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自民党政権はこのまま中国の反日教育を許すのか

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深圳の小学校に通学途中の小学生(10歳)が刺殺された。日本政府は詳しい説明を求めているが、中国側は「非常に痛ましいケースだが、どの国でも起こり得ることである」と説明している。日本側が求める対応ではないため政治家や元外交官の間からは「反日教育に起因するのでは」という指摘も出ている。

ただし日本政府の対応は極めて弱腰だ。ビジネスチャンスを考えると中国との関わりを切りたくない。とはいえ反日感情が悪化する中で日本人の命と安全を守り抜くためには多額の経費がかかる。現地邦人に対する説明が不十分なため、企業の中には一時帰国を認めるところも出てきた。

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深圳の日本人学校に通う男児が殺害された。当初国籍が公表されていなかったため、各社の記事を見ると「日本人学校の男児」としか紹介されていない。上川陽子外務大臣が「個人情報だから」という理由で国籍を答えていなかったが、中国側がお父さんが日本人お母さんが中国人であると発表している。お子さんの国籍は日本だったそうである。

背景はよくわかっていない。日本では「邦人が襲われる事件が度々起きている」と報道され、政治家や元外交官などは「反日教育」の影響を指摘する。岸田総理も説明を求めた。

だがやはり「反日教育の影響だ」と言い切ることはできない。そもそも内容が曖昧だからである。

中国側は「このようなことは外国でもよく起きており特段中国の問題とは思えない」としたうえで「それぞれの事件は独立しており共通する背景などない」と言い張っている。男には前科があったそうだ。つまり異常な犯罪者がたまたま小学生を襲っただけと言うスタンスだ。日本から見て到底納得できる内容ではない。

FNNは現地の駐在員を取材し「できれば中国には残りたくない」「スパイとして拘束される危険性があるのに家族もリスクにさらしている」との不安が漏れる。日本政府から納得がゆく説明が得られていないことが不安の原因になっているようである。中には従業員の一時帰国を認めるところも出てきた。

Quoraでこの事件について書いたところ「自分の負の感情を撒き散らすな」という人がいた。中国駐在と言っても自分で自ら選んだ人や中国駐在がエリートだった時代の人達がいる。この人たちは「中国に対する評価が落ちる」ことを懸念しているかもしれない。自分の選択が間違っていたことになってしまうからだ。

現地の日本人と言っても大きな塊があるわけではない。おそらく大手企業から派遣される人もいれば、自分の意思で中国に来て現地の人たちと盛んに交流している人もいるだろう。FNNの記者たちはおそらく大手企業の駐在員と同じコミュニティに属しているのではないかと思う。彼らも駐在派遣だからである。

かつてはどの企業も出世頭を送り込んで海外事業を牽引させていたのだろうがおそらく近年では行き場のなくなった人たちが送り込まれている可能性もある。だが、昔から中国にいる人達はこの変化を認めたくない。そこで「変な風評被害を流すな」と抗議することになる。時代が大きく変化しても一度「中国キャリア」に乗った人たちはそれを手放したくない。

このニュースに別の確度から反応する人達もいる。中国に対抗できる強い日本を求めるネット右翼の人たちである。彼らはお互いに団結していない砂粒の様な存在だ。中国と断交すべきだなどと主張している。

しかし、自民党が彼らの声に答えることはないだろう。自民党は地域利権や企業幹部と強く結びつくエスタブリッシュメントのための政党だ。選挙のときだけ有権者の協力が必要になるので「強い態度が必要だ」とはいう。だが企業は当然従業員をリスクにさらしてでも中国市場を手放したくないと考えるだろう。日本市場が成長しなかったため中国市場に盛んに投資をしてきた。

だが、ネット右翼の人たちも「自分たちは選挙で利用されているだけ」と認めることはできない。むしろ自分たちは権力のメインストリームにいて影響力を維持できていると思い込みたい。

おそらくは中国政府も対応に苦慮することになるだろう。外国からの干渉を過度に恐れる中国政府はスパイ防止の法律を整備した。このため欧米の企業は中国に事務所を置くことを「中国リスク」と考えるようになっている。一方で土地・開発バブルが弾けていて外国からの投資を必要としている。

中国の「反日教育」の実体はよくわからない。一般市民の一部が「日本はかつて間違ったことをした連中なのだから何をしても構わない」と下に見ている可能性はある。だが中国政府はこれが認められない。日本で反日教育と呼んでいる教育を見直すことは過去の間違いを認めることと等しい。

中国政府の動機はすべて「中国政府の正統性の維持」につながる。

日本やアメリカなどの民主主義国は「政府は間違いを犯す」という前提で組み立てられている。だからこそ政権交代が起きてその間違いが修正される。

だが中国には形式的な選挙はあっても民主主義や政権交代はない。共産党は無謬の存在であって決して間違えることがあってはならない。過去の政治指導者の路線が「間違えていた」と認めることはあるが最新の注意を払って数年かけて路線変更が行なわれる。体制転覆があってもそれを復旧する手続きがないのだ。

これらを織り込むと、日本政府も企業も「いわゆる反日教育」が今後も続くという前提で中国との付き合いをどうするかを決めなければならないということになる。

日本政府も中国政府も分析をしない以上は独自で考察するしかない。仮に背景にあるのが生活不安だとすればその状態は暫く続くはずだ。中国は失業率の発表をしばらく中止し「学生を除く形」で再開した。それでも失業率は増え続けていると伝わっている。中国の経済状況が悪化していることは明白だ。

中国経済が悪化すればそれだけ不満を持つ人は増える。権力批判は禁止されているのでその圧力は弱いものに向かう。ここで「過去に間違ったのだから何をやっても良い連中」がいれば当然それはターゲットになるだろう。

だから、政治家が「強い姿勢で中国に説明を求め」ても意味はないし「いわゆる反日教育」を彼らの間違いだと認めさせることもできない。できないとわかっていることを主張し目の前で起きている危険に対処しないことを世間一般では無責任という。

政府も企業も何もしてくれないと言う状況が続けば、当然中国赴任を渋る人が出てくる。企業も優秀な社員を中国に送ることはなくなるだろう。こうして静かな形で日本と中国は離れてゆくのかもしれない。

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