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時代劇は世界に通用する日本文化 「SHOGUN 将軍」がエミー賞を席巻

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ディズニーのTVシリーズ「SHOGUN 将軍」がエミー賞を席巻した。日本文化や時代劇が世界的な配信プラットフォームでも十分に通用することを証明する快挙だった。日本語率が全体の70%だったそうだ。

プロデューサとして参加した真田広之氏は主演男優賞を獲得しドラマ部門の作品賞も獲得している。このドラマの成功から偉える教訓は2つある。日本のコンテンツは世界で通用するがマネジメントはそうではない。

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トム・クルーズ主演の「ラストサムライ」では日本から参加した俳優陣が目に余る日本文化の無理解ぶりに呆れかなり修正を要求したと伝わっている。しかし俳優陣の努力が結実することはなく一部不満が残る状態だった。当時の日本は「トム・クルーズが日本を扱ってくれた」と喜ぶ人がいる一方で「やはりハリウッドが扱うとこうなってしまうのか」というコレジャナイ感が交錯する状態だった。

本物を追求するためには企画段階から日本人が入り舞台考証・時代考証を行う必要がある。真田広之氏はプロデューサの立場で企画・制作から参加している。

また、世界配信を前提に中途半端な考証が「文化盗用」として炎上しかねない事情もある。これが「ラストサムライ」との一番の違いだろう。最初に分厚いマニュアルが用意された。マニュアルと言ってもほとんど事典と言って良い。900ページに渡る大作で日本の歴史や文化についてまとめられていたそうだ。

ここから3つの要素を誰でも抜き出すことができる。

規模の経済:ハリウッドはアメリカのみならず世界の文化を取り込みそれを世界に配信する。配信プラットフォームはアメリカが押さえる。潤沢な予算が注ぎ込まれ世界中から才能が集まってくる。

権限の明確化:後工程を容易にするために事前に権限の明確化が図られる。真田広之氏は「俳優が発言することには限界がある」と気が付き長い時間をかけて「プロデューサ」という権限を手に入れた。

知識の形式化:900ページのマニュアルなど面倒だと考える人もいるだろうが、あらかじめ知識を形式化することでチーム内部で共有しやすくなり、あとの作業がスムーズになる。最初の準備が生産性の向上に役立つ仕組みだ。

「SHOGUN 将軍」は日本の時代劇から権力闘争という世界中で通用するエッセンスを抜き出した。そして徹底的な時代考証を武器に「オーセンティシティ」を強調する。真田広之氏はアメリカ生まれではないとわかる英語(現代のアメリカでは文化的な厚みを感じさせる長所と認識される)で自分たちがいかに細部に拘ったのかを事前宣伝してみせた。これが商業的成功につながりエミー賞席巻の快挙に結びついている。

この逆を行っているのが日本のテレビドラマである。

日本のエンターティンメント市場はそれなりの厚みがあり海外進出には後ろ向きだった。電通などの大手広告代理店の支配力が大きくなり「有名プロダクションの俳優を使ってドラマを作ればそれなりに広告収入が得られる」というビジネスモデルが展開している。

ところが日本が少子高齢化すると視聴者の購買意欲が薄れる。テレビは若者を引きつけようとあの手この手だが次第に視聴者は減ってゆき予算が制約されるようになった。

しかしながら、日本のテレビ局はマネジメント体制を変えようとせず「誰にでもわかりやすい」ドラマを目指すようになった。その結果生まれたのが「原作主義」である。あらかじめ商業的に成功し視聴率が見込める原作を買ってくる。そしてそれをあからじめある程度のファンが付いている俳優に演じさせる。しかし、テレビでは「あまりむずかしい内容は伝わらない」と考えるのだろう。脚本家に命じて原作のディテールを削り取り無難な内容に仕上げる。

こうして起きたのが「セクシー田中さん」事件だった。原作者が孤立して亡くなったとされる事件である。

規模の経済:確実な既存客に集中しすぎるあまり市場が縮小し十分な予算がかけられなくなる。

権限の明確化:原作者、出版社、脚本家、テレビ局の関係が曖昧であり、トラブルは「原作者と脚本家のやり取り」「原作者とプロデューサのやり取り」など個人的な人間関係に依存する。「セクシー田中さん」では原作者がやり取りの中で疲弊していった。個人の意見を打ち出さず「理解される」ことを好む文化的な事情もあり最悪の結末となった。

知識の形式化:そもそも何を伝えたいのかが曖昧なまま「数字が取れる原作と数字が取れる俳優」を活かすドラマをこれまで通りに作ればまず無難だろうという意識がある。このため、事前に何を伝えたいのかのコンセプトをまとめる作業をしない。

時代考証という意味ではこの唯一の例外がNHKの大河ドラマだ。プロジェクト単位ではなくテレビ局が総力を上げて制作し徹底した時代考証も行う。このため平安時代のようにあまり取り上げてこなかった時代のドラマにも挑戦できる。しかし、海外展開は念頭に置かれていない。日本で規模の経済を働かせて新しいドラマ分野を開拓するためには受信料を集めてきてそれを集中投下するというような例外的なやり方を取る必要がある。

「SHOGUN 将軍」の成功にはきちんとした理由があることがわかる。その基底は自分たちの声が十分活かされてこなかった過去の苦い経験なのだろうがアメリカの配信プラットフォームの国際化によって状況が逆転した。

かつて国際文化は「フレーバー(風味)」扱いだったが、ハリウッドの文化が「多様化」を目指す中で「正統性=作品の価値」になった。

かつてアメリカで食べられる日本食は「日本食風味のなにか」だったが現在では直接日本文化に触れる機会が増えており本物を経験する人も増えている。SNSの発展と観光業の成熟により消費者の目は本物を見極めることができるほど成熟した。

例えば韓国のドラマが流行すると韓国料理に注目が集まる。いまや説明なしで韓国料理の名前が分かる人が増えている。中には韓国で本物の韓国料理が食べてみたいと考える人も出てくるだろう。こうしてエンターティンメントと文化の好循環が生まれ、市場を熟知した成熟した消費者層が世界的に作られてゆく。

日本にも観光後客が押し寄せ、日本のコンテンツ(エンターティンメントに限らず、料理や暮らしなど)には大きなチャンスが広がっている。これは日本人にとって大いに喜ばしいことだ。

一方で旧態依然とした日本のマネジメントスタイルを飛び越えて直接アメリカで「日本の時代劇を作ることができる」時代の幕開けでもある。メジャーリーグで大谷翔平氏が活躍するようになると、テレビでの日本のプロ野球が予備リーグ化してしまう現象が起きている。

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