アメリカのウェルスファーゴ銀行で5,300人が解雇された。その理由は日本では考えられないようなものだった。しかし、日本でも低金利政策が進んでおり同じようなことが起らないとも限らない。
5,300人は数年にわたって勝手にメールアドレスを登録し、偽のPINナンバーを作り、顧客の銀行口座を捏造していた。その数は150万アカウントに上る。
「勝手に銀行口座を作っても別にたいしたことはないのではないか」と思えるかもしれないのだが、実はそうではない。アメリカの銀行口座は有料のものが多い。銀行員たちは口座獲得のノルマを課せられていたのではないかと考えられる。
さらに、アメリカでは口座維持手数料が値上りし「もう銀行口座を持たない」という人まで出ている。そんな中でウェルスファーゴには口座獲得の圧力が加わっていたのだろう。
そればかりか56万枚のクレジットカードまで偽造されていた。そのため、顧客は口座維持手数料やクレジットカードの年会費を取られていた。口座残高が足りなくなりペナルティを支払わされる客もいたという。個人が不渡りを出しても直ちに破産することはないが、罰金を支払わされるのだ。
このようなことが起るのは、ノルマだけを課せられリソースを与えられない従業員が放置されているからだ。同じ構図はPCデポでもみられた。実際の顧客情報は末端の従業員から入ってくるのだが、雇用環境が複雑化すると情報伝達がうまくゆかず、このような不正が蔓延する原因になる。
普通に考えるとこうした不正が露見するのは時間の問題だ。しかし、従業員は「みんながやっているし、どうせばれない」と考えていた。実際に銀行側は何が起きているかよくわからなかったようだ。専門のコンサルタントを雇って初めて不正がほんの一握りの悪い職員の特殊な慣行でないことがわかった。不正に手を染めた人たちは表向きは「善良な従業員」だった。
しかしその帰結はかなり深刻だ。銀行は社会的信用を失い、訴訟リスクにさらされ、多額のペナルティや慰謝料を支払うことになるだろう。