海上自衛隊を中心に218名の処分がでた。うち181名が海上自衛隊であり懲戒免職も11名含まれるという。自衛隊になにか問題が起きていることはわかるが退任する酒井海上幕僚長は「遵法精神がなかった」とのみ総括している。
今回の問題で最もまともな対応をしているのが公明党だった。川崎重工の接待疑惑について徹底調査するようにという声が出たそうだ。安倍派の政治と金の問題が支持率低迷に結びついた経験から危機感を強めているものと見られるが、おそらくこの懸念はかなり正しいのではないだろうか。
石破茂氏も「自衛隊の処遇」改善について言及しており総裁選の争点の一つになるのかもしれない。
川崎重工は裏金まで作って接待をしていた問題には大きな謎があるようだ。ただ、マスメディアを巡回しているだけではその謎に気がつくことはできなかった。当ブログのコメントとQuoraのコメントにそれぞれ同じような指摘がついている。
そもそも防衛産業は国外に拡張することができないため斜陽産業化しているという。Quoraでは各社撤退しようとしているのに裏金を使って営業拡大をしようとする動機はないと指摘する人がいた。更に当ブログのコメント欄にも同様の指摘があった。メンテ業者は2社しかないが両社が共同で修理施設を運用しているという。あまり儲からないのだろう。
この2つのコメントは内容が異なるが同じことを言っている。業者側にさしたる動機がない。業者側に動機がないのであればもらった側に動機があることになってしまう。公明党の言い分にしたがって調査を進めてしまうと「自衛隊の体質がかなり腐敗していた」事がわかってしまう可能性があるが、政治的リソースの余力がほぼ残っていない岸田総理の任期中にはこの問題は解決しないだろう。
Quoraのコメントはさらに「予算の立て方に問題がある」と指摘していた。確かにアメリカと防衛産業に配慮した予算であり現場の自衛官の処遇は厳しいままである。現場は新規自衛官採用に苦慮している。しかし防衛費の相当な増額で自衛隊の処遇が改善されるという期待の声は聞かれない。装備品が優先されてしまうからだ。
装備品の買い物の仕方も極めて乱暴である可能性がある。予算が使い切れないから「そっちでリストを作れば全部買ってやる」というオーダーがあったとする投稿をXで見かけた。真偽の程はわからないがありそうな話ではある。
政治が外交を優先し勝手に目標だけを決めて現場に下ろしている。文民統制で政治に物が言えない軍のような軍でないような組織(憲法上規定がない)は政治に注文をつけることはできず、単に言われたことをやるしかない。彼らの問題は解決せず理不尽な命令をただただこなし続けるだけになる。
一方で日本の防衛産業の置かれている状況も(少なくともコメントなどで聞かれる声を総合する限り)かなり厳しいようだ。撤退したい(あるいは撤退した)業者は多い。つまり、現場の処遇よりも防衛産業の育成を優先しなければならないという事情はあるのかもしれない。とにかく「カネ」を注ぎ続けるしかない。
今回の不祥事の総括を見るかぎり今の政権に積もり積もった懸念に対して戦略的に応えようとする兆しは見られない。「増税にご理解を」と連呼するだけにとどまっている。
さらに特定秘密の問題ではやたらにアメリカを気にしている。PFASの問題でも米軍に強く迫ることができていない。また沖縄米兵の性的暴行疑惑でも外務省がアメリカを刺激することを恐れた可能性がある。日本がアメリカの属国になっているというより外務省の態度に何らかの問題があるのかもしれない。
では増税すれば問題は解決するのだろうか。
足元では円安とインフレによる生活苦がじわじわと広がっている。日銀の調査によると今や国民の60%近くが「価格を重要視して買い物をする」と答えておりとても増税の余裕はなさそうだ。
自衛隊は政治に対して発言ができないのだから政治の側から歩み寄って能動的な聞き取り(アクティブ・リスニング)を行う必要がある。また処遇改善のためには(これは防衛省に限った問題ではないが)国民生活の底上げが重要だ。
しかし、当初から戦略性に欠けるうえにすでにレームダック化した岸田政権にそのような政治的余力があるとは思えない。またその次の政権にそうした能力があるかどうかもよくわからない。次の総裁候補である石破茂氏は処遇などの見直しに言及しているようだが、野党は強い処分を求めるばかりで自衛隊を憲法にどう位置づけるのかについての認識は聞かれなかった。
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