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自衛隊の軍隊化を総裁選で議論せよと石破茂氏が提案

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今週のテレビ報道はアメリカ大統領選挙の行方と今週末に始まるパリオリンピック・パラリンピックの話題一色になると予想される。そんななか、YouTubeの片隅で「石破茂氏が憲法九条二項」の削除を訴えたというニュースを見つけた。憲法第九条は一項で平和主義を謳い二項でそのためには軍隊は持ってはいけないし交戦権も認めないと言っている。つまり、石破氏は「自衛隊をちゃんとした軍隊にしなさい」と主張していることになる。

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石破茂氏はかねてより憲法九条に持論を持っておりこの主張自体は驚くべきことではないテレビではこうした話題は取り扱わないお約束になっている。話がややこしくなることがわかっているからだ。今回この話が出たのは媒体がYouTube乗せ虚ドットコムだったからかもしれない。時代は変わったものだなあと感じる。

  1. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
日本国憲法第9条(Wikipedia)

なお高市早苗氏も2005年に雑誌に寄稿した憲法改正私案を未だに自身のウェブサイトに掲載している。こちらも国防軍とはっきり書いてある。仮に高市氏が総裁選挙に出馬した場合は本当にこれが総裁選挙の争点になる可能性が出てくる。

時事通信の記事は2018年の経緯について触れ「自民党は加憲論を選択した」という意味のことを書いている。確かに自民党の「4つの変えたいこと」でもそのように説明されている。つまり自民党の公式見解は「陸海空軍その他の戦力ではない存在として自衛隊が存在する」というもので、石破氏の提案に従えば「自衛隊は戦力である」と主張できるようになる。

ではなぜこんな事になったのか。

話は創価学会と日蓮正宗の間の亀裂が生じた1970年代に遡る。日蓮正宗から破門されると創価学会は池田大作氏の権威化を図る。日蓮正宗なしでやって行けることを示すと同時に池田氏を超えるカリスマが生まれることを防いだのではないか。

これらの手続きは、原田氏の下で約10年かけて行われた。組織面で学会本部の権限を強めつつ、池田氏の権威を高めて、同氏の教えを内外に広める「池田教」化を進めたと言える。この結果、池田氏の親族を含め、いかなる学会員も宗教上の権威は持ち得なくなった。また、原田氏は今年10月に、会長(任期4年)に5選されたばかりだ。

名実ともに「原田体制」に 「池田後」の公明・創価学会(3)【解説委員室から】

この過程で池田氏の著作である「人間革命」が経典化されるが皮肉なことに内容の書き換えができなくなってしまうという副作用が生じた。当時の公明党は護憲平和主義の野党だった。現在の公明党の主張はこの経緯を踏まえたものになっている。池田大作氏が称賛した憲法九条を残したままで「与党としての現実に対応する」という組み立てだ。

現行憲法は戦後民主主義の基盤を築いた優れたものだと評価し、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の3つの原理や、9条の堅持を主張しています。

参議院選挙での各党の主張 (2022年7月)NHK

日蓮宗はもともと戦う仏教であり折伏(今でいうと「論破」のような感じだろうか)を通じた布教を行っていた。創価学会と公明党も積極的に信者獲得に動いていた。当時の記憶を持っている人は「創価学会はとにかくしつこい」という印象を持っているはずである。公明党が与党になるとこの「しつこい」イメージは徐々に払拭されてゆき「自民党は公明党の善導で道を踏み外さずにすんでいる」というイメージが作り出される。公明党が政治と金の問題で厳しく自民党を追求しているのはそのためである。

仮に自民党が憲法九条二項の削除を党是にすると創価学会の信徒を敵に回すことになりかねない。人間革命が経典化している上にすでに高齢になった信徒たちが「現状に合わせて憲法も変わってゆくべきだ」などと理解するはずもない。

