日銀が短期誘導金利の引き上げを決めた。0.25%と欧米に比べると僅かなものだがゼロ金利・マイナス金利に慣れた日本経済には大きな影響がでそうだ。
植田総裁の会見はかなり苦しいものだった。総裁選やFRBの動向などを踏まえると「今しか脱却のチャンスがない」と判断した可能性がある。記者たちはなぜ今なのだと詰め寄ったが明確な答えは得られなかった。
ただ、金利上昇で国民生活が圧迫されてもそれは日銀の「知ったことではない」とも。日銀は通貨の安定と物価上昇を目標にしているだけでそれがいいインフレなのか悪いインフレなのかを考えて政策を組み立てるのは政府の仕事だ。
そこで岸田総理の認識を調べてみた。いつも通り「何を言っているのかよくわからない」ものだった。
今回の記者会見で記者たちは植田総裁に「なぜいまなのか」と詰め寄った。だが、植田総裁からは明確な答えは出なかった。ただ記者たちも植田総裁の胸の内は忖度しているだろう。
総裁は消費の弱さを指摘する声に次のように答えている。要するに円安などによる苦しい国民生活はわかっているがあとは政府がなんとかしてくださいと言っている。
まず「賃金や所得が増加すれば個人消費はなんとかなる」と言っている。だが賃金は企業努力で増えるものであり日銀の仕事ではない。
個人消費は物価上昇の影響などがみられるが、底堅く推移している。先行きは賃金・所得の増加が個人消費を支えていくと判断した。
個人消費「底堅く推移」 日銀の植田総裁会見要旨(日経新聞)
また中小企業が状況に適応するかモニターするとは言っているがその企業を救済するのは日銀の仕事ではない。
一口に中小企業といってもばらつきがあり、注意してモニターしていきたい。ついていけない企業の労働者がより生産性の高い他の企業にうまく移れるような様々な仕組みや努力が続いていくかどうかもモニターしていきたい。
個人消費「底堅く推移」 日銀の植田総裁会見要旨(日経新聞)
いうまでもないことだが、金利引き上げによる影響に対応するのは政府の仕事である。
ゼロ金利が解除され新しい世界に突入したのだから「政府は万全の備えをしているから大丈夫だ」と保証しなければならない。
しかし現在の政権は岸田政権だ。就任当初の所得倍増計画から意味不明の発言を繰り返しており、国民生活向上への意欲と興味が感じられない。
鈴木財務大臣は「日銀の独立性は大切で、政府と協力する姿勢は変わっていない」と従来の見解を繰り返した。林官房長官も「政府として物価の基調や背景について、さまざまな指標の動きを丁寧に見ながら見極めていく」と発言した。総論だけで具体的な言及は一切ない。これらの反応は「もはや定番」であり驚くには値しない。インフレの成果で税収は絶好調だ。インフレは税金と同じように作用するため2025年の基礎的財政収支は黒字になることが見込まれている。国民生活が苦しくなっても財務省は興味を持たないだろう。
岸田総理の発言はいつもどおり意味が全くわからないものだった。
デフレ型経済が良いと思っている人はだれもおらず成長型経済が望ましいのは当たり前である上に「円安などによる悪い物価上昇と生産性向上による良い経済成長」は経済政策的には全く別物である。にも関わらず「デフレ型経済から成長型経済への移行が重要という政府との共通認識」との見解を示した。
ロイターが伝える最後のコメントは何回読んでも意味がわからなかった。
「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しし、経済ステージの移行が金融政策のさらなる中立化を促すと申し上げているところだが、そうした考え方に基づいて経済ステージの移行を何より重視し、経済・物価動向に応じた機動的な政策運営をこれからも行っていきたい」と語った。
日銀利上げ、成長型経済への移行が重要という認識に沿うもの=岸田首相
もはや、自分の実力では状況をコントロールすることは不可能であるとわかっていて場当たり的な発言を繰り返すのみである。この無能力を自覚した無気力感(アパシー)が岸田総理の特徴になっている。ロイターの使っている写真はどこか虚ろで疲れ切っているように見える。
最後の「機動的な政策運営」とは例えば総裁選挙を意識した所得税の払い戻しやエネルギー補助金などの場合足り的な諸政策を指すのだろう。機動的過ぎて企業や地方行政の現場は大混乱している。
今後の注目ポイントは9月に行われる総裁選挙で「円安対応」と「金利の抑制」という矛盾した政策をどう折り合わせてゆくかだろう。どちらか一方を選ぶわけにはいかないのである程度のシナリオを作ったうえで戦略的なアプローチを取る必要があるが、そもそもそのような総合的な戦略を組み立てることができる候補者が出てくるのかは未知数だ。
ただ「政治は何もできない」と悟ったように語ることはしたくない。やはり今の自民党政権は国民の期待に答えていないと言う認識は示し続ける必要があるだろう。
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