NHKの日曜討論で自民党総裁選候補者の強みと弱みを聞いていた。採用面接定番の質問だ。そこで「自分が人事採用担当者だったら誰を採用するか?」と言う目線で分析してみていただきたい。就職活動や社内昇進試験を控えている人は「この質問で人事は何を聞きたがっているのか」も理解できるかもしれない。
この質問で見る限り最も総理大臣にしてはいけないのは小林鷹之氏だろう。斎藤元彦知事と同じ匂いを感じる。
林芳正氏は官房長官で公式見解ばかりを述べていたので硬い印象がついたと分析した。加藤勝信氏も地味さを気にしているようだ。河野太郎氏は逆に「怖いと誤解されている」と言っている。この3名はイメージについて語っている。
これは政府内人材から対外交渉も担当する役職(会社の顔になる)に移動しようとしていると言う自覚があるからこそ生まれる弱み分析である。
同じイメージについて語っているように見えるが、実はここに採用担当者が注目するポイントがある。
加藤氏は「地味と思われているがそれが味であると見られるように心がける」と言っている。つまり冷静に自己分析をしたうえで対策も述べている。実はこれが人事面接におけるこの質問の「正解」である。
欠点のない人はいない。欠点を冷静かつ客観的に判断し短いフレーズの中で対策をアピールするべきだ。
この逆を行っているのが河野太郎氏だ。マスコミに色々言われているが「私は誤解されている」と言っている。相手が誤解しているのだから何もしないというのが河野氏の主張である。
これとは違うアプローチを採用している人がいる。それが上川陽子氏と石破茂氏である。上川さんは「一度決めたらスピードが早い」と言っている。つまり弱みではなく強み(決断)の副作用について語っている。石破氏は「空気を読まない」姿勢を弱みとしているが「周りに何を言われようが正しいと思っていることは必ずやり遂げるのだ」と言っている。
欠点を冷静かつ客観的に判断し短いフレーズの中でそれが強みにもなり得ることをアピールする手法も有効だ。
この手法の場合、本来採用面接官は「ではその強み(副作用もある)」でどんな実績を挙げたか、また実績が挙げられず失敗した場合には何が問題だったのかを聞く必要がある。つまり面接を受ける人は追加質問の答えも準備しなければならない。
強みと弱みの質問をすり替えた人達もいる。いわばごまかし型である。
小泉進次郎氏は「朝が弱い」と言っていた。無難なところに逃げたつもりなのだろうが「遅刻するようでは社員としては失格ですね」で終わってしまう。冷静な自己評価が出来ていない。そして茂木敏充氏も「朝の弱さでは小泉さんに負けない」と謎の自慢話をしていた。この二人はおそらく客観的な自己評価が出来ていない。
高市早苗氏は「夜の飲み会が苦手」と発言している。夜の飲み会は苦手だが政策本位で議員どうしのしがらみにとらわれないということを意味しているのだろう。これについては(採用面接では)モデレータが深堀りする必要があった。夜の飲み会が苦手ならどの様なコミュニケーションを代わりに行っているのかを説明してもらうべきだった。高市早苗氏はこの弱みをいろいろなところで述べているようなので何らかの「答え」を持っているはずだ。
さてここまでは「まあなんとか質問を乗り切った」人について解説してきた。この中で「おそらくこの人は採用しないほうが良いだろうなあ」という人が一人いた。それが小林鷹之氏だ。
弱みについて言及せず「もしも弱みがあれば。ないということですか?」と突っ込まれていた。そこで「議員としての経験が短い」ことを挙げていた。おそらくこの人は自分には弱いところはない(あるいはそれを見せたら終わりだ)と考えているのだろう。強みだけを見せてアピールしようとしている。現場では優秀だが組織管理に上げると躓く人がいるがその典型例の用に思える。
小林鷹之氏は理財局総務課課長補佐を経験しアメリカで二等書記官・一等書記官をやっている。一方の斎藤元彦氏の最終の経歴は総務省自治財政局地域自立応援課課長補佐だった。
どちらも、就職氷河期の勝ち組であり自分は優秀な人材だと思っているだろう。省内では「課長補佐級」の人材だが外に出るとキャリア官僚として処遇されるのだからその有能感は強化される。さらに組織マネジメントの経験がなく「何かあったら上から抑えてもらえる」ポジションである。
強み・弱みを冷静に判断し「弱みを活かす」発想が出てくるのはチームマネジメントの必要が出てくるからだ。自分のスタイルを自覚したうえで弱みを補正するか敢えて強みに転じるかを決めなければならない。さらに社長面接になると「組織内実務とは別の任務」が出てくる。それが対外的な広報活動である。
ラインマネジメントクラスの人は「弱みを見せて脱落しては元も子もない」と考えるため、あまり自分の弱みについて考えない。弱みを補正する手段を持たないままで組織のトップに昇りつめてしまうと兵庫県のような大惨事に発展する可能性がある。自分が勝ち組で優秀だという気持ちが強いために成果が出ないと「部下がだらしないからだ」と考えてしまう傾向が強いからである。
小林氏の場合はあくまでも「可能性」の段階だが人事採用担当者であれば彼をトップマネジメントに推挙するに当たり「なぜ暴走しないのか」を周囲に説明する必要があると感じるだろう。そしてこのクラスの人は本来ならば組織マネジメントの経験を積んでから社長昇進試験を受ける必要がある。