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バイデン大統領はようやく「分断は良くない」と気がついたがすでに遅かった

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CNNが「米国を落ち着かせるためにこれから必要なこと」というオピニオン記事を書いている。バイデン大統領はようやく分断の危険性に気がついた。だがすでに手遅れかもしれない。オピニオンはおそらくバイデン大統領は自ら身を引いて「次の世代のリーダーが活躍できるような環境づくりを整備すべきだ」と提案している。

だが、仮に分断が白人中流階級の没落から始まったと考えるとそれは長いあいだかけて進行する不可逆的なプロセスであり大統領一人がなにかの政策を持って止めることなどできない。

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記事はまず「バイデン大統領はようやく分断の深刻さに気がついた」と書いている。民主党は民主主義を重んじ共和党が主導する銃規制解除に反対してきた。ところが実際には自分の発言こそがアメリカの分断に一役買っていた。それが結実したのがトランプ候補の暗殺未遂事件だ。

もちろんこれは民主党の支援者の犯行ではない。だが政治的分断を背景に育った20歳の青年はおそらくたいした政治的信条もないままトランプ氏を襲撃した。アメリカはもはやそうした思考が当たり前の社会になっていて、すでに取り返しのつかない所まで来ているかもしれないということを思わせる事件だった。

CNNのこのコラムはバイデン大統領の立場をジョンソン大統領に重ね合わせる。ケネディ大統領の暗殺によって突如大統領になった人物だった。国内では若者の不安や黒人の公民権運動などの様々な文化的分断が起きていた。ジョンソン大統領はこれらの不満を外に向けようとベトナム戦争への関与を深めてゆくのだが、これも若者の反発を生むことになった。公民権運動は反戦運動と結びつき社会秩序に対する反発はスピリチュアルムーブメントやニューソートというような運動にまで発展している。

しかし、ジョンソンもすぐに理解したことだが、大統領が抑制を求める声は往々にして不発に終わる。意見の分かれる問題によって生まれた巨大な断層はケネディ暗殺以前から存在しており、今や拡大する一方だった。公民権運動は激化し、立法を通じて人種間の平等を成し遂げようとする動きに拍車がかかった。一方、白人側からの反動はさらに悪化して、暴力性を増した。

米国を落ち着かせるためにこれから必要なこと(CNN)

大統領は問題を煽って支持を集めることはできる。だが一度煽った分断を修復し世論を統合することはできないと記事は示唆している。これは民主主義の一つの限界だ。

また内政の矛盾を外に向けようとしても内側にある分断が解決するわけではない。結局ジョンソン大統領はこれらの断層を解決することはできず再選を目指さないと表明せざるを得なかった。

そもそもこの分断はなぜ生まれたのか。アメリカは新自由主義的な共和党政権下で格差が拡大した。中間層の中にも一定数社会階層を登って行く人がいるが多くは脱落してしまう。だが東洋経済の「「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象」が指摘するように民主党政権もまた本気で中間所得者層の救済を目指さなかった。バイデン政権がミドルクラスに対してどのような気持ちを抱いていたのかはよくわからない。確かに財政支出を拡大させ中間所得者を救いはしたが本格的な構造改革は行わなかった。またインフレを軽視したことで結果的に高いインフレを招き中流アメリカ人の暮らしはさらに苦しくなりつつある。

共和党の副大統領候補になったJDバンス氏のような「退廃して堕落した白人労働者階級」もトランプ前大統領を狙撃したトーマス・マシュー・クルックスも白人コミュニティの出身だ。JDバンス氏は学費を稼ぐためにイラクに派兵されるしかなかった。トーマス・マシュー・クルックスは頭は良かったそうだが大学には進学できていない。アメリカで大学に進学するためには高い授業料を自分で捻出できなければならない。アメリカはコミュニケーション重視の社会なので「根暗でいじめられキャラ」の学生が大学に進学するのは難しいだろう。大学入試においてでさえ自己アピールが極めて重要視される社会だ。JDバンス氏は「自分がのし上がるためには流行の政治勢力に乗るのが良い」と考えメインストリームに入るためにカトリックに改宗したりした。だがトーマス・マシュー・クルックスはAR15を持って前大統領を狙うということしか思いつけなかった。

