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小泉進次郎氏が「お母さんに会いに行った」話で聴衆の涙を誘う

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自民党の総裁選が始まった。NHKで候補者の初回討論をやっていたのをたまたま見たのだが小泉進次郎氏が「お母さんに会いに行った」話をしていた。「あざとい」とは思うが「私生活を切り売りしてでも総裁になりたいんだな」との強い決意も感じる。

ただ、これを聞いて「この人情噺は自民党にとって良いことなのか悪いことなのか」と考えた。選挙対策としては効果的なのだろうが後の政権運営には極めてネガティブな影響が出そうだ。選挙と政権運営が両立できないところに現在の自民党の苦しさを感じてしまう。

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時事通信の世論調査によると小泉氏と石破氏の支持が拮抗している。ただ自民党支持者に聞くと小泉氏の人気が高いそうだ。また野田聖子陣営が加わったことで議員の支持でも有利な状況にあるなどと言われている。

総裁が決まらないうちから直ちに解散・総選挙をやる方針だと言われていることからも今回の総裁選挙が疑似総選挙だということがわかる。野党からの批判を遮断し「自民党にとっての理想の選挙」を演出したいのだろう。

と同時に「政権運営が始まれば支持率は下がるに決まっている」と自民党内部の人たちが考えていることもわかる。彼らはすでに政権運営に自信を失っており、それを隠すこともできなくなりつつある。

ではそんな自民党にとって小泉進次郎氏の「人情噺路線」は良いことなのか悪いことなのか。

小泉氏は「(家を出ていった)許せなかったが子供ができて考えが変わった。お母さんに会いに行ったが良かったと思っている。お母さんとは名字が違っているがそれでも家族だ」と言っている。だから「夫婦別姓を推進する」との立場であると説明していた。

論理的にはめちゃくちゃである。

だが、心情的にはなんとなく小泉氏に同情したくなる。人の親になってこの人も変わったのだろうとしみじみしてしまうのだ。また「世襲と言っても必ずしも恵まれた家庭環境ではなかったのだなあ」と世間に知らしめる効果もある。ネガティブな情報を利用して支持につなげるという強(したた)かさと権力に対する強い終着が感じられる。これを決意だとみなす人もいるだろう。

小泉氏が選挙の顔であると割り切るならば小泉氏の総裁・総理就任は間違いなく良いことのように思える。選挙で自民党の演説会に集まる人はおそらく自民党支持であり「最後に本当に投票するか」を確認するために集まっているだろう。つまり論理的には破綻していても心情的に破綻していなければそれで住んでしまう。ここで合理的なことを言ってしまうと却って疑われかねない。

だがSNSはそうではない。心理的に自民党に同調せず小泉氏を疑っている人が大勢いる。

解雇規制議論ではこれがすでに現れている。小泉氏は解雇規制について言及したが、今回の討論では「解雇規制自由化などやるつもりはない」と宣言し、Yahooニュースのコメントでは「論理が破綻している」と指摘されている。

夫婦別姓についても実は「自民党の意見をまとめる」とは言っていない。自分は選択肢を増やすために働くと言っていて夫婦別姓推進派の野田聖子氏も仲間に引き入れた。「当然これで党内をまとめるのだろう」と思う人も多いだろうが「党議拘束はかけない」と言っている。小泉氏の発言を前のめりで聞くと「良いことを言っている」ように聞こえる。おそらく自民党は夫婦別姓に舵を切ったと誤解する人も出てくるはずである。だがふと冷静になって眺めてみると実は何も言っていないし何も変わっていないのである。

「小泉氏は嘘をついている」と思われるのはまだ良い方だ。「この人は自分が言っていることの意味がわかっていないのではないか」「結局彼の発言にはなんの意味もないのではないか」とみなされる危険性がある。

これが小泉ポエム批判につながっている。現在は単なる小泉批判だが自民党総裁になれば自民党批判につながり、総理大臣になれば政府・政権批判につながる。

現在の総裁選挙は「岸田政権が政治とカネの問題を自己解決できなかった」ために「岸田総理に変わって中身をごまかしてくれる表紙」探しになりつつあるようだ。選挙に最適な人を選ぶと自動的に政権運営が最も困難になる人が選ばれてしまうのが現在の自民党の置かれた最大のジレンマである。もはや自民党は国民政党ではなくなりつつあるが、代替政党が現れないために政権を維持し続ける必要があるのである。

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