イランが月曜日に報復攻撃を行うらしいと言う情報が飛び交っている。情報を掴んだ国ではレバノンから自国民を退避させている。金融市場はイランには全面戦争の意志はないと見ており原油価格の異常な高騰などは見られない。この予想が裏切られると大きな反動があるものと考えられる。21世紀の戦争はこのようにして始まった。振り返えっても一体どこが戦争の出発点なのかはわからず、どの国とどの国が戦っているのかという形もよくわからない。日本の憲法改正議論は世界大戦と言う古い形の戦争前提にしており自衛と報復の連鎖という新しい戦争に対応できていない。
イランの首都テヘランでハマスの最高指導者ハニヤ氏が殺害された。アメリカ・イスラエルとイランでは違う殺害方法が説明されている。イランの最高指導者ハメネイ師は報復は義務と宣言しイスラエルの軍事施設などが標的になるものと考えられている。
Axiosが「アメリカは月曜日以降に攻撃があると読んでいる」と報道している。識者は事前にイランから何らかの通告があったのだろうと考えているようだ。つまり、退避時間を与えることで欧米との全面戦争を避けようとしているというのが彼らの見立てである。ターゲットと見られるレバノンから自国民の退避を呼びかける国が出てきた。地域の航空会社の中にもフライトをキャンセルするところが増えている。
アメリカ合衆国政府はレバノンからの退避命令を出していない。お金は貸すが自己責任で退避しろと注意喚起している。航空便のキャンセルが続いているがまだ飛行機はあると情報提供したうえで「政府援助による退避は期待するな」と明言している。すでに非保護地域になっているのかもしれない。
バイデン大統領は残りの任期をかけてガザで人質になっているアメリカ国民を救い出したい。またガザの和平交渉を成功させ外交的成果を遺産として残したいと考えている。バイデン・ネタニヤフの電話会談の最後にバイデン大統領が声を荒げた(raised his voice)との情報もある。情報の出元はイスラエルの高官でBarak Ravid氏はAxiosの記者である。バイデン大統領の手詰まり感が伝わってくる。
イスラエルは交渉相手を次々と殺害しているのだから和平の意志などないことは明白だ。ネタニヤフ首相はバイデン大統領の提案を一蹴したなどとも言われる。だが形式的にはガザ停戦交渉を続けている。事態をエスカレートさせ「相手が攻撃してきた」という体裁を作りたいのだろう。
メンツを潰されたイランは何らかの攻撃を行う必要がある。またアメリカ合衆国も攻撃が予想される中何もしないわけには行かない。軍艦や戦闘機を地域に展開している。元はネタニヤフ首相の生き残り戦術の一環だったがアメリカとイランは完全に巻き込まれている。
状況が混乱すればアメリカ民主党への批判は避けられないだろう。検事出身のハリス副大統領は正解がある問題には対処できるが正解のない紛争解決は難しそうだ。つまり仮にハリス大統領が誕生しても中東問題は解決しないだろう。それ以前に広がる混乱を回避できない民主党に対する失望が広がるとトランプ氏の追い風になるものと思われる。つまりこの問題はアメリカの大統領選挙にも影響を与える。
Instagramは反米感情の温床になることを恐れてハニヤ氏関連の投稿を削除した。これに腹を立てたトルコはInstagramへのアクセスを遮断したようだ。
地域では緊張が高まっているが金融市場は全面戦争に至るとは考えていない。このため石油の価格やドル円相場には影響がない。つまり、市場の予測を裏切るような大きな攻撃が行われた場合は市場に動揺が走る可能性が否定できない。
20世紀型の戦争は世界各国が2つの陣営に分かれており宣戦布告と言う明確な形があった。だが21世紀型の戦争に宣戦布告はない。そもそも国連が戦争を禁止している。
しかし気がついたときには自衛という名前の報復合戦が始まっていて沈静化の兆しがないまま拡大してゆく。ウクライナ・ロシアとイスラエル・ガザの戦争は奇妙にリンクしており戦争の形も見えてこない。仮にウクライナ・ロシア問題が端緒だったと考えるとその始まりは2014年のロシアのクリミア侵攻だったことになる。当時これが大きな戦争の一部だと考えている人はおそらくだれもいなかったはずである。
日本の戦争議論・憲法議論は第二次世界大戦型の侵略戦争を前提にしている。しかしながら実際に起きている戦争は自衛を名目にした報復合戦に同盟国が巻き込まれて行くという形を取っている。