何でもかんでも疑ってかかるのに疲れてしまった。バイデン大統領が「ガザ停戦交渉はかつてなくゴールに近づいている」と宣言したというニュースを見て「今度は信じさせて欲しい」と願った。
だが例によってその期待は裏切られそうだ。この宣言は論理的に破綻している。
日本のメディアはあまりこの問題には関心を持っておらず単に「汚い戦争は終わったほうがいい」というようないい加減な扱い方になっている。毎日新聞はAxiosの報道を引用し「バイデン大統領の新しい提案は5月提案をベースにし、その隔たりを埋めるものになっている」と伝えている。確かにAxiosにはそう書いてあるのでこれ自体は嘘ではない。
だが、中東の戦争は毎日新聞にとってはしょせん他人事だ。この「新」提案なるものどの程度実効性があるものなのかは分析されていない。この記事には国際政治学者の鈴木一人さんのコメントが付いている。ハマスを交渉に引っ張り出すことは難しいだろうと鈴木さんは書いている。
ハマスのポジションはすでに明らかになっている。ハマスは5月の提案を受け入れた。そして、その交渉責任者であるリーダーを殺されている。だから、責任者案差圧に落とし前をつけたうえで最低限5月の提案を守ってくれというのが彼らの主張である。
では5月とはどのように状況が変わったのか。
CNNは「外交的圧力をかけている」としている。アメリカが外交的圧力をかけている事はわかるが誰に対してどんな圧力をかけているのかがわからない。
REUTERSは次のような書き方をしている。「なんだそこに至っていないのか」ということだけがわかる。
協議は、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマス間の停戦実現と残る人質の解放を巡る合意を目指して、今後数日間にわたり継続される予定。バイデン米大統領は、協議開始前と比べて合意は「はるかに近づいている」ものの、「まだそこには至っていない」と述べた。
ガザ停戦交渉、来週再開へ 米「合意近づくが至っていない」(REUTERS)
ではこの交渉は全く無意味なのか。
例によってAxiosが的確な分析をしている。実は今回の提案はイランに対する牽制になっているのだ。つまり、和平交渉そのものはすでに頓挫しており危機は新しい段階に突入していることになる。毎日新聞はこの記事の後半部分を丸ごと削除して報じているのである。興味がないというのは恐ろしいことだ。
カタールの首相はイランの交渉相手と二回接触し「外交努力が続いている間は手を出さないように」と牽制した。原文では次のように書かれている。
Biden’s goal: Gaza deal by the end of next week
- The Qatari prime minister spoke twice in the last two days with his Iranian counterpart to keep him updated and urge the Iranians not to take any steps that could sabotage the diplomatic efforts to get a deal.
バイデン大統領はアメリカの外交努力を遮ってイランが攻撃を仕掛ければイランにとって深刻な事態を招くと警告している。
Biden’s goal: Gaza deal by the end of next week
- Biden made clear to both that should an attack occur, the consequences for the region — and in particular for Iran — would be “serious and cataclysmic,” a U.S. official said.
つまり、バイデン政権は成果が見込めないどころか「外交努力」が終わった瞬間にイランを抑止する方策がなくなるというところまで追い詰められていると言える。CNNを読むとハマスに外交圧力をかけているようにも読めるが、実際には当事者ではないイランを抑止するための外交圧力として外交努力が使われている。
おそらくアメリカの軍事力でイスラエルを防御することは可能だろう。だが、バイデン政権はこの戦争を終わらせることはできなくなる。つまりバイデン政権はウクライナの他に終わりの見えない戦争をまた1つ抱えることになってしまうのである。
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