自民党の総裁選挙が始まった。現在は各候補が支援者20名を集めている段階だが早くも「次期総理大臣が決まったら早く選挙をやったほうがいい」という声が出ているそうだ。ただその理由を見て愕然とした「菅義偉政権も岸田文雄政権も政権発足当時が最も支持率が高かったから」という理由だ。裏を返すと「総裁選をやったところで政権浮揚につながる画期的なアイディアなんか出てこないだろう」と当事者である自民党議員が考えていることになる。
日本人は日本の行政のリーダーを直接選べない。選べるのは政党だけである。このため自民党がどのようにして首班を選ぶのかは有権者にとって極めて重要な判断材料となる。
理想を言うならば総裁選挙は次のように進むべきだ。
- 岸田総理は統一教会や企業との不適切な関係を払拭できなかった。次のリーダーはこれを払拭し「国民生活を第一に考える」候補が選ばれる。
- 岸田政権には日本の経済を再浮揚させるアイディアがなかった。しかし総裁選挙が行なわれ複数の画期的な案が提示された後、その中でベストなものが選ばれる。
ポストセブンに「「選挙の神様」と呼ばれた久米晃・元自民党事務局長「岸田政権と自民党に対する国民の視線は2009年の政権交代時より厳しい」」という記事が出ている。「こんな事を言っては身も蓋もない」とは思うのだが、確かに国民は政策ではなく「ふわっとした気分」を求めている。
「政治家は夢を売る商売なんです。国民に夢を語って、それに対する投資が票になる。しかし、その前に信用が必要。『この人が言っていることは間違いない、信用できる』と思われて初めて票を投じてもらえるのです」
「選挙の神様」と呼ばれた久米晃・元自民党事務局長「岸田政権と自民党に対する国民の視線は2009年の政権交代時より厳しい」
久米氏は「自民党は人材の砂漠になった」と現状を嘆いている。
夢を売って当選した総理大臣と言えば小泉純一郎氏と安倍晋三氏が記憶に新しい。だがそれ以前の自民党は派閥が政策研究会の役割を持っていて実効的な政策を作っていた。確かに池田勇人氏は所得を倍増すると言う夢を売っていたがそこには裏打ちがあった。この政策集団は選挙互助組織に劣化し自民党は政策立案能力を失ってゆく。そして岸田総理が選挙互助組織を解体したことで、自民党はまとまった政策を打ち出せなくなった。
このためそもそも今回の総裁選挙が政策コンペになる可能性はおそらくあまり高くない。特に選挙に弱い中堅・若手はもはや夢すらも信じていない。
過去の2つの内閣は国民生活を浮揚させることもできなければ夢を売ることすらできなくなっている。このため「とりあえず古い製品のパッケージだけを変えて新製品でございますとして売り込むべきだ」と考えている人たちが大勢いる。だが、新しくなるのは包み紙だけで画期的な経済政策を考えることができるわけではない。
事実上の敗北宣言だ。
- 早期解散論、自民に強まる 総裁選、「刷新」へ期待感(時事通信)
- 自民の中堅・若手が早期解散論 「総裁選後直ちに信を」(共同通信)
国民は蚊帳の外に置かれながら「どのような経緯で新しい首班が選ばれるのか」を冷静かつ冷笑的に眺めている。実効的な経済政策も打ち出せず、最低限の夢を語ることもできない政党を支援する理由は見つからない。かといって頼りになる野党もないのだから、次の政権は岸田政権以上にぼろぼろなものになるということになる。
「最初に見えたほころび」は必ず破綻の原因になる。特に特定の政党や候補に思い入れがない第三者から見た「ほつれ」はやはり裂け目になってしまう。
今回の自民党の総裁選挙の場合は徹底的な国民目線の無視と新しい経済政策の不在が顕著だ。自民党総裁選挙はかろうじて乗り切ることができるだろうが、おそらくその後の政権運営には禍根が残るだろう。特に長老と呼ばれる実力者たちが総裁選挙から距離を置き表紙の爽やかさだけで首班を選んでしまうとその亀裂はかなり深刻なものになるものと思われる。
できれは早いうちに誰かが軌道修正すべきなのだろうが、今の自民党には意見をまとめるコアになるような人がいない。