アメリカでは民主党大会が開かれている。このためアメリカのリベラル系メディアはバイデン政権の失点につながるような報道を流したがらない。日本のメディアは伝統的にリベラル系メディアから情報を取ることが多く楽観的な報道のみが伝わることになる。
今回は「イスラエルはガザからの撤退を約束した」とする報道を検証する。アメリカメディアの報道が持っているバイアスがわかる。
まずCNNの「イスラエル、ガザからの軍撤退に同意 米国務長官」というニュースを読む。タイトルから「イスラエルが同意したと国務長官が発表した」と読める。だが「同意した」と主張しているのはブリンケン国務長官だけである。つまりこの記事は正確には「米国長官がそう主張した」と言う内容になる。
実際、CNNはイスラエル側の主張も伝えている。侵攻の成果であるフィラデルフィ回廊を含むいくつかの拠点はイスラエルが管理するべきと明言しており実際にガザ地区への攻撃も続いている。つまりアメリカ合衆国とイスラエルの「合意内容」には隔たりがあるのだ。
しかしCNNにも事情はある。民主党大会でハリス氏を盛り上げなければ悪夢のトランプ政権が再びやってくるかもしれない。このため民主党はバイデン氏の勇気ある撤退を称えつつ、ヒラリー・クリントン氏、オバマ夫妻などオールスターキャストでハリス氏の大統領としての資質を称賛している。
会場の外では「1968年の悪夢再び」とばかりにデモ隊がフェンスを破って中に入ろうとしている。国際政治学者の鈴木一人氏は時事通信のニュースのコメントで民主党大会を台無しにしないための取り組みだがブリンケン国務長官は空回りしていると指摘しているが「台無し」は我々が創造するよりもひどいものになりかねなかった。
BBCの報道を読むと苛立ちがよくわかる。「米高官、ガザ停戦協議めぐるイスラエル首相の姿勢を批判 妥協せず最大限に要求と」というタイトルが付いている。高官の名前は不明だが、一切妥協せず自分たちの要求ばかりを突きつけるイスラエルに対して悪しざまに罵っている。
しかしながら、イスラエルばかりが悪いと主張する気持ちにもなれない。
第一にバイデン政権は自身の外交政策を正当化するために民主主義の守護者というポジションを上手に利用していた。また同盟国との連携が非常に重要だとの主張もトランプ氏の単独主義を批判する材料に用いている。価値観の共有は日欧米の既得権維持には役立つがイスラエルは例外である。
また、大統領キャンペーンを継続するためにユダヤ系の支持は欠かせない。つまりイスラエルがどんなにマキシマリスト的な発言を繰り返そうがバイデン政権はそれを黙って受け入れるしかないという事情がある。
トランプ政権の外交政策はアメリカの単独国益ばかりを優先する非常に身勝手なものでありその手法は目に余る。一方のバイデン大統領のやり方は表向きは協調路線だ。だが、やはりその裏にはアメリカの国益追求と民主党の利益優先主義の側面があるその戦略いよいよ行き詰まりつつあり、ガザ和平の実現を難しいものにしている。
これまでの日本の外交はアメリカの覇権と民主主義擁護を所与のもととしその枠内で国益を追求していればよかった。今回の自民党総裁選挙では外交・安全保障と日米同盟の今後についてはあまり議論にならないのだろうが実際には国家の最優先課題であるべきだ。眼の前で起きている明白な変化は見て見ぬふりをするには大きすぎる。