斎藤元彦兵庫県知事のパワハラ問題に進展があった。元西播磨県民局長は直前まで百条委員会の対応に意欲を見せていたが一転して不幸な選択をしたなどと伝えられていた。
この急変に対して「なぜ」と疑問視する人たちがいたが、今回の新潮の説明により何が起きたのかがわかってきた。どうやら県知事サイドが告発者の人格を貶しめることで告発の信用性を破壊しようとしたようだ。
これは内部告発制度に対する重大な挑戦だ。だが、新潮の記事は維新の県議団と一部の県職員がこれに集団で加担した疑いについてもほのめかしている。維新を選択した兵庫県都心部の有権者たちの良識も問われそうだ。
新潮の説明はもちろん週刊誌の記事にしか過ぎない。組織的な総括が求められるところだが日本ではこの手の問題は曖昧な総括されないことが多い。
デイリー新潮に「斎藤知事のパワハラを告発した兵庫県元幹部が死亡 百条委員会出席で紛糾していたプライバシー問題」という記事が出ている。週刊誌報道に過ぎないため「本当のことが知りたい」と思うのだが、おそらく総括は進まず疑いのままに終わるのではないかと感じる。
まず兵庫県知事のパワハラを告発する文書が出てきた。本来内部告発者は保護されるというのが法律の趣旨だが、兵庫県知事サイドは関係者を使ったとされる「内部調査」を行い「職務中に嘘八百を並べた誹謗中傷を行った」として西播磨県民局長を晒し上げた。西播磨県民局長が辞職しようとすると「逃げるな」とばかりに退職を認めず処分した。ここまでは知事の性格の執拗性がうかがえるというだけの話だった。
これだけでも十分ひどい話なのだが話には続きがあったようだ。記事は県知事サイドがストーミング(急襲すること)をかけたと書いている。
「3月25日、県民局長が勤務する西播磨県民局に副知事と人事課長が乗り込みました。神戸にある県庁舎と西播磨県民局は100キロ以上も離れているのですが、そこへアポなしで訪れ、県民局長のパソコンを押収していったのです」
百条委員会が開かれることが決まると知事サイドは「7つの告発項目以外」についても委員会で取り上げるようにと主張した。これが裁判であれば告発人の側に弁護士がつくがこれは裁判ではないため十分な保護が得られなかった。そもそも内部告発制度では告発者は匿名で守られるべきだが反対に懲罰対象になった上に弁護士なしで権力者と対峙させられることになった。こうして元西播磨県民局長は不安をつのらせていったと新潮は主張している。
元県民局長はかなりナーバスになっていたと人づてに聞いていましたが、だからといってこちらも大丈夫とは軽々しくは言えませんでした。その資料がどんな内容なのか、それがどう使われるのかもわからなかったからです
維新側は手の内を明かさないことで法的に全く保護されていない西播磨県民局長を牽制しようとしたようだ。つまり県知事・副県知事・人事局長に加えて維新の議員たちもこの動きに加担した可能性がある。
「元県民局長の個人攻撃をすることで、告発文が信用できないものとしたかったのかもしれません。それが誰によるものかは言いませんが、緊急理事会で無関係の資料を非開示とすることに反対したのは日本維新の会の議員だけでした」
おそらく維新の意図が何であったのかが解明されることはなく、兵庫県庁では内部告発者はさらしものになり社会的に抹殺されるという前例が作られた。この前例は県職員の士気を長期にわたって萎縮させるだろう。
この問題は鹿児島県警察の問題に似ている。鹿児島県警察は警察庁から来た本部長を「無傷で返す」ことで自分たちの地位を守ろうとした。もともと鹿児島県警では様々な小さな問題があり組織の健全性に問題があるなどと指摘されている。
つまり県警の幹部と中央から送り込まれてくるトップの間には一種の共犯関係がある。
共犯関係にある彼らはまず小さな隠蔽に着手する。だが何らかのきっかけで問題がエスカレートすると「防衛活動」は組織化し陰湿になる。鹿児島県警察はインターネットメディアをストーミングし証拠を探したうえで内部告発者を逆に国家公務員法違反(守秘義務違反)で摘発した。
日本人は集団になるとまるで蟻や蜂のように利権に対する挑戦者に攻撃を加えることがある。鹿児島県のケースでは告発者に弁護士がついており法的に守られている。だが、兵庫県のケースにはそのような法的な保護すらなかった。
結果的に「個人が声を上げても無駄」という諦めの空気が生まれ人々のやる気は絞め殺されてしまう。
今回のケースで議員と知事が職員を人として尊重した形跡はない。斎藤元彦知事はむしろ堂々としていて心理的な動揺は全く見られない。これだけの問題が指摘されているにも関わらず外形的には平静を保っておりどこか異様な感じすら覚える。
政治家になると職員が人間ではなく単なる道具にしか見えなくなるのか、あるいはそもそも人を人とも思わないような性格の人しか政治家になろうと思わないのか。政治家に知り合いはいないのでそんな機会もないわけだが、政治家と話す機会があれば聞いてみたいものだと思った。
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