ハマスが6名の人質を殺害しイスラエルに衝撃が広がっている。イスラエル全土にデモが広がり労働組合はゼネラル・ストライキに突入した。日本では全く伝えられておらず「そんな事になっているのか」と感じる人もいるかも多いかもしれない。
ハマスが殺害した6名の人質の遺体が見つかりイスラエルとアメリカ合衆国で衝撃が広がっている。このうちの一人ハーシュ・ゴールドバーグ=ポリンさんはABCニュースでもよく取り上げられていた。日本で言えば北朝鮮拉致被害者とその家族というような扱われ方だ。
ゴールドバーグ=ポリンさんは音楽祭に参加した普通の若者だったが音信不通になり次に映像が確認されたときには左手首から先がなかった。両親はバイデン大統領に面会し人質解放を訴えていた。
抗議運動は文字でも確認できるが映像を見たほうが広がり具合は手っ取り早くわかるかもしれない。「抗議運動が「噴火」」というタイトルがついている。溜まりに溜まっていた苛立ちがついに吹き出したという意味である。
CNNはテルアビブのデモには55万人で全土の参加者は70万人だったと書いている。イスラエルの人口は1000万人に満たないためかなりの人数が参加している言ってよいだろう。まさに爆発だ。
イスラエル市民たちは苦悩している。ネタニヤフ首相はイランを戦争に引き込もうとしている。すると、イスラエル市民たちは危機に対処できるのはネタニヤフ首相だけと考えて支持率は上がっていた。ところが、ガザ情勢では人質解放が見通せない。このため今回のデモもネタニヤフ首相の退陣ではなくガザ停戦に圧力をかけるというデモになっている。ただし参加者に話を聞くと主張には隔たりが見られる。「とにかく今の状況をなんとかして欲しい」と考える人が多いのかもしれない。
この抗議運動に連帯する形でゼネラル・ストライキが起きていて、交通と港湾物流などが止まっている。おそらく10月7日以来続いている戦争状態が終わらないという苛立ちも募っているのではないかと思うが落とし所が見つからない。
バイデン大統領はハマスの人質殺害を口撃しイスラエル支援を正当化する傾向にある。このため今回もハマスの人質殺害を非難し「ハマスの指導者らは犯罪の代償を払うことになる」と感情的に訴えていた。
だがバイデン大統領がガザ地区の和平のために何もできていなことは明らかであり、感情的に訴えれば訴えるほど具体的な打ち手を持たない感情的で無力な指導者像が浮き彫りになる。バイデン大統領が始めた戦争ではなく単にネタニヤフ首相によって泥沼に引きずり込まれているだけだがそれでも「無惨な政権の終わり」を象徴する姿と言えるだろう。民主党大会をうまく乗り切ったハリス陣営だが親パレスチナ派の抗議活動はまだくすぶり続けているそうだ。
アメリカの報道を継続的に見ていると「ハーシュ君の死は無念でありご遺族の心情は察するに余りある」という気がする。一方でガザ・西岸の両方で亡くなっている数万人はもはや統計としてしか扱われない。アメリカ人の死は一人ひとりの物語として記述されるのだがパレスチナ人の死は単なる数字として報道されて終わりになってしまう。
その意味では代償を支払わされているのはガザ地区に取り残されたパレスチナ人でありその命の価値は平等ではない。
イスラエル市民は必ずしもネタニヤフ首相の解任を望んでいるわけではないのだろうが、ネタニヤフ首相が戦争終結を宣言した瞬間に内閣を支えてきた極右・超正統派は政権から離脱するだろうと見られている。つまりネタニヤフ首相は海外にでも逃亡しない限りこの状態から抜け出せなくなっている。政権を維持するためには前進し続けるしかないのだが出口は見えない。