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スプリングフィールド市に相次ぐ脅迫 無党派層の政治参加は本当に良いことなのか?

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日本では「無党派層が政治に参加すれば日本の政治は良くなる」という神話的な了解がある。だが実際に無党派層が政治に参加するようになったアメリカの政治状況はどんどん悪化し続けている。

ABCのテレビ討論会の視聴者は6710万人だったと言われているそうだが、スプリングフィールド市の小学校に爆破予告が入った。スプリングフィールド市の住民たちは「もううんざりだ」と言っている。

無党派層を政治参加させるのは簡単だ。隠れた欲望に火を付けてやればいい。あとは勝手に燃えてくれる。だが、それは単なる放火と同じである。問題の解決には役に立たないばかりか社会にとっては害悪になる。

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トランプ陣営はこのところ政治にあまり興味がない人の掘り起こしに懸命になっている。背景にあるのがテイラー・スウィフト氏のハリス支持表明だ。スウィフト氏は有権者登録を呼びかけている。これに対抗するためには政治に関心がない人を説得しトランプ氏に投票してもらわなければならない。

では無党派層を選挙に向かわせるためにはどうしたら良いのだろうか。最も手っ取り早いのは彼らの潜在的な危機感に働きかけて隠れた欲望を煽ることだ。いわば政治的放火である。

このためトランプ氏が採用した戦略は嘘を飽和的に並べ相手の発言力を奪うという方式だった。「ギッシュ・ギャロップ」などと命名されている。

ABCはあらかじめ予想される虚偽の主張について調べ上げて即座に訂正ができるように準備していた。つまり二人の司会者は防衛部隊だったのだ。これは、トランプ対策としては非常に優秀だったが非常に手間がかかる。虚偽の主張をあらかじめ調べ上げて反論を準備しなければならない。

トランプ氏は自分はすでに勝利しているからテレビ討論はいらないと主張、またABCの電波を無効にすべきだとも主張している。

一方でハリス氏はトランプ氏の自己愛を刺激し冷静さを奪う戦略に出た。討論会では発言のたびにトランプ氏を刺激するフレーズを混ぜ込んだ。また討論後も「計画のコンセプトですって」と笑いものにした。つまり具体的な計画がなく単にごまかしていると主張したのだ。リベラル系のMSNBCは「ハリス氏は面白がっている」と表現している。

ただハリス氏の戦略は却ってトランプ支持者たちの態度を頑なにしてしまうかもしれない。トランプ氏が嗤われている分には構わないが、奇妙だ(weird)と名指しされたトランプ支持者も腹を立てるだろう。そもそも民主党は一部有権者から「目覚めた人=意識高い系」と揶揄されている。

そもそも、民主党の主張に対して「意識が高すぎて自分たちには関係がない」と感じる人が増えており偽善の匂いを感じ取る人もいる。テイラー・スウィフト氏は若者に有権者登録を求めているが、これは若者が「政治は自分たちに関係がない」と感じ始めていることを意味している。

自己愛性の強い人は攻撃されると冷静さを失う。トランプ氏は却って態度を硬化させており「強制送還はスプリングフィールドから始める」と宣言し周囲を呆れさせた。

「ヒルビリー・エレジー」の逸話からもわかるように共和党支持者には傷ついた自己を抱えたまま閉塞的な環境で育った人達も多い。彼らは自己愛性の強い人が追い込まれているのを見るとあたかも我がことのように反応してしまう。こうした人達は事実をそれほど重要視しない。

そもそも合法的な手続きを経て働いているハイチ系の多い街だそうだ、トランプ氏は強制送還の対象だと訴え、ベネズエラ(ハイチとベネズエラは言うまでもないことだが別の国だ)に送り返すと息巻いている。

トランプ候補は13日の記者会見で、スプリングフィールドを訪れる予定はあるか質問されると、「オハイオ州スプリングフィールドから大規模な強制送還を行う。大規模な強制送還だ。あの連中を追いだす。ヴェネズエラに戻す」と発言した。

【米大統領選2024】トランプ候補、移民の大規模強制送還を予告 「犬猫」うそ発言で揺れる街から(BBC)

結果的に小学校3件に爆破予告の脅迫が入り小さな町の市民たちはうんざりしているそうだ。

トランプ氏は問題に火を付けたあとで自分は安全地帯に移動する。

中絶禁止についてはこんな発言をしている。

自分は命と家族を大切にしているし中絶に関しては意見を持ってない。実際に中絶禁止を推進しているのは各州だがそれぞれの州は自分たちのことを自分たちで決める権利がある。

こうして問題を放置・容認したうえで自分はそこから逃げてしまうのがトランプ氏の基本戦略だ。議会襲撃でも同様の手法が取られており今でも法廷闘争が続いている。

トランプ氏のそれぞれの発言を受けた傷ついた市民たちは「自分たちは他人を攻撃する権利があるのだ」と思い込み極端な行動に出る。トランプ氏はそれを安全な場所から眺めるだけで結果責任を取ろうとはしない。

ところがこれだけでは終わらない。多くの嘘を混ぜ込む手法で虚偽の主張を展開する。

トランプ氏は10日の討論会で、民主党の政策を批判して、「妊娠9カ月までの中絶や、生まれてきた赤ちゃんを“処刑”することも許容している」という主張をした。

トランプ氏、中絶問題で「民主党は赤ちゃんを処刑する」と主張。司会者が即座にファクトチェックし否定(HUFF POST)

日本の政治状況を見ると無党派層は政治に関心を持たなすぎると思う。だからといってとにかく無党派層が投票所に足を運べばそれだけで問題が解決することなどありえない。

アメリカでは政治家たちが「他人を口撃・攻撃して自分を守りたい」という人々の隠れた欲望を掘り出して自分たちの支持につなげようとしている。

これを防ぐためには「政治から見放された」と考える人をできるだけ作らず、穏健な無党派層を政治議論に徐々に参加させる必要がある。

そのためにはおそらく政治の側も「特殊な覚悟をした人か世襲」しか政治家になれないと言う状況を改善する必要があるだろう。日本でもアメリカ同様「我々の生活実感と関係がない」政治が日々行われいる。アメリカの事情を「対岸の火事」と眺めていることは出来ない。

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