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ベイルート空爆で1983年レバノン大使館襲撃事件の首謀者が死亡

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イスラエルはレバノンへの攻撃を強めている。まずポケベルが爆発し、続いてトランシーバーが爆発した。ヒズボラの壊滅を狙ったものとされているが大勢の民間人が巻き込まれている。第三段として大規模な空爆が行なわれヒズボラの幹部が殺害された。

欧米のメディアは「イブラヒム・アキル司令官が殺害された」と伝えている。1983年にレバノンで大規模な襲撃事件が起き200人近くが殺された。この事件の首謀者とされているそうだ。

改めて対立の長い歴史が感じられる。

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アメリカ合衆国など欧米諸国はレバノン内戦に参戦した。内戦の介入に反発した勢力は自働車を欧米の施設に突入させて爆破させるという作戦を思いつく。1983年には大使館と海兵隊宿舎が爆破され200名近くの死者が出たそうだ。

アキル司令官は1980年代に、1983年の在ベイルートのアメリカ大使館と海兵隊兵舎爆破事件などを計画し実施したグループに参加していた。この爆破事件では200人近くが死傷している。

イスラエル軍がベイルートを空爆 ヒズボラ幹部殺害

この結果、アメリカ世論はレバノン撤収に傾いた。これ以上の犠牲者は出せないというわけだ。当時はレーガン政権だったそうだ。内戦は泥沼化し1990年まで続いた。

こうした作戦が行われたことで、米軍がレバノン内戦で政府側を支援していると国際社会で受け止められるようになった。1カ月後、シーア派勢力がベイルートの米海兵隊と仏軍の兵舎に対して自爆攻撃を行い、米海兵隊員241人と仏パラシュート隊員58人が死亡した。84年2月、レーガン大統領はレバノンから米軍を撤退させた。内戦は90年まで続いた。

情報BOX:過去の米軍限定攻撃が招いた結末

そもそも内戦はどうして起きたのか。

レバノン内戦はパレスチナ人がレバノンになだれ込んだことがきっかけになっているそうだ。中東というとイスラム教徒というイメージがある。だがレバノンにはマロン派と呼ばれるキリスト教の一派が住んでいる。マロン派は「典礼カトリック」と呼ばれることがある。独自の典礼は維持するが教義はカトリックのものを採用している。カトリック教国にレバノン人が多いのはそのためである。つまりレバノン内戦はパレスチナ紛争をきっかけにして起こった宗教戦争の側面がある。

アサフが6歳だった1975年4月、レバノン内戦が勃発した。きっかけはキリスト教徒の一団が、パレスチナ難民を満載したバスに発砲したことだった。当時はベイルートにはパレスチナ人が多く流入し、レバノンをパレスチナ解放機構(PLO)の拠点にしようと活動していた。

アラブのキリスト教徒

改めて言うまでもないことなのかもしれないのだが、今回の爆撃から地域の紛争がずっと以前から続いていることがわかる。

ABCニュースの独自取材によるとイスラエルは15年間かけてヒズボラの無線機に爆弾を仕掛けていた。ポケベルの中には1〜2オンスの爆薬と起爆装置が仕掛けられていたそうだ。

イスラエルはおそらく時期を狙って長年かけて仕込んできた爆発物を起動しヒズボラを壊滅させようとしてきたのだろうがBBCが伝えるようにこの作戦は失敗に終わっている。戦術的には成功したが「パニックに乗じてヒズボラを壊滅させる」という第2作戦は実行できなかった。

しかし同じニュースレターによると、ヒズボラがポケベル型機器を怪しみ始めていたせいで、イスラエルは攻撃を前倒しするしかなかったのだという。このためイスラエルは、自分たちはヒズボラの通信ネットワークに侵入してヒズボラに屈辱を与えることができるのだと示してみせたものの、今回のことで中東地域が全面戦争からわずかにでも後退したことにはならない。むしろ、全面戦争へと近づいたことになる。

【解説】イスラエルにとって戦術上の勝利、だがヒズボラへの抑止効果はない……BBC国際編集長

立場を変えてみるとこの作戦の異常さがわかる。仮にイスラム勢力が長年かけてiPhoneやGoogle Pixelに爆発物を仕込み中古市場に流していたとしよう。我々はこれを市民生活を狙ったテロだと考えるだろう。

実際に国連の安全保障理事会では「これは前例のない国際法違反である」との批判が出ている。民生品に偽装したうえでばらまいていることから民間人の犠牲が前提になった作戦だ。

アメリカ合衆国では大統領選を間近にして支持者獲得合戦が過熱している。双方とも相手陣営を感情的に批判したいがそのためには大量の広告出稿が必要だ。そしてためには実弾(広告費用)が必要になる。選挙を前にしたアメリカ合衆国は言論内戦と言って良い状態に陥っている。帰宅して無難なクイズ番組でも見てホッと一息つきたいところだろうがテレビでは双方がCMで罵り合っている。

トランプ陣営は焦りをつのらせており「自分を支持しなければイスラエルという国家がなくなるぞ」と脅しをかけている。もっと寄付をたくさん集めて相手を罵るCMをたくさん露出しなければならない。

「もし私が大統領選に勝たなければ、ユダヤ系の人々は本当に多くの責任を負うことになるだろう。ユダヤ系有権者の60%が対立候補に投票することになれば、イスラエルは、私の考えでは、2年以内に消滅するだろう」と語った。

大統領選敗北ならイスラエル消滅も、ユダヤ系に責任=トランプ氏

この様な状況でアメリカ合衆国がイスラエルの行動を非難するために国連で協力するとは考えにくい。結果的にイスラム勢力が「自分たちがやられたことをやり返そう」と考えるようになる。

これまでイスラエルとガザ・レバノンの対立は我々日本人にとっては「遠くの不幸な戦争」に過ぎなかった。だが今やその脅威は民生品の中に紛れ込み我々の生活に接続している。

我々はこれまで第二次世界大戦のような国と国の武力衝突を戦争だと考えてきた。しかし現実の戦争はSNSやテレビCMで「言論」の形で実装されている。そればかりか民生品の武器利用という形で我々の生活のすぐ傍まで忍び寄っているのだ。

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