このようにMAGAの台頭や分断のうらには長年放置されていた「旧メインストリーム」問題がある。とはいえ黒人の問題も解決されているわけではな居。彼らは彼らで警察に迫害されているという被害者意識がある。やる気のある移民系の人たちが社会の第一線で華々しく活躍する一方でかつて主流だった人たちは「アメリカンドリームという悪夢」を生きる意味を見いだせずただ毎日を浪費している。

今回のトランプ氏の神格化過程で何故か日本にも熱狂的なトランプ信者が現れた。全体がラストベルト化するなかでトランプ氏のような神格化された皇帝を支持する土壌が日本にも生まれていることがわかる。石丸旋風などもこの日本の中流階級の没落の結果なのかもしれない。まとまった文章を理解することはできず切り抜き動画で政治問題に触れて影響される。

この社会構造の変化がアメリカの分断の要因になっている考えると民主党的な民主主義重視の価値観はアメリカを一つにまとめられないかもしれない。

民主主義を奉っても自分たちの暮らしは良くならずなんのために生きているのかがさっぱりわからない。これも日本との共通点だ。日本の若者も「老後」に不安を持っていてスキルを身に着けてできるだけたくさん稼ぎ老後に備えなければならないと考えている人が多い。だが、これでは老後までの期間は単なる通過点に過ぎないことになる。一体何を楽しみに生きてゆけば良いのかさっぱりわからない。

Pew Research Centerはアメリカのミドルクラスの縮小は少なくとも50年かけてゆっくり進行していると書いている。つまり継続的不可逆的変化であり特に民主党の問題ではないかもしれないということになる。

The middle class, once the economic stratum of a clear majority of American adults, has steadily contracted in the past five decades. The share of adults who live in middle-class households fell from 61% in 1971 to 50% in 2021, according to a new Pew Research Center analysis of government data.

How the American middle class has changed in the past five decades

ローマの共和制が崩壊したのはローマが外に拡大にするにしたがって自由農民が弱体化したからだと言われている。属州から安い穀物が入ってくるとローマ共和国を支えていた自由農民は都市に流れ込み無産階級化した。これが社会を動揺させやがて民主主義を破壊してしまった。

CNNのコラムはバイデン大統領に次世代の対話の素地を作れと要求して終わっている。

政治的暴力との戦いには、今後単なる言論以上のものが強く求められるはずだ。それは新しい世代の指導者らが、許容できる範囲を逸脱しない仕組みを進んで構築できるかどうかにかかっている。銃及び心理的な問題に対処する政策も必要になる。構造的な改革を通じ、政治制度の中に極端な施策から距離を置ける余地を作り出すことも求められるだろう。

米国を落ち着かせるためにこれから必要なこと(CNN)

この結論の意味するところは定かではないがバイデン大統領は民主主義を守るために英雄的に身を引いて次世代が健全な政治的言論空間を取り戻すことができるように援助すべきであると主張しているように読み取れる。

メディアは引き続きバイデンおろしのキャンペーンを行っているが民主党は予定どおり7月にバイデン氏を正式な候補として指名するのではないかと見られている。

アメリカの市民の間にはかなり不安が広がっているようだ。仮にこれが50年かけて進行した中間層の縮小に伴う変化の果てと考えるとアメリカの民主主義は一つの沸点(ティッピングポイント)を迎えているのかもしれない。

ロイター/イプソスによる最新の調査で、週末のトランプ前米大統領銃撃事件を受け、有権者の80%が米国は制御不能な「カオス」に陥りつつあると考えていることが分かった。

米国は制御不能な「カオス」に、有権者の80%が懸念 トランプ氏銃撃受け=調査(Reuters)

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