このところメディアで「アメリカ大統領選挙でハリス氏に勢い」という報道が増えた。日本には意外とトランプびいきの人が多く「メディアの偏向報道ではないか」と疑う声が聞かれる。このエントリーでは2つの理由を挙げてハリス氏人気の高まりについて考察する。
若者とマイノリティが戻ってきた
第一の理由は若者とマイノリティの回帰である。検事出身の率直な物言いが評価されている。例えばイスラエルのネタニヤフ首相と会談した後の声明ではイスラエルへの無条件の支援を約束しつつも、不都合な問題から目をそらさず、二元論的なものの見方をしないようにと呼びかけた。バイデン大統領は支援者を意識しイスラエルに対する無条件の支援だけを強調していた。この「政治的な」姿勢にうんざりしていた人たちは多かったようだ。
逆の味方をすればこれまでのバイデン大統領の3年半があまりにも政治的だったため却ってハリス副大統領の率直さが受けているとも考えられる。
この象徴がビヨンセの楽曲使用許可だった。2020年におきた黒人運動を支援する「フリーダム」をハリス副大統領が使用することを通じて間接的に支援の意思を表明しているものと見られている。日本の石丸効果を見ても明らかなようにSNSによる人気の獲得は世論調査からは読みにくく、意外な躍進の原動力になるのかもしれない。
JDバンス共和党副大統領候補の「貢献」
JDバンス共和党副大統領候補の過去の発言もハリス人気に貢献している。トランプ前大統領は暗殺未遂事件後に「神に護られている」と油断。これ以上は支持を広げなくても良いと考えた。そこで選ばれたのがトランプ氏を称賛するJDバンス上院議員だった。
そのJDバンス氏の「子供がいない女性は惨めだ」という過去の発言が特に反発されている。個人主義のアメリカにおいて他人の家庭の事情に首を突っ込むなど社会・文化的なタブーと言って良い。すでに成人している子どもたちは「三人の親(父、母、ハリス氏)を愛している」とメディアに説明し、元妻もハリス氏はきちんと子育てに参画していたと説明している。夫妻は憎み合って分かれたわけではなくハリス氏の妹の家族とも交流がある「拡大家族」を形成している。自分たちはうまくやっているからご心配なくというわけだ。
女性であるが故に家族の問題がクローズアップされてしまうのだからこれは性差別なのだが、当然この程度の攻撃は予想される。
トランプ氏は「口止め料裁判」において家庭外の奔放な性生活の一端が明らかになっている。アクセス・ハリウッド・テープがでた当時は狼狽していた様子もうかがえる。またメラニア夫人との関係もメディアの関心を集めている。つまりハリス氏の家庭の問題についてとやかくいうのなら自分はどうなんだということになりかねない。キリスト教の伝統的な価値観から見ればトランプ氏のほうが失うものが多いのだ。
政治家としての人物評価はこれからだが
もちろん、これでハリス大統領に決まりだなど言うつもりはない。これまでバイデン大統領の影に隠れてほとんど政治的な実績がない。管理能力や内外の認識について問われるのはこれからだろう。またハリス氏は特にディベートでトランプ氏を打ち負かすことが期待されている。ここで「検察官」としてトランプ氏を追い詰めることができなければ支持者たちは大いに落胆するだろう。
オバマ大統領も民衆に熱狂的に受け入れられた大統領だが、実際には金融会などに配慮し中間所得者層の救済に後ろ向きだったなどと言われている。共和党や無党派の人たちはおそらくオバマ時代を忘れていない。つまり若者やマイノリティに人気が出たからと言ってそれが直ちにゲームチェンジャーになるというわけでもなさそうだ。
だがそれでもやはり初戦の勢いは極めて重要であり、その初戦の勢いの獲得にはトランプ陣営が大いに貢献している。