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令和のコメ騒動のウラでほくそ笑んでいるのはコメ農家か流通か

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令和のコメ騒動が続いている。そんななか、JAはまんまとコメの価格の引き上げに成功した。北海道や秋田などでコメの買取価格が2割から4割引き上がる。坂本農水大臣は「新米の価格は若干割高感が出る」と説明している。25%(1/4)が若干かどうかは議論が分かれる。結果的にJAはコメの品薄を利用してコメ価格の引き上げに成功したことになる。

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さてこのリードだけを読むと「消費者の足元を見ての便乗値上げとはいい度胸だ」という印象を持つ人が多いのではないか。実際に店頭にコメはなくあったとしても高すぎて手が出せない。誰が悪いのかを知りたくなるのが人情というものだろう。

そらくこれを予期した鈴木宣弘さんは「コメ農家は儲けていない」と反論する。鈴木さんは儲けているのは流通・小売であると根拠なく指摘しており、財務省が支援してコメの増産に取り組むべきだと主張している。2022年末には「コメ農家は三重苦」という記事が出ており価格転嫁に苦労してきた。おそらく2〜4割価格転嫁ができたところでコメ農家が暴利を貪ることは難しそうだ。

ここは一度冷静になって考えてみよう。仮にコメ農家が儲けているわけでも小売・流通が儲けているわけでもない可能性がある。それがコストプッシュ型の悪性インフレ(スタグフレーション)である。

仮に今回のコメ不足がスタグフレーションの結果だったと仮定してみる。コムギの価格は政府が統制している。さらに燃料費や資材費も高騰している。節約志向を強める国民(全てではないだろうが)が比較的価格転嫁がしにくかったコメに向かったために不足が起きたと考えることができる。

ここでコメの価格が諸物価並みに上がると当然コメ離れ・コムギ回帰が起きるだろう。それが市場原理というものだ。JAは助かるかもしれないがコメ農家の苦境は続くことになる。

政府はエネルギー補助金の延長を決めたが財務省は「もう終わりにすべきだ」とのメッセージも出している。つまり「スタグフレーション」という新しい常態に慣れるべきだと言うメッセージを出し始めた。

今回の総裁選もスタグフレーションへの移行を色濃く反映している。

金融資産課税が争点に浮上している。石破茂氏が主張を展開し諸氏が反対すると言う構図である。NISAを奨励しつつ金融資産課税を展開するのはおかしいと言う声と株高を牽引してきた超富裕層が日本の株式投資から逃避するのではないかと言う懸念があるようだ。つまり、一般投資家にとっても他人事とは言えない提案だ。一方で石破氏は年末に議論が行われる防衛増税については何ら言及していない。

また、経済産業省との結び付きが強い安倍派が凋落したことで結果的に財務省の力が強くなっている。その典型例が清和会のプリンス福田達夫氏が推す財務官僚の小林鷹之氏である。小林氏は「防災省のような金のかかる組織はいらない」と提案している。

最も過激なのが河野太郎氏だ。薗浦元議員の捜査をきっかけに麻生派に政治とカネの問題が浮上し「最も派閥にまみれた政治家」という印象が付きつつある。これを払拭するために「今の医療福祉は維持できない」「既得権に守られた従業員の首切りを容易にすべきだ」と主張し始めた。また効率の上がらない企業は終わりにすると言っている。現状維持を望む自民党ではおそらく支持されないだろうが、現役世代の気持ちを引きつけることで政治家として延命したいのだろう。

今回のコメの価格暴騰では2つのことが明確になり、その結果として自民党の現在地もわかった。

第一に国民は政治に期待していない。だから政府にコメの価格をどうにかすべきだとは要請しない。しかし生活防衛意識は強まり結果的に支出を抑えてしまう。これは経済成長を阻害し少子化を加速する「縮み志向」の防衛戦略だ。

結婚適齢期の女性はそもそも政治が何をやっているのかすら理解できなくなっている。「そもそも声が届かない」人に政策を伝えることなどできない。関係者たちは結婚を機に地方に移住した人にカネを払う政策を準備していたが、自民担当大臣は「そもそもそんな話はなかった」と主張している。このままではメディアが嘘をついたことになってしまうため、共同通信は「政府の説明は二転三転している」として大臣を糾弾している。

第二に誰もハッピーにならないスタグフレーション状態では「誰が儲けを盗んだのだ」という犯人探しが行なわれる可能性が高い事がわかった。河野氏のような生き残り戦略を採用する政治家が増えると(この場合若者と高齢者と言う図式になる)国民はますます分断されるだろう。

結果として、海外で儲けたお金を分配することで成り立っていた自民党という政党が終末期を迎えていることがわかる。政権はアメリカが作った経済成長スキームにフリー・ライドしてきた。このため「経済成長策」と言われるものの中身を検討するとAIや半導体ブームに乗るべきだという従来型の提案が多く見られる。アメリカで生まれた機運をいち早く輸入し「経済成長」を演出してきた自民党政権だが最近ではSNSのほうがずっと情報が早い。

このように今回の自民党の総裁選は自民党の政治家の顔見世で終わりそうだが、その後の議論は国民生活とは分離した議論が延々と交わされる空虚なものになるのかもしれない。行き詰まりつつある政治家が最後に頼るのが憲法だが岸田政権が「枠」を決めてしまったため内容の議論はできない。それでも「保守の気持ちを引き寄せるもっとも安上がりな素材」として憲法に頼らざるを得ない候補者が多いのである。

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