味なのだが現実はそうなっていない。

本日書いた中国のICBMの記事では「アメリカの同盟優先主義が民意の賛同を得られなくなりつつありそれを前提にした自民党体制は崩壊する可能性がある」と書いた。彼らの頭の中はウクライナとイスラエルでいっぱいいっぱいになっていてとても中国どころではないのだ。

しかし、イスラエルの情勢悪化が意味するところはこれよりも一段深刻である。

現在の日本国憲法も日米同盟も国連による平和維持を基礎においている。現行憲法は(将来作られるであろう)国連体制を信頼して武力による問題解決を放棄すると言っている。また日米同盟も国連体制はまだ完全に機能していないからそれを埋めるために日米同盟を作ると書いている。「国連の機能不全」を認めてしまうと自民党どころか日本国憲法まで崩壊してしまうのだ。

この瞬間に護憲派の主張も現行憲法と日米同盟を前提にした自民党の改憲論も(論理的に考えて)崩壊する。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です