ざっくり解説 時々深掘り

岸田世間の「増税ありき」の議論が破綻 統治崩壊が進む海上自衛隊

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

岸田総理の「増税ありき」の防衛費増額の議論が事実上破綻した。そればかりか海上自衛隊を中心に芋づる式に問題が露見しており自衛隊のガバナンスの再構築が求められている。問題は複合的な環境(エコシステム)の崩壊であり、複雑系崩壊として理解されなければならない。

本来なら立憲民主党などが率先して問題提起すべき案件だが蓮舫ショックから立ち直れていない。日本の安全保障は危機的状況を迎えているが「しょせん他人事」といった風情で世論の関心は高くない。

日本の公共の破壊と不在は何も若者に限ったことではない。みな自分さえ良ければそれでよいのだろう。憲法改正を熱望する自称愛国者たちがどこまでこの問題をなかったことにできるかもまた見ものである。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






防衛費の使い残しが1300億円であることがわかった。もともと、防衛費増額はアメリカのバイデン大統領の要請で始まっており(ホワイト・ハウスと官邸は否定しているがバイデン大統領が高齢ゆえの「率直さ」で認めてしまっている)現場の実情を無視した増額に無理があったことがわかる。内容はまだ精査されていないようだが自衛隊の隊員が足りておらず契約手続きすら滞っていたようだ。にも関わらず林官房長官は「増税の必要性」を訴えたそうだ。

問題を調査もしないのに結論だけが先に出ている。岸田政権ではよくあることである。

しかし問題はこれだけではない。

問題のソースは2つある。それが統治の内部崩壊だ。

1つはパワハラ問題である。調査を進めれば進めるほどパワハラが内部文化として浸透していた事がわかっている。この問題の源流は現場の隊員不足だ。これを補おう女性自衛官を増やしたところセクハラが横行した。五ノ井里奈さんのケースなどはBBCが取り上げるほどの騒ぎになった。この五ノ井里奈さんのケースを内部隠蔽していたことがわかりパワハラを調査したところ内局にまで浸透してきた事がわかってきている

もう一つは海上自衛隊と「不正受給」「裏金の問題」である。当初は資格のない人に特定秘密を扱わせていたという問題だったが、次第にお金絡みの話が浮上してきている。

まず、実態のない潜水訓練による不正受給の問題が浮上した。数十人・数千万円規模ということなので一人あたりの不正受給学はかなりのものになるのだろう。

さらに川崎重工が十数億円の裏金を使って海上自衛隊の接待を行っていたという問題がでてきた。現在特別監察が入っている。仮に事実とすれば自衛隊側は収賄ということになる。「裏金は年2億円程度、数年間で十数億円に上る」ということなので、すでにかなりの額を川崎重工が貢いでいたことがわかる。

収賄問題が明らかになれば防衛費増税など国民は到底納得しないだろう。自民党の増税派の人たちは頭を抱えているそうだ。

自衛隊は文民統治されているというがこれでは文民放置である。ではなぜこのような状況が生まれたのか。

自衛隊は警察予備隊として発足した。マッカーサー司令の命令は「治安部隊の創設」だった。つまりその銃口は有事の際に国民に向けられる。これを正面から説明できなかった吉田茂首相はマッカーサー指令という形で国会を通さずに警察予備隊を設立した。このため自衛隊は憲法上に位置づけられず曖昧な状態で放置された。

安保改正時には岸信介首相の力量不足から国民の反発を招く。運動は次第に「反岸運動」に変質した。安保改正のあとに続く憲法改正は棚上げとなり後継の池田勇人首相は経済を優先した。

アメリカからの要請を受けた安倍晋三総理は国民への丁寧な説明ではなくむしろ国民分断を煽ることでアメリカの要請に応え自身の権力基盤を確保しようとした。リベラルを反体制勢力と位置づけ対立を煽ったのだ。

このような経緯から自衛隊の憲法上の位置づけに関する議論は次第に強固な政治的タブーに変質してしまう。自民党は現在改憲4項目の中に憲法第九条を加えている。しかしもともと護憲政党だった公明党の抵抗もあり「単に憲法に書き加えましょう」ということになっている。さらに政治的リソースを必要とするところから緊急事態条項を先に通すことになっている。感情的なしこりは今でも解けないままだ。

憲法上に位置づけがないのだから問題を起こしても政治がこれを処理することはできない。このため「自衛隊は問題を起こすべきではないし問題を起こさないはずだ」という架空の物語が導入された。この「政治的動機に基づく性善説」により実質的に統治者がいない文民放置の状況が生まれてしまったのである。

今回の問題の根源はやはり安倍晋三総理だろう。もともと日本の改憲運動は3つの異なる運動の集合体だ。アメリカの影響を排除して旧秩序を取り戻したい国家神道、アメリカとの関係を維持して戦後に作られた秩序を維持したい人たち、お金がかからない改憲でアジアの強国の地位が維持できると無邪気に信じている大衆である。安倍晋三首相は本来まとまるはずがないこれらの人たちを「リベラル」を刺激することでかろうじてまとめ上げた。これが「虚」が全体をまとめるからくりである。

ところが岸田首相は大衆の期待を裏切りあろうことか防衛増税を提唱した。これは改憲でアジアの強国の地位を無料で維持できると考える大衆の期待に反する。岸田総理が護憲派の星として認識されなくなったのはこのためだろう。現在岸田総理の護憲運動を支持しているのは親米派と旧体制維持派だけだが多数派ではない。ネット改憲派は増税と軍備拡張の組み合わせを受け入れることはできない。

政治とネットがが自衛隊と憲法をおもちゃにしている間「自衛隊は決して問題を起こさないはず」という神話は内部から腐っていったようだ。まず足元では現場で働く兵士に当たる階層の人たちが足りない。単純に待遇が悪すぎるのだ。現場管理職に当たる曹も足りてはいないがそれでも7割近い充足率がある。

任期がない一般曹候補生の採用率は69%、任期制の自衛官候補生は30%と低迷した。

ただし待遇が悪いだけなら待遇を改善すれば問題は解決する。だが内局でパワハラが横行しているところを見るとトップの人達の士気もかなり低下しているのだろうということがわかる。

自衛隊幹部は上司である政府に不満があってもそれを口にすることは許されない。憲法上の位置づけが曖昧なため「ちょっとした政治的な発言」が大問題に発展する可能性があるからだ。幹部たちの中には形式的に休暇届を出したうえで公用車で靖国神社を参拝する人たちも現れており、トップの自衛官たちが何を考えているのかは外からは伺いしれない。

今後の争点は2つある。まず現在蓮舫ショックでパニックに陥っている立憲民主党を筆頭とした野党は増税阻止のためにこの問題を利用できる。ただし彼らもまた「党勢拡大のために問題を利用しているだけ」という疑惑の目にさらされている。蓮舫ショックの根幹には「立憲民主党は所詮この問題を党勢拡大に利用したかっただけで都民には関係がない」という冷めた味方があったのではないだろうか。

もう一つの問題は改憲勢力がどこまでこの問題を無視し続けるだろう。彼らは少ない情報処理能力ゆえ夾雑物をなかったことにしたうえで架空の純粋な物語に耽溺している。言い換えれば彼らは単純な物語しか扱えない。彼らにとって自衛隊の統治の崩壊は「あってはならないもの」なのだからこのまま見て見ぬふりを続けるのではないかと思う。

問題は多岐にわたるが一度複合連鎖を起こすと環境(エコシステム)が複合崩壊を起こす。一旦崩れた山体崩壊を食い止める手段はない。この段階で「問題の根幹がどこにあったのか」を議論することにはさほど意味はない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です