自民党の総裁選で上川陽子氏が推薦人を確保した。麻生副総裁の意向が働いたものと考えられている。また、立憲民主党の代表選挙でも野田佳彦陣営が吉田晴美陣営に「推薦人を貸し出した」と話題になっている。こちらはもっと露骨で「代表戦の形を考えると女性がいたほうが良いと思った」などと説明されている。
アメリカでは有色人種・女性の大統領が誕生する可能性があり「それにあやかった」といえるのかもしれない。だが、いかにも安易な女性利用という気がする。
これが日本の女性政治家の現在位置でもある。
麻生派から上川陽子氏の推薦人が出た。麻生太郎氏の意向が大きく働いたと言われている。これによって「溺れかけていた上川さんを助けてあげた」ことになるそうだ。
一方で、別の同派関係者は「溺れかかっていた上川氏を助けた」との表現で、麻生氏の意向が働いていると示唆する。河野氏に加えて上川氏も手持ちのカードに残すことで、どちらかが決選投票に進んだ場合は派が結束して行動し、影響力の維持を視野に入れていると解説する。
【自民総裁選】上川氏出馬表明 推薦人集めの舞台裏 一進一退の攻防、最後は麻生派議員らが支援(静岡新聞)
現在、次の総理総裁に有力視されているのは地方党員の人気が高い石破茂氏と国会議員の票を多く集めたとされる小泉進次郎氏だ。小泉陣営には野田聖子氏が付いたと言われている。
石破茂氏は麻生下ろしに加担した前歴があり小泉進次郎氏は政治的ライバルの菅義偉氏に後援されている。このことから麻生氏が複数枚のカードを獲得したがっているという分析は妥当だろう。
だがこの他に高市早苗氏の他に「女性の代表を一人くらい混ぜておきたい」という気持ちがあったとしても不思議ではない。高市氏は「保守」を代表しており夫婦別姓にも消極的である。自民党総裁選に女性の立場から権利強化を訴える人が誰もいない。野田聖子氏は女性の権利擁護枠だったが党内の協力が得られず菅義偉氏の陣営に加わり「刷新感の演出」に回ることになった。
結果的に「麻生太郎対菅義偉」という対立構造の中に女性擁護・権利向上が組み込まれたという印象だ。
しかし、これ以上に露骨なのが立憲民主党である。要するに「代表戦の絵を考えたら女性がいたほうがそれっぽく見える」ということだ。そしてそれを隠すこともなく堂々と説明してしまっている。推薦人にはなったが吉田さんには投票しないかもしれないなどと言われている。
玄葉氏は自身のフェイスブックで野田氏支持を明言した上で、吉田氏の推薦人となった理由を「代表選の構図全体を考えた」と説明。野田氏を推しながら吉田氏推薦人となった別の議員も取材に「議論活性化のため、大局的に判断した」と語った。
吉田氏推薦人、野田氏に投票? 立民代表選、「茶番」批判も(時事通信)
女性という属性利用の慣習は根強くこれが女性の権利侵害につながっている。女性政治家が中傷から保護されないことで立候補しにくい雰囲気が生まれているのだ。
国民民主党の玉木雄一郎代表らは東京15区に「困窮女性の代表者」を立てようとした。しかし法令違反リスク(生活保護とラウンジ勤務の経験が問題だと巷では言われている)が浮上するとあっさりと切り捨ててしまう。あくまでも大切なのは「属性」でありその人の人生に利用価値はないということなのだろう。国民民主党は「国民」の看板を下ろすべきだろう。
切り捨てられた女性元候補はその後に自称保守の執拗ないじめに会い報道では「自殺の可能性が極めて高い」ということになっている。一旦準公人化したことで石をぶつけても良い人という扱いになってしまったが十分なアフターフォローは受けられなかった。こんなことが続けば「政治に関わると失うものが大きい」ということになり女性の立場を代表して選挙に出る人などいなくなってしまうのではないか。
このように日本の政治は女性政治家の人柄には興味がない。あくまでも重要なのは属性なのである。意識はしていないのだろうが人を見ずに背景を見るのは差別であり人権侵害だ。
こうした「女性利用」の背景にはおそらくアメリカのハリス副大統領の影響がある。だがハリス氏は「単なるお飾り」ではない。ABCの討論会を見た人はハリス氏が女性の権利のためにトランプ氏に戦いを挑んだシーンが印象に残っていることだろう。
女性の台頭を好ましく思わない男性は「女は家庭に閉じこもっているべきだ」と考える傾向にある。アメリカでは人工妊娠中絶の禁止が進みつつあるが背景要因の1つとして女性の社会進出に恨みを持っている人たちの存在が挙げられる。男性ばかりではなく「家庭に入ることを選択した」女性たちも自分が掴み取れなかったものを他の人達に掴んでほしくないと言う気持ちがあるはずだ。
トランプ氏は「自分は人工妊娠中絶には反対していない」「これは各州が決めることだ」と言っている。だがおそらくはルサンチマンが自分の支持につながるとよくわかっているのだろう。
ハリス氏は各州の人工妊娠中絶違法化は女性の選択肢を奪いつつあると主張したうえで、その背後にトランプ氏がいると指摘してみせた。
ここから女性の活躍を妬ましく思う人は日本だけではなくアメリカにも大勢いるという事がわかる。日本とアメリカの一番の違いは「声を上げる女性代表が有権者に支持されるかどうか」である。
長い間「政治的姿勢と距離を置く」としてきたテイラー・スウィフト氏だが今回はハリス支持を明言している。トランプ陣営が「テイラー・スウィフトはトランプ支持」との噂を流したことに対する対応とされている。
しかし、それでも支持するためにはそれなりの理由が必要だ。テイラー・スウィフト氏は「女性のために戦うリーダーが必要である」と指摘している。アメリカでは単に「賑やかし」のために女性政治家が求められているわけではない。その背景にはアメリカ人女性の強い決意がある。権利は戦って勝ち取るべきものなのだ。
自身のインスタグラムに「2024年大統領選はカマラ・ハリスと(副大統領候補の)ティム・ウォルズに投票するつもり」と投稿。「彼女は権利と大義のために戦ってくれる。それらを擁護する戦士が必要だと確信している。彼女は安定感のある、優れたリーダーだと思う。混沌(こんとん)ではなく冷静さによって導かれるなら、私たちはこの国でもっと多くのことを成し遂げられると信じる」と続けた。