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ギッシュ・ギャロップ トランプ氏はなぜ今回のディベートで負けたのか 

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CNNの世論調査の結果、今回のトランプ氏はハリス氏に討論で負けたと言われている。前回の調査と判断が逆転した背景にはトランプ氏の戦略の有効性と限界がある、それがギッシュ・ギャロップ(Gish Gallop)だ。

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トランプ氏は外交面では何をしでかすかわからないという「狂人理論」の使い手と言われてきた。一方、国内では嘘を飽和的に撒き散らし相手の判断力を奪う手法を用いる。これをギッシュ・ギャロップと名付けた人がいる。安倍元総理のご飯論法に似ている。

Gish Gallop(Wikipedia)

トランプ氏とギッシュ・ギャロップ(Los Angeles Times)

ではなぜこのメソットが今回は通用しなかったのか。

  • 前回のバイデン氏は高齢であり情報飽和について行けなかった。一方今回のハリス氏はそれほど高齢ではなかった。
  • 前回CNNは放送中にファクトチェックをしなかった。ところがABCは事前に入念なファクトチェックをしていた。このためハリス氏は情報が正しいか・虚偽か・反論すべきか・放置すべきかを考えずにすんだ。

BBCはこの背景を冷静に分析している。ハリス氏にも事実誤認はあったそうだがトランプ氏のほうが圧倒的に事実誤認が多かったという。

ただこの介入にはリスクもある。トランプ氏はABCの放送免許無効化をほのめかしている。大統領に返り咲けば政治的に報復される可能性があるほか、支持者たちもABCを非難するだろう。

なぜABCはあえて議論に介入したのか。トランプ氏は移民がペットを食べていると発言をした。すでにこの発言に基づいてスプリングフィールドで合法的に働くハイチ人が脅迫されている。またハイチ政府もトランプ氏を非難している。Xの所有者のイーロン・マスク氏もこの発言を拡散していると言われているためこれ以上の虚偽情報拡散は危険だと感じたのだろう。

トランプ陣営は今回の結果にひどく落胆している。本来は「ハリス氏は3年間も副大統領を経験しているのに何もしてこなかったではないか」と批判するのが作戦だったそうだ。

トランプ氏は今のところ次の討論会に後ろ向きとされている。だが次の討論会は保守系のFOXで主催される計画のためABCのようなハリスびいきにはならないだろう。側近たちは「トランプ氏は最終的に討論を受け入れるのではないか」と見ているそうだ。

このトランプ氏のギッシュ・ギャロップは安倍晋三氏のご飯論法に極めて似ている。

ご飯論法(Wikipedia)

官僚の助けでご飯論法を多用していた安倍氏だったが(毎日新聞)

民主党政権の「日本はもっと成長できる」と言うメッセージは劣等感でいっぱいになっていた自称保守の人たちに「お前たちはこのままではだめなんだ」というメッセージになって響いた。心理的にメッセージが歪んでしまったのだ。

このため「俺達がだめなんじゃない、民主党こそが悪夢なんだ」というメッセージには需要が生まれ、論点をずらし議論を無効化する手法への支持が高かった。

ところが自民党はこの過程で議論能力を奪われてゆく。安倍総理の時代の主語は「国民」だったが岸田政権になると「自民党」に変わった。もともとご飯論法のロジックを考えていたのは官僚だった。このため安倍氏が総理大臣でなくなると過去のストックに頼らざるを得なくなってゆく。さらに自民党の問題に官僚は踏み込めない。このため主語が自民党になり(かつ安倍総理も亡くなっている)段階になると自民党には議論・反論・対処する能力が残っていなかった。これがご飯論法の最大の欠点である。

トランプ氏もまた変化について行けない人たちの反発を民主党への攻撃に変えている。そしてこの手法は現実を直視したくないトランプ支援者には効果的だった。だが、テレビ討論は違う。どちらに対しても批判的な人たちが一定数いる。また、トランプ氏の虚偽の主張はすでに研究され尽くしている。

デビッド・ミューア氏がペットを食べている発言にすぐに反論できたのは事前に「カウンター」を準備していたからだろう。司会者2名の机には資料が広がっており事前にかなり綿密な準備をしていたことがわかる。

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