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エネルギーの要衝を掌握 ウクライナのロシアへの侵攻の意図が次第に明らかに 

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ウクライナがロシアに侵攻して数日たった。ゼレンスキー大統領がウクライナ側の関与を認め、次第にその狙いが明らかになってきた。なおこの問題に関してアメリカのメディアはロシアの侵攻をInvasionと表現しウクライナの侵攻をIncursionと表現し使い分ける傾向がある。

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ゼレンスキー大統領がロシアへの越境攻撃について関与を認めた。ロシア側に圧力をかけるためとしている。またロシアの兵力を分散させることによってウクライナへの攻撃を弱体化させる狙いもあるそうだ。

当初、読売新聞は今回の攻撃について「ロシアとの交渉材料を作るためではないか」と分析していた。NHKは過去のゼレンスキー大統領の発言を踏まえてさらに踏み込んだ表現をしている。

ゼレンスキー大統領は、7月行われたNHKの単独インタビューに対して「戦争を完全に止めるためには弱い立場ではなくできるかぎりのことをする必要がある」と述べていて、将来的な停戦交渉などを見据え立場を強めておくねらいもあるとみられます。

ゼレンスキー大統領 ロシア西部への越境攻撃認める
  • 現在のウクライナは弱い立場にある
  • 挽回するためにはできるだけのことをしなければならない
  • ウクライナは将来の交渉を予期している

ここからいくつかのことがわかる。

バイデン大統領は民主主義陣営を守るためにウクライナを支援してきた。だが同時にアメリカが巻き込まれることを恐れウクライナの手足を防衛に縛ってきた。結果的にバイデン大統領の対応はウクライナに負担を背負わせている。バイデン政権の終わりが見えるにしたがってこの縛りが弱くなり(アメリカが自発的にそうしているかウクライナが暴走しているかはわからない)地域紛争がエスカレートする可能性が出てきた。

日本の安全保障は「防衛と侵略攻撃」を区分している。だがこれが成り立つのはアメリカの優位性が圧倒的であるときだけだ。事態が膠着すると防衛と侵略の区分は曖昧になるだろう。だが事実を心情によって再解釈する傾向が強い日本人はあくまでもアメリカの圧倒的優位を前提条件として「防衛と侵略は区別できる」と主張しそれが敗れたときには「想定外だった、仕方がなかった」と言い訳するかもしれない。

記事からは見えないことも多い。

記事からクルスク地域は侵略されたがクルスク市は侵略されていないということがわかるのだがこの地域の戦略的重要性が見えてこない。

実はこの手前にスジャという街があり天然ガスのハブがあるそうだ。ロシアからの天然ガスは50%がスジャ経由でウクライナを通ってヨーロッパに送られており、半分は黒海経由でヨーロッパに輸出されている。アルジャジーラロイターがそれぞれ記事を書いている。またこの地域には原子力発電所もありIAEAは原発への攻撃を警戒している。ヨーロッパが気にしているのはエネルギー供給の滞りとチェルノブイリのような原発事故なのだろう。

ウクライナは2024年末にウクライナ経由のガス供給契約を打ち切ることにしているが、オーストリア・ハンガリー、スロバキアなどはまだロシア産のガスに頼っている。この地域で激しい戦闘が行なわれガス供給に影響が出れば経済が大きなダメージを受けることになるだろう。

Quoraでこの問題を追いかけている人によると秋の泥濘期は(通常は)9月末から10月とのことだ。ウクライナがクルスクをどの程度維持できるのははよくわからない。

弱い立場に追い込まれたウクライナはなりふり構わない手段で状況を撹乱し自国の交渉的地位を上げざるを得ないという「破れかぶれ戦術」に追い込まれつつある。一気に破局に向かう可能性もあるが、それぞれの報道を見るとこの傾向は過小評価されている。あまり考えたくないと言うところではないだろうか。

ゼレンスキー大統領の「ロシアも戦争を実感しなければならない(Russia must feel war)」という表現である。ここまでの分析はウクライナにどの程度勝算があり、アメリカがどの程度これを支援・コントロールしており、どんな戦略的な意味があるのかという「合理的な」分析だった。

しかし「俺達はガツンとやられたんだからお前らも同じ痛みを感じる必要がある」という表現からは感情的な反発を感じる。つまり、ゼレンスキー大統領は合理的な計算を度外視して行動している可能性がある。そしてその被害者感情と追い込まれ具合を外から推し量るのは極めて難しい。おそらく戦争という特質上「表面上は極めて冷静に」見えるだろう。心情的に追い込まれ他可能性があるウクライナがエネルギーの要衝を抑えたという今回の出来事が持つ意味は我々が考えるよりも大きいのかもしれない。

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