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対話と意味の解体 大人たちはなぜ石丸伸二旋風に戦慄するのか

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都知事選から一夜明けたテレビでは盛んに都知事選の分析が行われていた。話題の中心は小池都政3選目の課題でも国政への影響でもなく「石丸伸二旋風」だった。その反応は「怯え」だったと言って良い。

国政への影響についてテレビが語れなかったのは当然だ。都議会議員補選では自民党が惨敗した。だが都知事選で立憲民主党・共産党も勝てなかった。

今回選挙に出かけた人たちは前回より50万人ほど多いだけだったそうだがこの50万人が大人たちを慌てさせたことになる。

ではその戦慄の正体とはなにか。それは一言で言えば石丸氏の「論破力」に対する恐れだろう。

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今回の投票率は60%で前回より5ポイント高かった。有権者1,000万人とすると前回は550万人が投票し今回は600万人が投票した。つまり50万人ほど動員数が増えた。石丸氏のYouTubeによって投票に行こうと思った人が多いという分析もある。

動員された無党派を最も多く獲得したのが石丸伸二氏だった。NHKが伝える検索ワードを見ると街頭演説のスケジュールを探して会いに行った人が多かったことがわかっている。実数はわからないが多くの人々が石丸氏に掘り起こされたということだ。

獲得支持の割合を見ると、町工場などが多い城南(大田区・品川区)中央3区(千代田・中央・港)城西(目黒・杉並・世田谷)など働く単身者が多い地域での支持率が高かった。現状に不満を持つ低所得・情弱の人だけが石丸氏を支援したわけではなさそうだ。

だがマスコミが石丸氏支援の情勢分析をすることはなかった。盛んに「石丸氏の何が良かったのかわからない」という声が広がっていた。中には「テレビを見ない若者がうっかり投票したのだろう」と考える人もいる。玉川徹氏と田崎史郎氏は「ネットはエコーチェインバーを作り健全ではない」という意見で一致している。このため、SNSのXでは「若者が悪いというのか」と不快感を示す人もいた。

何が良いのかわからない

田崎史郎氏が「石丸氏は演説が下手だった」と言っている。演説が単調で「続きはネットで」といっているだけだというのだ。ネットを見ても切り取り型のフレーズが多く内容が伝わってこない。

「アレの何がいいのぁ」ということになる。

だが普段からYouTubeを見ている人たちはそうは感じないだろう。ネットでは情報が溢れている。だから強い調子の言葉だけでは疲れてしまう。今回蓮舫陣営はこれで失敗した。彼女の支援者はやたらと熱量が高く「暑苦しくて疲れる」のである。

石丸伸二氏はとにかくSNSでの拡散を意識したと言われている。

安芸高田市長時代から切り抜きを許可した。切り抜き職人はとにかくバズる動画を拡散させれば収入になる。安芸高田市長としての石丸さんは政治をしているのではなく「バズる動画の元ネタ」を提供していたと言っていい。だが、YouTubeのアルゴリズムでは一度動画を見るとそれに関連する動画がレコメンされてくる。そのうちに「石丸さんが主流なのだ」「それを取り上げないマスコミはおかしい」という感覚が生まれる。

今回は積極的に石丸さんを支援した人派実はそれほど多くなく「みんなが石丸推しだから」という理由で流された人も多いのかもしれない。

主張が極端

1分程度にまとまる話しかバズらないのだから主張は極端なものになる。テレビの識者たちは政策的に全く内容がないのになぜこの人が支持されるのだろうと感じたようだ。

石丸氏の主張は要するに「今の政治であなた達が報われることはない」というものだ。配られた手札がクソみたいなものだから勝てない。だったら全部配り直せ。そういうことだ。

ただ石丸氏は「リセット」という言葉は使わなかった。単に「あいつらが悪い」「あいつらがだらしない」と言い続けていただけである。石丸氏は「誰がいいもの」で「誰がわるものか」という日本人独特の感情に直接訴えかけている。

だが直感的に「自分たちの声が届かなくなっている」ことが理解できる

この2つを合わせるとなぜ大人たちが慌てたのかわかってくる。自分たちが知らないところで石丸氏は密かに浸透していた。熱量もなく内容もスカスカだがそもそも石丸氏の支援者はそんなことには興味がない。とにかく「大人たちのせいで自分たちが被害を受けている」と感じている。

さらに、拡散の担い手はお金儲け目的の素人でおそらく安芸高田市には縁もゆかりも無い人たちだった。単に面白おかしく「悪者」「だらしないもの」を断罪できる内容がいい。

大人たちは「おそらく自分たちが政策や政局について説明してもこれまで政治に興味がなかった無党派層は理解しないだろう」ということだけは理解できた。「政治ムラ」を形成する大人たちそこに人々を引き込みたがる。政治ってこんなものですよと偉そうにうんちくをたれていい気分に浸りたい。だから彼らは熱心に勧誘するのだ。そして若者はそんな大人が嫌いだ。

石丸運動の担い手になったのはおそらく「お金儲け」目的の切り抜き職人たちである。彼らはそもそもバズる動画のネタがあれば良く議員を恫喝する石丸市長に清々しさを感じている。さらにみんなが石丸さんって言っているから私も石丸さんに投票しようという人が加わった。

また冒頭に紹介した調査によると無党派は既存政治の「右・左」を理解していない。そもそも今の政治全体が意味不明なのだ。

では石丸氏の本質とはなにか。

石丸氏の選挙後の彼のインタビューを見るとそれがよく分かる。政治記者やアナウンサーが質問をすると石丸氏は決まって「その質問には意味がない」と対話を解体してしまう。そもそも彼は対話を望んでいない。対話はバズらないし理解するのは疲れる。ネットには様々な情報が溢れているのだから相互理解などしている時間はない。次から次へと「誰が悪いのか」判断してゆかないとその日の情報量がこなせない。

むしろ「これまでの政治ムラの意味のわからない対話を撃破・論破」したときだけその爽快感が話題になり切り抜き職人たちの明日の生活費になる。石丸氏に対する嫌悪感の背景は「対話と意味の解体」だろう。

それほどまでに政治は我々の生活から遠い存在に成り下がっているのである。

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