バイデン大統領が大統領選挙から撤退した。これに関連した話を3本書くつもりだ。すでに「速報」として撤退後の民主党の動きについては整理した。次の話題は誰を民主党の大統領候補にするかだ。民主党はトランプ氏が何をオファーしているのかについて考えなければならないがこれが極めて曖昧だ。
アメリカ国民が求めるものは「より強い経済」だ。これだけを聞くと「アメリカ人は困窮している」と思いたくなるのだが実はそうではない。消費意欲が高まっておりアメリカは空前の経済ブームに沸いている。つまりアメリカ人は「もっと消費したい」のである。
トランプ大統領が誕生すればアメリカは寄り強い経済を希求するだろう。がすべての国の消費が減退しているのにアメリカ経済だけが成長できるとは思えない。
今、アメリカ人の旅行需要が伸びている。「The U.S. just saw its busiest air travel day in history」という記事が見つかる。
- コロナ禍で「旅行に行けない」という人たちがそれを挽回しようとしている。
- 旅行関連のインフレが落ち着き始めていてこれまで旅行に行けなかった人たちも旅行に行けるようになった。
このためアメリカの航空需要は伸び続けていてさらに成長が見込めるそうだ。国内旅行も国外旅行も絶好調といったところ。毎日見ているABCのニュースでは「飛行機がニアミス(これは和製英語のようだが)した」というニュースも目にする。飛行場が過密状態になっており無線に依存した管制システムが追いついていない。それくらいアメリカの空港は混雑している。
では「コロナで我慢していた」ことだけがアメリカの旅行需要を支えているのだろうか。そうではない。強いアメリカ経済がインフレを起こしていてそれが海外旅行ブームを生んでいる。アメリカ国内で稼いで海外で使ったほうがトクなのである。
ロイターは海外旅行について次のように書いている。「コラム:米国は欧州との旅行収支が大幅赤字に、観光地としての魅力低下か」タイトルからは旅行先としてのアメリカの任期の低下を嘆いているように見える。
だが、実際にはアメリカ人の旅行熱が海外旅行に及んでいることがわかる。アメリカ国内ではインフレが進んでいるがドルが強くなっているため同じお金を出すならば海外の方が良い体験ができるということだ。
つまり現在の状況はドル高だということになる。ユーロでさえ「格安通貨」扱いなのだ。
- マンハッタンで石を投げれば、欧州で休暇を過ごそうと準備しているニューヨーカーに当たりそうだ。米国ではイタリア滞在やアイルランドでのルーツ探しを目指し、荷物をまとめて欧州に向かう人が増えており、特に富裕層でこうした傾向が目立っている。
- 最も象徴的な例として歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートツアーが挙げられる。このツアーのチケットを手に入れた人の平均購入価格は米国では2200ドル(約34万7000円)程度。一方、ストックホルムでは最も安い席の価格が300ドル程度だった。ホテル代や食事代も割安になるから、米国人がストックホルムのツアーを聞きに行くのはお金の面では理にかなっている。またバンク・オブ・アメリカによると、テイラー・スウィフトさんのコンサート期間に当たる5月9日から13日にかけて、パリでは個人の国際決済されたクレジットカード利用額が前年同期比で20%超も増加した。
しかしアメリカ人はこのアメリカ一人勝ちの状況に全く満足していない。
Pew Researchによるとアメリカ人の多くは大統領選挙を通じて「アメリカの経済をもっと強くしてくれ」と望んでいる。実際に旅行需要や消費が堅調なところを見ると「アメリカの経済は十分に強い」か「強すぎる」のだが特に共和党の支持者たちは「もっと強くしてくれなければ困る」と考えていることがわかる。彼らは移民たちもアメリカの豊かさを盗むと考えており強い国境警備を望む。
Large shares of Republicans and Republican-leaning independents (84%) and Democrats and Democratic leaners (63%) view strengthening the nation’s economy as a top priority this year, as they have for the past several years.
Americans’ Top Policy Priority for 2024: Strengthening the Economy(Pew Research)
このメチャクチャな期待を煽っているのがトランプ氏だ。彼の政策はどれもアメリカ合衆国の一人勝ちを意味している。それはつまりアメリカの高いインフレとドル高を持続させることになる。
このようにアメリカ人が大統領選挙に求めるものは非常に漠然としていてさらに言えば全く合理性に欠けている。また付け加えるならばアメリカ人すべてを説得することに意味はない。例えばカリフォルニア州の有権者は合理的に民主党を選択するかもしれないが、実際に大統領選挙の結果を決めるのは一部のスウィングステートの(おそらくは合理的ではない)有権者の判断だろう。
民主党は彼らに対抗するメッセージを11月の大統領選挙まで見つけなければならない。おそらくこれはほとんど不可能だろう。共和党支持のたちは宗教的高揚感に包まれており「アメリカはもっと強くなれる」と信じている。
経済や投資に興味を持つ人は「別にこれがバブルでも構わないではないか」と思うかもしれない。確かにそれはそのとおりだ。だが先進国の中で一つの国の経済だけが突出して強い状態が持続するとはとても思えない。人々がバブルだとわかっていてもお祭りに咲かするのは「いざとなったら自分だけは早く逃げられる」という楽観的前提があるからだ。だが、たいていの人はここから逃げ遅れる。
新NISAの登場により海外への投資意欲は高まっている。証券会社や雨後の筍のように現れたネットの投資評論は「絶好調のアメリカ経済に乗らない手はありません」と喧伝し続けるはずだ。くれぐれも投資判断は自己責任でという気がする。今の状態に乗らない手はないが「正常」とはとても思えない。