多くの人は「左派のゴリゴリの護憲派が妨害をしている」という印象を持っているはずだ。だがこの印象はおそらく正しくない。ゴリゴリの護憲派も高齢化で消滅しつつある。

実は現在立憲民主党は路線闘争に入っている。こちらも話は1990年代に遡る。村山富市氏が自衛隊違憲論を取り下げたことで社会党は大騒ぎになった。村山氏を離反した人たちが流れ着いたのが当時の民主党だった。つまり立憲民主党の中には確かに「ゴリゴリの護憲派」がいる。

ただ反安倍運動の様子を眺めると彼らも高齢化している事がわかる。

無党派の人たちも運動に入ってくることは入ってくるのだが彼らは古参にうんざりしてやめてしまう傾向にある。高齢化した反安倍運動の「市民」たちは現実のアップデートができないためまとまる議論もまとまらなくなってしまうのだ。彼らは新しく入ってくる人たちにニーズにはさほど関心がなく「とにかく俺の(私の)話を聞け」と言ってくる。

運動が失敗すると彼らはますます頑なになり「自分たちを理解しない国民が悪い」と考える傾向がある。有田芳生氏は今でも「一人街宣には意義があった」と都知事選蓮舫陣営の失敗を正当化している。実際には選挙に負けているのだから「意味はなかった」のは明白だ。だが彼らは無党派に訴えることよりも夏の思い出づくりのほうが重要なのである。

立憲民主党でも代表選挙が行われる。野田佳彦氏などは「自民党から離反した保守派の受け皿になるべきである」と主張する。おそらく有権者は「自民党が道を踏み外したときにお灸をすえるために今回はあえて立憲民主党に入れたい」と考えているだけだろう。当ブログでは「立憲民主党ピコピコ・ハンマー理論」と言っている。だが野田氏にはこれが大チャンスに見えているようだ。

代表選に関し、野田氏は「(次期衆院選では)政治とカネの問題にあきれて自民党から剥落した保守系の無党派層が大票田だ」と指摘。「そこを視野に入れた考え方を打ち出せる人が(代表に)望ましい」と語った。

立民・野田氏、代表選出馬に慎重 「保守系」望ましい

立憲民主党が右傾化すると追い込まれた護憲派の人たちがメッセージを過激化させることが予想される。彼らは共産党との連携にこだわる一方で「憲法が改正されると戦争になる」などと過激な主張を展開するかもしれない。ところが皮肉なことにこれが公明党を支持する古参の創価学会信者に響いてしまう。彼らは不安になり「池田さんの言っていることを守らなければならない」と考えるだろう。公明党も世代交代の時期に差し掛かっているが山口那津男代表は退任についての言及を避けている。公明党の新しい指導者が明確にならないなか、創価学会と個人的にパイプを持つとされる菅義偉氏がこのまま石破茂氏をエンドースするのかに注目が集まる。

さて、それでは一般国民はこの問題についてどう考えるのだろうか。

「アセット(資産)」を決めてそれをどう有効活用するかを考えるというプロアクティブ(積極的)なアプローチが有効だろう。例えば平和主義を徹底的に貫くことをアセット化しそれを外交的に活かすのが戦略的アプローチである。石破茂氏の路線を取るならば自衛隊は軍隊なったという日本の意思を示しアメリカと協力して中国に対峙するというのが戦略的アプローチだ。

だが普通の日本人はそう考えない。平和主義を維持するのと放棄するのではどっちが「トク」なのだろうと考える。これはパッシブ(受動的な)アプローチである。そもそも次のアメリカ大統領が誰になるのかはまだ決まっていないのだから「どっちがトクなのか」を決めることなどできない。結果的に国民の意見は割れたままということになる。

いずれにせよ、現在の憲法九条を守っているのは護憲派ではない。彼らの運動は内輪化し無党派からは離反されている。実際に護憲派の中核になっているのは選挙で「お友達」を勧誘する創価学会の支持者たちだ。野党との激戦区で選挙戦を戦う自民党議員たちは創価学会に期待しているはずで、石破茂氏の提案にどのように反応するのかが気になる。

石破氏はお盆までに総裁選の出馬について検討すると報道されている。実際に憲法九条を総裁選の議論の対象にするかに注目が集まる。石破氏はSNSなどで発表するのではなく「まず地元で」と言っている。

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