ゴラン高原のサッカー場に攻撃が加えられサッカーをしていたなんの罪もない少年たちが大勢亡くなった。ネタニヤフ首相は予定を切り上げてイスラエルに帰国しヒズボラに対して復讐を誓った。ヒズボラは関与を否定している。
トランプ氏は早速民主党批判にこれを利用した。バイデン大統領とハリス副大統領が何もしなかったからこんな事になったというのだ。アメリカを地域戦争の泥沼に引っ張り込みたいネタニヤフ首相とハリス副大統領への攻撃材料が欲しいトランプ氏の思惑が一致したことになる。
ゴラン高原はもともとシリアの領土だったが現在はイスラエルが不法占領している。シリアとゴラン高原の間には国連が関与する緩衝地帯が設けられておりシリアからは直接攻撃ができない。今回の攻撃はレバノン側から行われた。
なおアメリカ合衆国はトランプ政権時代にゴラン高原をイスラエルの領土と認定しており今回の攻撃はイスラエル本土に対する攻撃とみなされる。トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都であるとも認定している。
ネタニヤフ首相が首相であり続けるためには戦争を続けるしかない。だが単独では戦争はできないのでできるだけ状況を混乱させ最終的にはアメリカが嫌悪するイランを巻き込んだ地域戦争が起こしたい。イランは核兵器の開発を進めているが新しい大統領はアメリカとの関係の再構築を目指しているとされる。アメリカがイランとの関係修復に動かなければイランの核兵器開発は更に加速する可能性がある。
だがそうした外交は「大統領になってから」考えれば良いだけの話である。今のトランプ氏はバイデン大統領とハリス副大統領を攻撃する材料がほしい。自身のSNSで次のように発信している。
“Today’s attack on Israel cannot be forgotten. It will go down as another moment in history created by a weak and ineffective United States president and vice president. With time, this situation will only get worse for our country. It must galvanize the Republican Party, Democrats, independents, conservatives, progressives, libertarians, and everybody else to put STRENGTH, RESPECT, AND POWER back into the U.S.A.,” Trump wrote.
Donald Trump Says Attack on Israel ‘Almost Entire Fault’ of Biden and Harris(Newsweek)
バイデン大統領はアメリカが優位だった東西冷戦当時と同じ状況を作ろうとしてきたが成功していない。第二次世界大戦でアメリカ合衆国が優位になったのは戦勝国として本土が攻撃されず経済的優位性を維持できたからだった。しかし東西冷戦構造が崩れると、中国、インドなどのBRICSと呼ばれる地域が相対的に力を増しアメリカの国際的地位は相対的に低下した。
今回トランプ氏は「強さ、尊敬、力」と言っているが、この認識は正しくない。トランプ氏の戦略が成功したのは彼の狂人戦略によるものだ。つまりアメリカは何をしでかすかわからないとして不確実性を高めたうえでかろうじて交渉力を維持しようとするものである。
トランプ政権で戦争がなかったのは確かだがそれはトランプ氏が尊敬されていたからではなく「何をしでかすかわからない」人物だったからである。そしてアメリカが狂人戦略に頼るのはかつてのような相対的優位性を持たないからである。
「何をしでかすかわからないから攻撃はやめておこう」と考える国が多いのは当然だが、すでに攻撃は起きてしまっているのだからトランプ氏がこれを修復できるかは極めて疑わしい。
ここから次の4年間は次のような4年間になるということがわかる。
ハリス副大統領が大統領になった場合は再構造化を目指すだろうが、地域紛争を抑止することはできない。仮にどちらかの議会が共和党優位になればその傾向はますます強くなる。
一方でトランプ大統領の戦略は不透明性を増してアメリカの存在感を維持しようという戦略だ。こちらは構造化されたもの(つまりNATOや日米同盟・米韓同盟など)に不透明性をもたらすだろう。またすでに起きている混乱を抑え込むことはできない。不確実性で不確実性を制御するのは不可能で単なる混乱が加速する4年間になるの可能性のほうが高い。
いずれにせよ日本人が最も嫌う「何が起きるかわからない」時代がしばらく続くことになる。