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「もう投票しなくて良い」 トランプ前大統領がアメリカの民主主義終了を告知

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トランプ大統領が自身の支持者に対して投票を呼びかけた。その中で「私の美しいキリスト教徒たちよ、もうあなたたちは投票しなくても済む」と発言している。この発言は当然民主主義終了を意味するため波紋が広がっている。

背景について探ると、アメリカ合衆国の中で「白人国家とはなにか」「キリスト教国家とはなにか」という自己像が揺らいでいる事がわかる。

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ロイター通信は「その意味するところは不明だが」としたうえで、トランプ氏の混乱した発言を紹介している。発言はキリスト教徒の集会でのもの。will be fixedを「修復」と訳したが、この意味の解釈が今回のポイントの一つになる。

Trump said: “Christians, get out and vote, just this time. “You won’t have to do it anymore. Four more years, you know what, it will be fixed, it will be fine, you won’t have to vote anymore, my beautiful Christians.”

キリスト教徒たちよ、今回だけ投票してください。もう二度と投票する必要はなくなるでしょう。次の4年間の間で何が修復されるかわかっていますよね。大丈夫です。もうこれ以上投票しなくてもいいのです、私の美しいキリスト教徒たちよ

Trump tells Christians they won’t have to vote after this election(Reuters)

トランプ氏は続けてこう発現した。最初の文章では「もう投票しなくてもいい」と言っていたがこちらでは4年間は投票しなくてもいいと言っている。共和党とトランプ氏が勝てば少なくともその4年間は「全てはキリスト教徒の思い通りになる」という約束に聞こえる。選挙で勝った人がすべての意思決定を独占するというのは本来の議会制民主主義ではない。

He added: “I love you Christians. I’m a Christian. I love you, get out, you gotta get out and vote. In four years, you don’t have to vote again, we’ll have it fixed so good you’re not going to have to vote,” Trump said.

私はキリスト教徒を愛しています。私はクリスチャンです。あなたを愛しています。出かけて投票しなければいけません。4年間の間、投票しなくてもいいのです。すべてが良いように修復され、投票する必要はなくなります。

Trump tells Christians they won’t have to vote after this election(Reuters)

この脈絡のなさがロイターが発言を「曖昧」としている理由だろう。演説会場は一種の興奮状態にあるのだろうが冷静に文字に起こしてみると一体何を言っているのかがよくわからなくなってしまうのだ。

トランプ氏は何でも自分が好きなようにできる万能な存在が大統領だと考えている。さらに具体的な約束をせずに「すべてが良いようになるからとにかく大丈夫なのだ」と主張している。

民主党はこの「四年の間は」という制限を外し「トランプ氏が大統領になれば民主主義そのものが未来永劫破壊される」という印象を作ろうとしている。すでに最高裁判所の判事たちは過半数が保守派(ほとんどがカトリック)で構成されておりトランプ氏がキリスト教的価値観を擁護してくれることを期待している。民主党支持者たちはすでにアメリカの民主主義は崩壊過程にあると感じているだろう。バイデン大統領は対抗のために最高裁改革を打ち出すものと見られている。

共和党の支持者たちには福音派キリスト教徒が多い。カトリックのような司祭制度を持たず信徒が独自に聖書解釈をすると言う会派だ。彼らは世界を敵と味方に分けたうえで敵には何をしても良いと考える傾向が強いが、これは本来のキリスト教のあり方ではない。その意味では福音派は「キリスト教のようななにか」に変質している。

ただし彼らが考える「あるべき白人キリスト教国家」像は彼らがでっち上げたものである。これが激しく揺れる出来事があった。

パリオリンピックの開催式典に「LGBT版最後の晩餐」という演目があった。白人キリスト教国家の存続を願うアメリカの「純粋で真面目な」キリスト教徒にとっては文化的テロと映ったようだ。中にはオリンピックのボイコットを訴える投稿も見られた。

パリオリンピックの開催式典のテーマの一つは「因習の破壊による開放(liberation)」だった。あのLGBT版の最後の晩餐で登場するディオニュソス神(青く塗られた小太りの男性)はそもそもキリスト教がヨーロッパに導入される前のギリシャ神話の饗宴の神だ。清貧を旨とするキリスト教にギリシャ神話の饗宴の神を「ぶっこんだ」のである。

「本場」のヨーロッパではキリスト教が崩壊しつつあり「純粋で真面目な」白人的キリスト教が新世界に残ったということになる。故地から遠く離れた人たちのほうが古い伝統を大切に保存している事がわかる。しかしそれは一度破壊されて再構築された「伝統のようなもの」に過ぎない。再構築の過程で「世界は良いものと悪いものに分裂している」という本来のキリスト教にはなかった価値観が紛れ込んでしまった。また武器を持って敵を排除することによってしか自由は守り得ないと彼らは考える。これも本来のキリスト教にはない考え方で、アメリカの開拓事情が関係している。アメリカ原住民は意思疎通ができない「人ではない」存在であり排除の対象だった。

このようにアメリカ人が考える「伝統的キリスト教世界とはなにか」という問いには答えがなくオリジナルもすでに破壊されている。アメリカ合衆国で白人キリスト教徒が多数派ではなくなるという恐怖心を日本人が共有するのは難しい。だがこの人口動態の変化が一種の文化的パニックが引き起こしていることだけはわかる。彼らは慌てて自分たちとはなにかを考え始めたが答えは見えてこないようだ。

こうした背景がトランプ氏の「もう投票しなくてもいい」の背後にある。選挙の結果を受け入れず議会襲撃を間接的に支援したと考えられるトランプ氏だが、今度は本当に民主主義そのものを破壊してしまうかもしれない。

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